チーム総和が導く“働き手の幸せ最大化”~働き方改革関連法の成立を受けて~
[このコラムを書いたコンサルタント]
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- 専門領域
- 労働安全衛生、安全文化醸成
- 役職名
- リスクマネジメント第一部 労災・安全文化グループ マネジャー・上席コンサルタント
- 執筆者名
- 下江 真 Makoto Shimoe
2018.11.29
働き方改革関連法が2018年6月29日に成立し、来年4月以降順次施行されることになる。労働基準法をはじめとして労働8法が改正となり長時間労働の是正・非正規雇用の処遇改善・多様な働き方支援を検討した内容となった。長時間労働の是正には、罰則付きの時間外労働時間の上限規制、年次有給休暇の取得義務化、勤務間インターバル制度が盛り込まれた。特筆すべきは日本の労働基準法70年の歴史において初めて罰則付きで時間外労働時間の上限設定がなされたことである。非正規雇用の処遇改善にはいわゆる同一労働同一賃金の導入、多様な働き方には高度プロフェッショナル制度がつくられた。働き方改革関連法の成立は、企業の生産性向上・働き手のワークライフバランスを加速するものと期待は大きい。
ここで働き方改革関連法が制定された背景として労災の現状を共有したい。2017年度、精神障害関連の労働災害補償請求は、1,732件と過去最高を記録した。これらの請求に対し労働災害として認める決定が下ったのは、506件となり同じく過去最高を記録した。また、脳・心臓疾患関連の労働災害補償請求も、840件と過去最高を記録した。これらの請求に対し労働災害として認める決定が下ったのは、253件となりここ数年間高止まりしている状況である。長時間労働→過重労働→メンタル不調自殺、脳・心臓疾患による死亡・後遺障害は極めて結びつきやすい要因である。
脳・心臓疾患等の認定基準において疲労の蓄積をもたらす最も重要な要因である労働時間に着目した場合に、発症前2~6か月間平均で月時間外労働時間80時間超の場合、業務と発症の関連性が強いと定められており、一般的に月80時間が過労死ラインといわれている。
労働基準法の罰則付きの時間外労働時間の上限規制では単月100時間で過労死ラインを超える水準になったことに批判はあるが、初めて法律上罰則規定が設けられたことは評価すべきである。
また、労働安全衛生法に労働時間の把握を事業者に義務付ける規定が設けられたことにより実効性のある労働時間管理が求められる。
また、従業員の過重労働が原因で労災事故が発生すると、労働契約法第5条に明記された「安全配慮義務」の違反から民法第415条の債務不履行責任等を根拠法として、企業が使用者賠償責任を問われ高額な損害賠償につながるケースがあり企業リスクとなる。
さらに企業に対する否定的な評価や評判が広まることによって、企業の信用やブランド価値が低下し、損失を被るレピュテーションリスクにもつながる。レピュテーションリスクの本質は、「お客さまの期待と企業の実態とのギャップ」にある。レピュテーションリスクは、瞬時に企業経営・企業戦略に致命傷を与えるほどの大きなリスクとなるので、ある意味最も警戒すべきリスクとも考えられる。
これらのリスク回避をしつつ、働き方改革関連法を契機とし企業それぞれが自社にあった働き方改革を自主的に推進することが最も重要であると考える。働き方改革は、働き手の幸せを最大化し企業の経営戦略に不可欠なものとして取組推進することを望みたい。
人それぞれに違うことを受け入れ、今にあったやり方を模索し、「力を引き出す」ことによって、「チーム総和」の生産性向上を目指していくというスタンスは、働き方改革推進のベースであると考える。
以上