レポート/資料

ウェルビーイングの観点で 自社の仕事をとらえ直す〜人に関する開示“TISFD”フレームワークβ版(Beta Version 0.1)を起点として〜【RMFOCUS 第99号】

[このレポートを書いた専門家]

石川 善樹
公益財団法人 Well-being for Planet Earth
代表理事 石川 善樹 氏

[聞き手]

MS&ADインターリスク総研株式会社
リスクマネジメント第四部 
人的資本・健康経営グループ
主任コンサルタント 谷 侑弥

2026.10.2

要旨
  • TISFDは、TCFD、TNFDに続く、「人・社会」に関する情報開示の国際的枠組みであり、企業・金融機関が「人・社会」に関する課題を長期的な文脈で把握し、開示することを目指している。2026年5月に公表されたフレームワークβ版では、開示の柱や勧告案のたたき台が示されており、その中でウェルビーイングが重要な概念として位置付けられている。ウェルビーイングは人権や最低賃金のような最低限の基準だけでは見えにくい格差や、人々の実際の状態を企業・金融機関が理解するために有効である。
  • フレームワークβ版で注目すべきなのは、「システムレベル」で人と事業の関係をとらえる視点である。システムレベルとは、企業・金融機関が、自社の従業員や直接の取引先だけでなく、上流・下流を含むバリューチェーン全体、さらにそれを支える地域社会、制度、社会的信頼との関係の中で、自社が人や社会にどのような影響を与えているのか、また自社の事業がどのような人や社会の基盤に支えられているのかをとらえようとする考え方である。
  • 企業が自社の事業をウェルビーイングとシステムレベルの観点からとらえ直すことで、自社の仕事が誰に支えられ、誰のウェルビーイングに関わっているのかを把握することができる。その結果、従業員は自社事業の全体像への理解が深まり、日々の業務を大きな価値創造プロセスの一部として位置付けることが期待できる。

MS&ADインターリスク総研は2026年7月、ウェルビーイングの専門家であり、公益財団法人Well-being for Planet Earth代表理事の石川善樹氏にインタビューを行った。テーマは、「ウェルビーイングの観点からみた今後のビジネスの在り方」で、開発が進められている人・社会に関する情報開示の国際的枠組み 「TISFD」も踏まえながら話を聞いた。以下、その概要を紹介する。

1. TISFDによる情報開示が検討される背景

Q. まず、TISFDとはどのようなものかを教えてください。

TISFD(表1)とは、Taskforce on Inequality and Social-related Financial Disclosuresの略称で、日本語に訳すと、「不平等・社会関連財務情報開示タスクフォース」となります。気候関連財務情報開示を促してきたTCFD、自然関連のTNFDに続く「人・社会」に関する開示枠組として位置付け られ、詳細内容の検討が進められています。

【表1】TISFDの概要
TISFDとは何か
・企業・金融機関による「人・社会に関する情報」の開示を整理する、新たな国際フレームワーク
正式名称はTaskforce on Inequality and Social-related Financial Disclosures
・気候分野のTCFD、自然分野のTNFDに続く、「人・社会」に関する枠組みとしての位置付け
枠組みは、TCFDやTNFDと同様、ガバナンス/戦略/インパクト・リスク管理/指標・目標の4本柱を基本としている
・企業・金融機関と人との関係を、影響と依存で整理し、そこから生じるリスクと機会を開示
企業活動が労働者、消費者、地域社会などにどのような影響を及ぼすかに加え、事業が労働力、地域社会、社会的信頼や安定性といった人や社会に関わる基盤にどのように依拠しているかを明らかにしようとしている

(出典:TISFDフレームワークβ版を基にMS&ADインターリスク総研作成)

TISFDはその名前のとおり、「不平等」に対して強い問題意識を持っています。

人権をはじめとする世界的な取り組みがなされてきたにもかかわらず、今なお世界では格差が拡大し、十分な生活水準を確保できない就労者が多数存在します。加えて、AIの進展や気候変動が、雇用、所得などの不均衡をさらに広げるおそれがあります。しかし、企業や投資家がこうした「人に関する問題」を把握するための情報は、現状では断片的で、国際的な比較可能性に乏しい状況にあります。このような社会的背景を踏まえて、TISFDフレームワークによる開示の試みが行われているといえます。

TISFDに関するこれまでの経緯ですが、2024年9月に企業・金融機関・市民社会・労働団体などから成る、国際的なマルチステークホルダー組織が設立され、2026年5月にはフレームワークβ版が発表されました。その後、改訂が重ねられ、2027年末に最終版が公表される予定となっています(表2)

【表2】TISFDの設立から最終版公表までの主な動きと予定
時期 主な動き・予定
2024年9月 企業・金融機関・市民社会・労働団体などによる国際的マルチステークホルダー組織と してTISFDが設立
2025年10月 Conceptual Foundations Discussion Paperを公表
企業・金融機関と人、格差、社会との関係をどうとらえるかという概念の土台を提示
2026年5月 フレームワークβ版を公表
ガバナンス、戦略、インパクト・リスク管理など、開示枠組のたたき台を提示
2026年後半~
2027年
フレームワークβ版の改訂(Version0.2、Version0.3)を予定
指標・目標、実務ガイダンスなどを段階的に拡充
2027年末 最終版公表予定

(出典:TISFDフレームワークβ版を基にMS&ADインターリスク総研作成)

Q. フレームワークβ版を読むと、ウェルビーイングという言葉が何度も登場しています。ウェルビーイングの専門家である先生からみて、TISFDとウェルビーイングはどのように関係しているのか教えてください。

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