健康経営優良法人2027 ~認定制度の変更点と今後の方向性~ 【人的資本・健康経営インフォメーション(2026年9月)】
[このレポートを書いたコンサルタント]
- 会社名
- MS&ADインターリスク総研株式会社
- 部署名
- リスクマネジメント第四部
人的資本・健康経営グループ - 執筆者名
- コンサルタント 椿 健大
2026.9.1
- 2026年8月17日に健康経営優良法人2027の申請が開始された。
- 本稿では、大規模法人部門・中小規模法人部門それぞれの認定項目の変更点やその背景、今後の方向性について解説する。
- 総じて、認定要件に大きな変更はなかったが、設問構成が整理された他、政策の方向性を反映し、各部門において、設問(アンケート項目含む)に新たなテーマが追加されている。
1.健康経営優良法人認定制度の動向
2026年8月17日より健康経営優良法人2027の申請が開始された。前回の健康経営優良法人2026において大規模法人部門3,761社、中小規模法人部門23,077社が認定され(2026年5月12日時点)、制度開始以降、申請企業数・認定企業数ともに右肩上がりで増加している。大規模法人では、既に対象企業の約1/3が認定を受けており、今後もさらに認定企業は増加することが見込まれ、より健康経営の取り組みが一般化することが予想される。
一方で、中小規模法人では、認定企業数自体は増えているものの対象企業数に対する割合でみると1%にも達していない。経済産業省および認定事務局では、①インセンティブ等による動機づくり、②中小企業向けのメリットや取り組みの情報発信、③経営支援機関等との連携によるサポート体制の整備を軸に、新たに健康経営に着手する法人の裾野拡大に向け取り組んでいく方針としている。
また、健康経営優良法人認定の設問(アンケート項目含む)においては、扱われるテーマが多岐にわたり、求められるレベルの高度化も進んでいる。テーマについては、新たな法制度や中長期的な政策の方向性が反映されることが多く、特に大規模法人部門ではその傾向が強い。
さらに、経済産業省は、健康経営が資本市場等において適切に評価される環境整備を進めており、企業による情報開示の充実・標準化も重要な政策課題として位置付けている。こうした中、今年度、健康経営に関する情報開示の指針(仮称)の策定を進めており、次年度以降の設問に反映される可能性も高い。
2.健康経営優良法人2027のスケジュールおよび認定申請料
(1)スケジュール
今年度のスケジュールは概ね昨年度と変わりない。8月17日(月)に「健康経営優良法人2027」の申請が開始され、大規模法人部門は2026年10月9日(金)17時、中小規模法人部門は2026年10月16日(金)17時が締め切りとなる。
(2)認定申請料
今年度も認定申請料の変更はなく、大規模法人部門は税込88,000円(グループ会社との合算で申請する場合は、1法人あたり税込16,500円を加算)、中小規模法人部門は税込16,500円となる。なお、大規模法人部門においては、認定審査を受けず、健康経営度調査票に回答するだけでも、評価や順位を記したフィードバックシートを受領することができる(その場合、認定申請料は不要)。
3.健康経営優良法人2027における運営面の変更
(1)「健康経営銘柄Premier(プレミア)」の新設
健康経営銘柄に継続的に選定されている企業をさらに評価・ブランド化する仕組みとして、「健康経営銘柄Premier(プレミア)」が新設された。健康経営銘柄に複数回選定されるなど、長期間にわたり高い水準で健康経営を実践してきた企業を評価することで、健康経営の質のさらなる向上を促すことを目的としている。また、新たなロゴやPR資材、優先的な事例紹介等を通じて、他企業のロールモデルとなる取り組みを社会へ発信することを想定している。
選定要件は、①健康経営銘柄に通算10回以上選定、②当該年度も健康経営銘柄に選定、③地域や取引先企業等への健康経営の普及活動を実施していることの3点である。次年度以降は、ホワイト500の認定継続を条件として「Premier」の称号を維持できる仕組みとなっている。
(2)テーマ別ベストプラクティス企業の選定・公表
残り5968文字
この先は「続きを読む」を押してください。
政策的に企業の取り組みを促進したいテーマについて、先進的・実効的な取り組みを行う企業を選定し、「テーマ別ベストプラクティス」として公表する仕組みが新設された。対象テーマは、①女性の健康保持・増進、②仕事と介護・治療・子育ての両立支援、③睡眠の質向上、④高年齢従業員に配慮した健康づくり・職場環境整備、⑤その他の5つである。大規模法人部門から10社、中小規模法人部門から40社の選定が予定されており、当該法人の優れた取り組みの発信を通じ、他企業への波及効果が期待される。
