日本経済の変遷と人手不足時代の人財戦略:AI活用と人的資本経営の展望
[このコラムを書いた研究員]

- 専門領域
- 未来予測(金融、自動車、高齢化等)
- 役職名
- シニア研究員
- 執筆者名
- 中川 淳 Jun Nakagawa
2026.7.21
戦後80年以上が経過しましたが、日本はその間に経済の大きな変動を経験しました。
おおむね、1)高度成長およびショック克服後の全盛期 ⇒ 2)バブル崩壊と長期にわたるデフレ ⇒ 3)現在の人手不足とインフレ、と整理できます。
特に現在の人手不足の急な顕在化は多くの人にとって想定外のものだったのではないでしょうか?
そうした変動に伴い、企業は人財戦略を変えて適応を図り、今に至っています。現在の「人的資本経営」もそうした人財戦略の1つということができます。
このコラムでは経済状況の変遷と企業の人財に関する対応について振り返るとともに、今後はどうなりそうなのか、考えられる方向性を解説します。
流れ
- 戦後日本の高度経済成長とバブル期における人財戦略
- 「失われた30年」とデフレ下で進んだ雇用調整と非正規化
- 人手不足が顕在化した2020年代と人的資本経営の重要性
- 人口ピラミッドから見る労働人口減少と人手不足の将来
- 人手不足を補うAI活用と今後の人財戦略
戦後日本の高度経済成長とバブル期における人財戦略
1945年8月に太平洋戦争が終結、日本は戦後の大混乱を経て、やがて高度成長期に突入しました。その後1970年代に各種の経済的ショックを受けながらも1980年代には相対的に世界の中で優位に立ち、80年代後半には「バブル経済」も経験しました。
高度成長期には企業は全国からの大量採用を実施し、そのため寮・社宅といった福利厚生が強化されました。日本経済の全盛期には経済のサービス化(第三次産業の比重増)が進んだこともあってブルーカラーからホワイトカラーへシフトしつつ、人財強化が続きました。
「失われた30年」とデフレ下で進んだ雇用調整と非正規化
しかし90年代にバブルが崩壊、いわゆる「失われた30年」が続き、「就職氷河期」と呼ばれる状況も経験しました。2010年代の途中から「アベノミクス」による景気刺激もあって景況はやや好転したものの、デフレ脱却には至りませんでした。
そうした状況下では多くの企業が「リストラ」を実施、非正規雇用を増やして人財の流動化を進めました。2010年代の景況好転で人手不足が意識されるようになりましたが、高齢者・女性・外国人財の非正規雇用を増やすことで雇用が補われたこともあって賃金上昇は抑制されたものとなりました。
人手不足が顕在化した2020年代と人的資本経営の重要性
状況が大きく変わったのは2020年代です。2020年に新型コロナで急速な需要喪失をみた後、その回復過程では想定外の供給不足でインフレに転じました。また人手不足が顕在化し、それはたとえばIT業界、建設、運輸、医療・介護、宿泊・飲食サービスといった業界で特に顕著です。
そのため人財の確保・育成・定着があらためて大きな課題となっています。もちろん賃金の上昇で対処することが第一ですが、それだけでは十分ではありません。
そうしたことから最近では人財に注目した経営として、「人的資本経営」の重要性が提唱されています。それは人財を「資本」として重視して育成・活用することにより企業の長期的価値向上をめざすものであり、多くの有力企業はその実践に努めています。また技術革新や急激な経済環境の変化に対応するためには優れた人財の育成・活用は必須です。
以上の状況をまとめたのが図表1です。
| 時期 | 日本経済の状況 | 人財に関する企業の対応 |
|---|---|---|
| 戦後~1980年代 | 高度経済成長、人は地方から都市部・工業地帯へ。オイルショック等で減速も、80年代に日本の強さが目立ち、後半にバブル経済。 | 人財の量確保に課題が変化。全国から若年層中心に大量採用、寮・社宅を整備。メンバーシップ型雇用定着、「日本的経営」が話題。 |
| 1990~2010年代 | 90年代にバブル崩壊、一部の金融機関破綻。長期にわたり低成長でデフレ継続。 | 新卒抑制に加え「リストラ」で人員削減も。 非正規雇用が増え、雇用の流動化が進む。 |
| 2020年代 | コロナ禍後、供給制約が顕在化、インフレ復活。多くの企業は業績好調、AIが話題。 | 新卒減、人財プール枯渇。人財の確保・育成・定着が再度課題に。「人的資本経営」に注目。 |
(出所)各種資料を基にMS&ADインターリスク総研作成
企業が置かれた経済状況によって人財戦略を修正していることに「場当たり的」との批判があるかもしれません。しかし企業はその発展のために柔軟な戦略変更を必要とすることも事実です。
人口ピラミッドから見る労働人口減少と人手不足の将来
さて、それでは今後の人財戦略はどうなっていくのでしょうか。特に人手不足は継続するのでしょうか。
もっともわかりやすいのが現在の人口ピラミッドを確認し、人口動態を予想することです。図表2をみる限り「生産年齢人口」と言われる15~64歳の層は今後も減少していくことが確実で、供給面から見る限り人手不足は続きそうです。
65歳以上および女性の労働参加率が現在以上に高まれば一部補うことができますが、そろそろ限界に近づいています。特に50歳前後の層(「団塊ジュニア」)の多くが引退を迎える10~20年後には相当厳しい状況になりそうです。よってその面からは人財重視の姿勢が変わることは考えにくいです。
図表2:日本の人口ピラミッド(2025年)


(出所)国立社会保障・人口問題研究所の資料「人口ピラミッド画像」より抜粋、一部加筆
人手不足を補うAI活用と今後の人財戦略
現在話題となっている人工知能(AI)の発展が人手不足を補うと予想できます。そうなると、人が対応しなければならないものは人が対応し、AIやロボットができることはそちらに任せるといった棲み分けが行なわれる可能性が高いと考えられます。具体的には、建設現場ではAIを活用したデジタル化(例:カメラとAI解析による確認・検査)で効率化と安全性向上を図っています。飲食サービスでもデジタル端末への入力で顧客が注文することが多く見られるようになり、配膳をロボットが行なう事例も出ています。
そして企業はそうした状況を前提に人財戦略を練り、働き手は自分の能力を生かすためにどうすべきかを現在以上に検討することになりそうです。
経済や社会情勢によって多くのものが変わっていきます。未来において人々がその能力を発揮し、より幸せを感じることができることを期待しています。