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「適応」「レジリエンス」への注目さらに高まる―London Climate Action Week 2026 から見えた、気候変動のトレンド—【リサーチレター(2026年8月)】

[このレポートを書いた研究員]

山根 未來
会社名
MS&ADインターリスク総研株式会社
部署名
基礎研究部 基礎研究グループ
執筆者名
研究員 山根 未來 Miki Yamane

2026.8.3

2026年6月20日から28日までの9日間、英国ロンドンで開催された London Climate Action Week 2026(ロンドンクライメートアクションウィーク 2026。以下、LCAW)に筆者は参加した。LCAWは欧州最大級の気候変動イベントであり、ロンドン中心部の各地で気候変動に関する多様な会合が開催される。中でも、LCAWはボンでの国連気候変動交渉会議※1の後、国連総会※2や国連気候変動枠組条約締約国会議(COP)※3の前に位置することから、国際気候外交の「中間地点」として重要な意味を持つ。政策、金融、企業、市民社会が同じ都市で議論を交わす場であり、実務の最前線で何が起きているかを把握するうえで極めて示唆に富むイベント週間であった。

参加した会合を通じて強く印象に残ったのは、脱炭素の重要性が引き続き前提である一方で、議論の重心が明確に「適応」と「レジリエンス」に移りつつあることである。近年の豪雨や酷暑といった極端な気象は世界全体で、事業継続や、調達・物流、設備投資など、事業活動の基盤そのものを左右し始めている。適応の論点は、もはやサステナビリティ担当者だけの話ではない。また適応分野は、酷暑対策、自然災害に向けたインフラ強靭化、エネルギー安定供給、気象観測・監視・早期警戒システムなど、幅広い領域で新たなビジネス機会を生み出しつつある。本稿では、LCAWで見えたこうした「適応×ビジネス」の潮流を整理する。

1.LCAWとは

LCAWは、英シンクタンクのE3G(Third Generation Environmentalism)が主催する気候変動イベントであり、2019年に始まり、今年で第8回目を迎えた。開催期間中、ロンドン中心部の各会場では、自治体レベルのコミュニティ集会から、各国閣僚級の会合、国際機関や企業による大規模会議まで、幅広いイベントが同時多発的に行われる。都市全体が気候変動への関心を可視化する場となっている点に、このイベントの特徴がある。主催団体のE3Gによると、今年のLCAWでは対面・オンラインを合わせて10万人以上が参加、1,300超のセッションが開かれた。

また、LCAWは単なる政策フォーラムではない。ビジネスの世界においても、新サービスの発表、新たな連携の形成、新レポートの公表など、具体的な動きが集中する。今回も、企業や国際機関、NGO、政府関係者などによる、それぞれの立場における新しい取組みのアナウンスが多数みられた。

2.暑さの現状

(1) 2026年は記録的な熱波の中で開催

今回のLCAWでは、欧州における酷暑が現実の問題として強く意識された。LCAW開催期間中は、英国気象庁が猛暑に関する全国的な異常気象警報を発令した時期と重なった。熱波に関する報道が連日のように流れ、同期間中、人々の生活に様々な影響をもたらした。ロンドン交通局は、熱波による一部運休・大幅な遅延を考慮し、電車の鉄道利用者に不要不急の移動を控えるよう呼びかけた。実際、冷却空調設備の無いバスや電車路線も多く存在する。さらに、酷暑により学校が閉鎖され、病院が逼迫する事態が発生した。欧州各国では公共施設や住宅などにおけるエアコン普及率が低く、暑さへの社会的な備えが十分ではないため、高齢者や児童への健康影響が深刻化しやすい。LCAWイベント会場内でも暑さが頻繁に話題となり、一部イベントは熱波の影響で開催を取りやめたとも報じられている。

(2) サイエンスに基づいた「暑さ」の現状 -IPCC議長の発言より

地球温暖化が深刻化している中で科学者たちは将来をどう見ているのか。LCAW期間中に開催されたUNEP FI Global Roundtable 2026では、IPCC※4のジム・スキー議長が登壇し、科学的視点を踏まえた今世紀における気温上昇の展望について言及した。同氏は、1.5℃の気温上昇を短期的に超えること(オーバーシュート)は避けられないと明言した。その一方で、パリ協定の1.5℃目標※5が失われたわけではないとも述べ、炭素除去※6の重要性を強調した。つまり、温室効果ガス(GHG)排出削減だけでは不十分であり、将来の気温上昇を抑えるためには、炭素除去技術の活用が不可欠であるという認識である。

【図表1】LCAWにて開催されたUNEP FI Global Roundtable 2026の様子

【図表1】LCAWにて開催されたUNEP FI Global Roundtable 2026の様子
【図表1】LCAWにて開催されたUNEP FI Global Roundtable 2026の様子

(撮影:Mariana Castaño Cano / 10Billion Solutions for UNEP FI)

スキー氏はUNEPの分析内容を引用し、具体的なシナリオについて説明した。現行の政策によるGHG排出削減努力が行われた場合、2100年時点で約2.8℃の上昇、各国が決定した削減目標(NDC)を達成した場合は2.3~2.5℃の上昇、すべてのネットゼロ(実質排出ゼロ)目標が実現した場合は1.8~1.9℃程度の上昇幅となる。最終的な気温上昇幅を1.5℃水準に引き下げるためには、炭素除去の本格的な活用が前提となる。ただし、炭素除去が地球システムにどのような反応を引き起こすかは十分に解明されておらず、オーバーシュートの不可逆的影響についても不確実性が残る。さらに大気中から二酸化炭素を除去するための技術についても、まだ多くの課題が残されている。

重要なのは、暑さがもはや将来予測ではなく、現在進行形の経済・社会課題になっている点である。酷暑は単なる不快さの問題ではなく、交通、医療、教育、労働、インフラ全般に波及する。LCAWの議論は、こうした物理的リスクが欧州でも現実化していることを、あらためて印象づけるものであった。

【図表2】産業革命前水準と比較した際の、21世紀末における温度上昇(℃)

【図表2】産業革命前水準と比較した際の、21世紀末における温度上昇(℃)
【図表2】産業革命前水準と比較した際の、21世紀末における温度上昇(℃)

※UNEP資料では「NDCの達成」シナリオには「無条件NDCシナリオ」と「条件付きNDCシナリオ」の2つが示されている。図表の「NDCの達成」のシナリオの概要は「無条件NDCシナリオ」の内容を紹介している。「条件付きNDCシナリオ」とは、無条件NDCシナリオに加え、資金、技術移転、能力構築などの国際的な支援(を受けること)を実施の条件とするNDC目標も含まれる。

(ジム・スキー氏の講演内容及びUnited Nations Environment Programme (2025)「Emissions Gap Report 2025」を基に筆者作成)

3.焦点は「適応」「レジリエンス」へ

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