GX-ETSでJ-クレジット需要は増える?2026年のカーボンクレジット市場を解説
[このレポートを書いた専門家]

- 専門領域
- 気候変動、自然資本、サステナブルファイナンス
- 役職名
- 研究員
- 執筆者名
- 山根 未來 Miki Yamane
2026.4.30
2026年4月から、日本版排出量取引制度(GX-ETS)の本格的な運用が始まりました。新聞やメディアでも「GX-ETS」という言葉を最近、見かけた方もいらっしゃるのではないでしょうか。
この制度は炭素(二酸化炭素や温室効果ガス)に価格をつけ、経済の仕組みに組み込む手段の一つです。この制度のように、経済の仕組みを利用した排出削減を促す取組みは国内だけではなく、世界でもさまざま始まっています。その一つが「カーボンクレジット」です。
本記事では、国内と世界のカーボンクレジット市場のトレンド3つをそれぞれ紹介します。カーボンクレジットについて初めて知る方にも分かりやすく解説します。
流れ
- 2026年度、カーボンクレジット市場で注目すべき3つのポイント
①【国内】GX-ETSとJ-クレジット:J-クレジットの需要は実際に増えるのか?
②【海外】パリ協定6条クレジットが「実装とNDC活用の段階」へ
③【国内&海外】二国間クレジット制度(JCM)の取組みが加速 - 実用化が進む国内外のカーボンクレジット市場
過去のコラムでカーボンクレジットの概要を紹介しています。あわせてご参照ください。
2026年度、カーボンクレジット市場で注目すべき3つのポイント
2026年度のカーボンクレジット市場を見るうえで、重要なキーワードは3つあります。
国内では、GX-ETS※1が本格化します。その影響で、制度で利用が認められている「J-クレジット」と「二国間クレジット制度(JCM※2)」への関心が高まっています。また世界では、パリ協定6条に基づく国際的なクレジットに注目が集まっています。
【図表1】2026年度のカーボンクレジット市場の注目キーワード3つ
※1 GX-ETSにおけるGXとは、「Green Transformation(グリーントランスフォーメーション)」の略。ETSは、「Emissions Trading System(排出量取引制度)」の略。
※2 JCMとは、「Joint Crediting Mechanism(二国間クレジット制度)」の略。
※3 NDCとは、「Nationally Determined Contribution(国が決定する貢献)」の略。各国が自主的に設定する温室効果ガス削減目標を意味する。
①【国内】GX-ETSとJ-クレジット:J-クレジットの需要は実際に増えるのか?
GX-ETSとは、二酸化炭素(CO2)を多く排出する企業が対象となり、決められたCO2の排出枠をもとに排出削減を行い、その過不足分を他の企業と売買する制度です。日本政府はこの制度を通じて、脱炭素型の産業構造への移行を目指しています。
2026年度から始まる第2フェーズ※4では、事業活動の中で直接排出しているCO2量(Scope1)が10万トン以上の企業が義務の対象となりました。電力やエネルギー、鉄鋼、素材分野などの企業300~400社が含まれ、日本全体の排出量の約6割をカバーする見込みです。
また本制度は排出削減が困難な場合、排出枠の購入に加え、「J-クレジット」「二国間クレジット制度(JCM)」を排出量の10%まで使用し、相殺(オフセット)※5できる仕組みです。この流れを受けて、特に「J-クレジット」は当面の実務で使いやすく、制度義務化を契機に需要の増加が期待されています。
J-クレジットの需要の展望を見据える中で重要となってくるのが「排出枠の上下限価格」です。なぜならGX-ETSでは、排出枠価格が高騰した場合でも、その上限価格を支払えば義務を履行したことになるからです。2025年12月、経済産業省はGX-ETSの排出枠の上下限価格の案を示しました。2026年度の上限は1t-CO2あたり4,300円、下限は1,700円です(図表2)。一方、J-クレジットの価格※6は2026年4月2日時点で、省エネルギーは4,800円、再生可能エネルギー(電力)は5,199円と、GX-ETSにおける排出枠の上限価格を上回っています。このため、現時点ではGX-ETS第2フェーズにおける義務の対象企業がJ-クレジットを購入する経済合理性は高くありません。上限価格の水準とJ-クレジットの足元の価格動向を踏まえると、GX-ETSでJ-クレジット需要が本格化するのは、しばらく時間を要すると考えられます。
