レポート/資料

自然の力を生かした防災・減災と損害保険会社の役割【リサーチレター(2026年7月)】

[このレポートを書いた研究員]

朝倉 陸矢
専門領域
自然資本
所属
基礎研究部 基礎研究グループ
執筆者名
上席研究員 朝倉 陸矢 Rikuya Asakura

2026.7.22

国連防災機関(UNDRR)のレポートなどによると、気候変動の影響などにより、台風や豪雨、それに伴う洪水といった自然災害の被害額が増えている。こうした中、湿地や森林、雨庭、屋上緑化など、自然の機能を生かして防災・減災につなげる「自然に根ざした解決策:Nature-based Solutions(NbS)」や「グリーンインフラ」が注目されている。これらは自然災害のリスク低減だけでなく、自然環境の保全や快適なまちづくりにも役立つ。損害保険会社にとっても、自然災害による損害の増加は大きな課題であり、補償に加えて、事前のリスク低減に関わる意義は大きい。こうした取組みが社会のレジリエンス向上に資する実務的な関与であることを踏まえ、損害保険会社が果たせる役割を整理する。また、こうした役割への理解が広がることで、自然保全やレジリエンス向上に向けた取組みの裾野が広がり、多様な主体との連携・協働の促進につながることも期待される。

1.なぜ今、自然を生かした防災・減災なのか

近年、気候変動の進行などにより、台風や豪雨、それに伴う洪水や土砂災害等、自然災害の激甚化と頻発化が問題となっている。国連防災機関(UNDRR)が発行した「Global Assessment Report on Disaster Risk Reduction 2025」によると、1970年から2000年の間、自然災害によって生じた直接的な損失額は年間平均700億~800億ドルだったが、2001年から2020年の間には、1,800億~2,000億ドルとなった(物価調整済みの値)。それだけでなく、より広範な社会・生態系の損失を考慮に入れると、推計される損失額は、年間およそ2.3兆ドルに達する。

また、国内では環境の変化だけでなく、地方の過疎化や高齢化、インフラの老朽化等により、地域社会の脆弱性も高まっている。これまで、防災・減災対策はダムや堤防、護岸等のグレーインフラが中心となっていた。しかし、これだけではリスクを十分にコントロールできない局面が増えている。加えて、整備や維持のコスト、生態系への影響も課題となっている。

こうした背景から「自然に根ざした解決策(NbS)」や、その一つであるグリーンインフラを既存のグレーインフラとともに活用することが進められている。洪水緩和、土砂流出防止、気温調整等の防災・減災機能だけでなく、生物多様性保全、地域住民のウェルビーイングなど、多くの便益をもたらすものとして注目されているからだ。

日本では2015年以降、国の計画や戦略の中にグリーンインフラが盛り込まれ、近年は社会実装に向けた取組みが進められている。防災・減災や地域づくりの手法の一つとしての期待は大きい。

2.NbS・グリーンインフラとは何か、何に役立つのか

(1)NbSとグリーンインフラの基本的な考え方

NbSは、自然の持つ多機能な特性を生かし、生物多様性や気候変動だけでなく、防災・減災や食料問題、人間の健康増進などといった、複数の社会課題を同時に解決することを目指す取組みである。2009年にIUCN(国際自然保護連合)が提唱し、「昆明・モントリオール生物多様性枠組」の目標8・11にも、この要素が盛り込まれている。また、NbSの中には「生態系を基盤とした防災減災アプローチ(Eco-DRR)」「気候変動適応策(EbA)」「グリーンインフラ」なども含まれる。

NbSのカテゴリとその例
NbSアプローチのカテゴリ
生態系回復アプローチ 生態系再生
生態工学 など
問題別のアプローチ 生態系を基盤とした防災・減災(Eco-DRR: Ecosystem-based Disaster Risk Reduction)
生態系を基盤とした気候変動適応(EbA: Ecosystem-based Adaptation) など
インフラに関連するアプローチ グリーンインフラストラクチャー
自然インフラストラクチャー
生態系を基盤とした管理アプローチ 統合的な沿岸管理
統合的な水資源管理
生態系保全アプローチ 保護地域管理を含むエリアに基づく保全アプローチ(政府等による保護区域・OECM)

出典:吉田尚也編(2021).『BIOSITY No.86 NbS 自然に根ざした解決策 生物多様性の新たな地平』.ブックエンド

日本でも2015年以降、国の計画や戦略の中でグリーンインフラが位置づけられ、近年は社会実装に向けた取組みが進んでいる。国土交通省は、その定義を「自然の多様な機能を活用した社会資本」とした。このように、防災・減災にとどまらず、快適な地域づくりやウェルビーイング向上にもつなげようとしている。2020年に「グリーンインフラ官民連携プラットフォーム」が設立されたほか、2026年1月には「『グリーンインフラの活用が当たり前の社会』の実現」を目指す、2030年までの計画「グリーンインフラ推進戦略2030」が策定された。本計画では2050年の「『自然共生社会』の実現」に向け、環境整備策やグリーンインフラの実装事業に個別のKPIが設定※1されている。

※1)前者に「政令市が存在する全都道府県でGI(筆者注:グリーンインフラ)に関する融資又は金融商品を1件以上創出」など。後者に「グリーンインフラ官民連携プラットフォーム会員のうち、雨庭に関連する取組みをした会員数を500者にする」など。

(2)防災・減災や地域にもたらす効果

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