なお、テーマ別ベストプラクティス選定へのエントリーを申し込む設問は各部門のアンケート項目に設定されており、優良法人認定や銘柄・ホワイト500等の選定には影響しない。この仕組みは、総合評価かつ画一的な基準で運営される認定制度とは対照的に、企業独自の取り組みを評価しようという議論を背景に生まれたものであり、多くの企業の積極的な挑戦が期待される。
4.健康経営優良法人2027における認定要件等の主な変更
(1)大規模法人・中小規模法人部門共通
「適切な働き方の実現」「長時間労働者に対する取り組み」の整理・評価項目名変更
従来、評価項目「適切な働き方の実現」の取り組みとして、「労働時間の適正化」「休暇の取得促進」「柔軟な働き方の実現」が設定されていたが、「休暇の取得促進」「柔軟な働き方の実現」を問う設問が、評価項目「ワークライフバランスの実現に向けた取り組み」として再構成された。
また、「労働時間の適正化」は評価項目「長時間労働者に対する取り組み」とあわせて、評価項目「長時間労働の予防と事後対応」として整理された。大規模法人部門では、「労働時間の適正化」(予防)と「長時間労働者への取り組み」(事後対応)の双方を実施することで適合となる。一方、中小規模法人部門では、今年度はいずれか一方への取り組みにより適合となるが、次年度は双方への取り組みが求められる予定である。
(2)大規模法人部門
優良法人の認定要件に大きな変更はなく、必須項目・選択項目(17項目中14項目の適合が必要)ともに昨年度通りである。一方、ホワイト500認定にかかる設問においては、要件追加や設問の整理が実施されている。(表1)
①自社従業員以外への健康経営の普及・浸透(ホワイト500必須要件)
ホワイト500の必須要件として、従来のグループ会社と取引先等への健康経営の普及・支援に加え、派遣社員等と従業員家族への健康支援が新たに追加された。後者は、これまでも認定要件外の設問として設定されていたが位置づけが高められた形である。新Q20では派遣社員等と従業員家族への健康支援、新Q21ではグループ会社と取引先等への普及・支援の実施状況が確認されている。
新Q20・新Q21はいずれも充足することが求められる。新Q20については、今年度は派遣社員等・従業員家族いずれかへの取り組みで適合するが、次年度以降は双方への取り組みが求められる予定である。したがって、ホワイト500を継続的に目指す法人においては、今年度の要件充足だけでなく、次年度を見据えて対応を進めることが望ましい。
②従業員への健康経営の理解・促進(ホワイト500必須要件)
「健康経営の推進方針の浸透」と「従業員への健康経営の理解・促進」に関する4つの設問が離れて設定され、内容も一部重複していたことから、評価項目「従業員への健康経営の理解・促進」として2つの設問に再構成された。新Q30では健康経営に関する情報発信方法や内容、新Q31では従業員・管理職の巻き込みや理解を深める工夫の有無を確認する。昨年度追加された新Q70「継続的な取り組みによる健康風土の醸成状況の確認」とあわせ、方針の周知から従業員の理解や組織風土への定着状況までを一体的に確認する構成となった。
③受診勧奨の取り組み(選択項目)
評価項目「受診勧奨の取り組み」の適合条件が変更され、新Q34「任意健診・検診の勧奨」と新Q35「定期健診等の結果に基づく二次検診の勧奨」のいずれの取り組みも必要となった。
④睡眠の質向上に向けた取り組み
「経済財政運営と改革の基本方針2026」において睡眠対策を含む健康経営の推進に言及されるなど、睡眠が従業員の健康やパフォーマンスを支える重要な要素として、政策上も重視されている。こうした背景から、従来「従業員の生産性低下防止のための取り組み」の一部とされていた「睡眠障害や睡眠の質向上に向けた取り組み」に関する設問が分離・新設された。具体的な取り組みとして、睡眠に関する教育・情報提供に加え、睡眠改善を目的としたウェアラブルデバイス等の活用を含め、近年のサービス・施策の多様化を踏まえた選択肢が設定されている。
表1 健康経営優良法人2027(大規模法人部門)認定要件


出典:ACTION!健康経営(https://kenko-keiei.jp/)
(3)中小規模法人部門
優良法人認定の認定要件およびブライト500等の認定要件ともに、大きな変更は見られなかった。(表2)一方、注目すべき点としては以下の項目が挙げられる。