J-クレジットの価格を決めるのはGX-ETSにおける需給バランスだけでなく、クレジットの創出費用、品質、プロジェクトの種類、購入者のクレジットの活用目的も影響します。そのためJ-クレジットの価格が排出枠の上限価格に必ずしも収斂しません。J-クレジットそのものの需要喚起のためには、J-クレジット独自の魅力や付加価値を付けていく必要があるでしょう。
【図表2】GX-ETSにおける排出枠の上下限価格(案)の推移と直近のJ-クレジット価格
(出所)経済産業省 GX グループ(2025)「排出量取引制度における上下限価格の水準(案)」をもとに筆者作成
※4 GX-ETS第1フェーズ(2023~2025年度)では、企業が任意で参加し、自主的に設定した排出削減目標に取り組む形態であった。排出枠の義務的な割当や罰則はなく、第2フェーズ以降の義務化に向けた「試行」の位置づけとして機能していた。
※5 相殺(オフセット)とは、できる限り温室効果ガス(GHG)排出量の削減に努め、そのうえでどうしても排出せざるを得ない分を、排出量に見合った削減活動に投資することで埋め合わせる考え方。
※6 J-クレジットは、GHG排出削減を実施するプロジェクトや技術の内容によって、さまざま種類が存在する。東京証券取引所では、J-クレジットの種類を「省エネルギー」「再生可能エネルギー(電力)」「再生可能エネルギー(熱)」「再生可能エネルギー(電力・熱混合)」「森林」「再生可能エネルギー(電力:木質バイオマス)」「農業(中干し期間の延長)」「農業(バイオ炭)」「その他」の9つに区分し、市場を運営している。
②【海外】パリ協定6条クレジットが「実装とNDC活用の段階」へ
次にグローバルに焦点を向けたカーボンクレジットの動きについて紹介します。
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長年「ルール設計の段階」であったパリ協定6条がついに「実装とNDCへの活用の段階」へと移行しており、2026年はまさにその転換点となっています。
2024年11月バクーで開催されたCOP29では、パリ協定6条の合意がなされ、完全運用化が決まりました。6条はカーボンクレジットの国際的な取引に関する詳細ルールを定めています。6条に沿った形で発行されたカーボンクレジット(以降、6条クレジット)は、各国のGHG排出削減目標(NDC)に活用できるのが特徴です。つまり、6条クレジットのルールに沿って他国で創出されたGHG排出削減量を移転し、自国のNDCの目標達成にカウントすることができます。
6条クレジットはNDCの目標実現に向けた大きな後押しになることもあり、日本を含め各国が6条クレジットの運用に向けて制度づくりなど準備を進めています。
6条クレジットには具体的に「6条2項」と「6条4項」の2つの仕組みの活用が期待されています(図表3)。2025年以降には、実際に6条クレジットを発行し、各国のNDCへ活用する事例も出てきました。
【図表3】パリ協定6条2項・4項に沿ったクレジットの発行・NDCへの活用事例
(出所)United Nations Climate Change (2026)「UN carbon market approves first-ever issuance of credits under the Paris Agreement」などをもとに、筆者作成
③【国内&海外】二国間クレジット制度(JCM)の取組みが加速
国内ではGX-ETS第2フェーズにおける適格クレジットとして、そしてグローバルではパリ協定6条に沿ったクレジットとして、JCMクレジットへの期待が高まり、取組みが加速しています。
JCMとは日本とパートナー国の間で、双方の企業や政府が技術や資金の面で協力して対策を実行し、得られるGHG排出削減量をカーボンクレジットとして、両国の貢献度合いに応じて分ける仕組みです。日本は32か国(2026年4月時点)とJCMの協定を結んでおり、世界で最もパートナー国が多い国です(図表4)。政府は、JCMの活用による累積のGHG排出削減量を、「2030年度までに1億トン、2040年度までに2億トン」という野心的な目標を掲げています。