PHRデータの導入状況(アンケート項目)
経済産業省では、デジタルヘルスの推進に向け、PHR(Personal Health Record)をはじめとする個人の健康データを活用できる環境整備を進めている。大規模法人部門では、既に設問に設定されているが、中小規模法人部門でも、今年度よりPHRデータの活用状況を把握するための設問がアンケート項目として新設された。現時点では認定要件ではなく、実態把握を目的としている。しかし、過去、アンケート項目として設定された設問がその後、認定要件に追加された事例もある。そのため、中小規模法人においても、アプリなどを活用しながら健康データをどのように従業員の健康保持・増進や施策の改善につなげるかという視点を持ち取り組むことが望まれる。
表2 健康経営優良法人2026(中小規模法人部門)認定要件


出典:ACTION!健康経営(https://kenko-keiei.jp/)
5.健康経営の深化に向けて
(1)総評
今年度の改定では、認定要件そのものの大幅な変更というよりも、設問構成の整理や設問(アンケート項目含む)を通じて今後の政策課題を先行的に把握しようとする動きがみられた。特にアンケート項目は、将来的に認定要件等へ反映される可能性があるため、現在の認定要件だけに着目するのではなく、政策的な動向を踏まえ中長期的な観点で自社の健康経営を企画・推進することを推奨する。
なお、認定取得を目指す企業は、認定そのものやホワイト500等の評価獲得だけを目的とせず、定期的に自社の取り組みを点検・見直す機会として本制度を活用すべきであることは、改めて付言したい。
(2)大規模法人部門
大規模法人では、特に人的資本経営との一体的な推進が重要となる。健康経営を福利厚生施策として捉えるのではなく、人的資本への投資を通じて企業価値の持続的向上を支える取り組みとして位置付け、経営トップが関与する体制の下で、推進することが求められる。
今年度は、派遣社員等と従業員の家族への健康支援が新たにホワイト500要件に設定され、健康経営の対象を自社従業員からグループ会社、取引先、家族等へスコープ拡大の方向性も一層明確となった。今後、こうした「社会への波及」に関する評価水準はさらに高まる可能性がある。
また、投資家をはじめとするステークホルダーに対しては、健康経営への取り組みが人的資本や企業価値にどのような影響を与えているのかを説明することが重要となる。そのために、まずは、「自社固有の経営課題・健康課題は何か」「その解決のために何を実施したか」「どのような成果が生じたか」「それが企業価値にどのようにつながるのか」という戦略的なストーリーを整理することが求められる。そして、健康診断結果や生活習慣等の健康指標だけでなく、アブセンティーイズム、プレゼンティーイズム、ワーク・エンゲージメント等の指標を継続的に把握し、施策との関係を検証し、定量・定性の双方から説明できる状態を構築する必要がある。
情報開示にあたっては今年3月に改訂された人的資本可視化指針や今後公開予定の健康経営に関する情報開示の指針(仮称)を参照いただきたい。
(3)中小規模法人部門
中小規模法人部門では、今年度の認定要件に大幅な変更はみられなかった。一方、大規模法人部門では、「睡眠」「自社従業員以外への健康支援」等のテーマが設問に追加・拡充されている。昨年度の「仕事と育児・介護との両立支援」の評価項目追加にもあるように、これまでも、大規模法人部門で先行して設問設定されたテーマが、その後、中小規模法人部門にも反映されてきた。そのため、中小規模法人においても、大規模法人部門の改定内容を今後の中小規模法人部門の改定を見通す先行情報として確認し、今できる準備を行っておくことを推奨する。
また、今年度はPHRデータの導入状況に関する設問がアンケート項目に追加されるなど、中小規模法人においても取り組みの高度化が意識されている。具体的な施策を検討する際には、経済産業省・認定事務局からの発信や自治体・保険者等が作成する事例集を参照し、自社の課題や規模に応じて取り入れられる取り組みを検討・導入することも有効である。
中小規模法人では、まずは認定の取得・継続を一つの足掛かりとしつつ、自社の経営課題・健康課題に応じた目標を設定した上で、段階的に取組水準を高めていくことが重要である。その積み重ねにより、従業員の健康保持・増進にとどまらず、働きやすさや働きがいの向上、人材の定着・採用等への波及を通じて、人手不足をはじめとする経営課題の解決につなげていくことが期待される。
※健康経営®は、NPO法人健康経営研究会の登録商標です。
PDFでもご覧いただけます