【図表4】JCMパートナー国32か国一覧(2026年4月16日時点)
(出所)日本政府指定JCM実施機構(2026)「二国間クレジット制度(JCM)2026(2026年4月発行)」
JCMによる削減量(クレジット発行量)の実績は現状、J-クレジットと比較し限定的です。一方で上述したGX-ETSの動きによって、民間企業の取組みが活発になっています。例えばASEAN地域では、水田での水管理によりメタン排出の削減を行う手法(通称「AWD(間断灌漑)※7」)を活用した、企業のJCMプロジェクトの参画事例がここ数年で多く見られるようになりました。農業分野のカーボンクレジットを、実際のGX-ETSなどの制度活用につなげようとする流れが読み取れます。
また日本政府は、パリ協定6条に沿った形でJCMクレジットを発行し、日本およびパートナー国のNDC達成に向けた活用を目指しています。実際、2025年11月には日本-タイ間で、2026年1月には日本-モルディブ間で6条に沿った形でJCMクレジットが発行されました。こうした実際の成果を受けて、JCMを活用した6条クレジットのさらなる創出が期待されています。
※7 AWD(Alternate Wetting and Drying:間断灌漑)とは、数日おきに水田に水を満たした状態と水を落として干した状態を繰り返すという手法。土壌に存在する嫌気性のメタン生成菌の働きを抑え、メタンガス発生量を減らすことができる。
実用化が進む国内外のカーボンクレジット市場
国内ではGX-ETSに大きな注目が集まっていますが、世界に目を向けると、NDC達成に向けた6条クレジットの実装も着実に進んでいます。多くの国が2030年を目標年とするNDCを掲げる中、残された数年で排出削減を進めることは喫緊の課題です。
J-クレジットは、これまでの自主的な活用に加え、GX-ETSの適格クレジットとしての新たな役割を担い始めています。また、JCMについても、GX-ETSでの活用に加えて、6条クレジットとしてNDC達成に活用されることへの期待が高まっています。
こうした動きを踏まえると、2026年は「カーボンクレジット実用化が本格的に進み始める年」と位置づけられるでしょう。
【参考文献】
- KliK(2025年7月7日)「Ghana and Switzerland Pioneer Africa’s First ITMO Issuance Under Paris Agreement's Article 6.2 for NDC Use」
- KliK(2026年4月2日)「Bangkok E-Bus Programme: New ITMO issuances for NDC use」
- United Nations Climate Change(2026年2月26日)「UN carbon market approves first-ever issuance of credits under the Paris Agreement」
- 環境省(2025年11月11日)「二国間クレジット制度(JCM)において初となる国際的に移転される緩和成果(ITMOs)の発行およびタイにおけるJCMへのビジネス参画促進に関するフォーラムおよびビジネスマッチングの開催について」
- 環境省(2026年1月9日)「二国間クレジット制度(JCM)において2件目のパリ協定に沿ったクレジット(ITMOs)の発行および日・モルディブ間の第5回合同委員会の開催結果について」
- 環境省、経済産業省、農林水産省、外務省、日本政府指定JCM実施機構(2026年2月)「二国間クレジット制度(JCM)の概要と最新動向」
- 経済産業省 GX グループ(2025年12月19日)「排出量取引制度における上下限価格の水準(案)」
- 日本政府指定 JCM 実施機構(JCMA)「二国間クレジット制度(JCM)2026(2026年4月発行)」
- 日本取引所グループ「カーボン・クレジット市場日報」(2026年4月2日アクセス)
- 農林水産省(2024年6月28日)「農業分野の二国間クレジット制度(JCM)の始動」
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