レピュテーション防御法~社会からの期待と実態とのギャップを知る~
[このコラムを書いたコンサルタント]
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- 専門領域
- レピュテーショナル・リスクマネジメント、BCM、リスクファイナンシング
- 役職名
- コンサルティング第二部 BCM第一チーム マネージャー・上席コンサルタント
- 執筆者名
- 金子 美和子 Miwako Kaneko
2009.7.17
欧米では、今、レピュテーションについてのリスクマネジメントが、活発に行われるようになってきている。去る3月17日に全米産業審議会(The Conference Board)が発表した調査レポートによれば、主要グローバル企業の81%が過去3年間でレピュテーション・リスクマネジメント分野の重要性が高まってきていると答えており、また82%がレピュテーション・リスクを管理するために実践的な取り組みを実施していると回答している(この調査は、全米産業審議会がグローバル企業に勤める148人のリスクマネジメント担当者を対象に、企業のレピュテーション・リスク管理の実態と今後の課題について調査したもの)。
「レピュテーション」という言葉では馴染みがないかもしれないが、「評判」や「信用」と訳してみれば、どの企業や組織体でも、最も大切にしてきた資産であろう。一昨年に食品偽装事件を起こし、市場から姿を消すこととなった老舗料亭を例にあげるまでもなく、物的資産の損失とは異なり、信用力(レピュテーション)を失うと、再度手に入れることは非常に困難となる。
しかしながら、目に見えないこの資産を管理し、リスクから守っていくことは、なかなか難しい。このため、多くの企業や組織体においても、レピュテーション・リスクマネジメントの重要性は理解しつつも、実践できていないことが多いのではないだろうか。
レピュテーション・リスクは、ステークホルダーが期待し、思い描いている企業・組織体の像と、企業・組織体の実態(真の姿)が異なり、ギャップが生じているところに発生する。ある老舗の高級料亭があったとする。そのお店のお客様や一般の人々は、通常のレストランよりもずっと良好な衛生状態で、厳しい管理の下でサービスが提供されると期待する。にもかかわらず、実際には食べ残しの使い回しがあったり、賞味期限表示の貼替えが行われるなどの実態があれば、ステークホルダーの期待と実態には、大きなギャップが生じてしまう。このギャップが明らかとなると、レピュテーションは大きく低下することとなるわけである。
レピュテーション・リスクへの最も取り組みやすい対応策としては、このギャップが明らかとなってしまった場合の緊急時広報をどうするかといったことや、インターネットの掲示板などでギャップがあることが話題となっていないかどうかを素早くつかんでいち早く対応することなどの事後対応がある。
しかしながら、事後対応策だけでは、リスクマネジメントとしては不十分である。日頃から、自社についてステークホルダーが何を期待し、どう思い描いているかを把握しておき、実態とのギャップが生じていないかを点検しておくことが重要である。
このことによって、緊急時にも、ステークホルダーがどこまで対応することを期待しているかを類推し、少なくともそれを下回らない対応が可能となる。更には、それを上回る対応ができれば、かえってレピュテーションを上げることもできる。例えば、弊社が、昨年3月に実施した調査では、「個人情報漏洩事件」で想起する企業・組織として、某通販会社が第2位にランクされた。しかしながら、何故その会社を覚えているかの理由として「事故後の対応が大変誠実だったから」とする人が圧倒的であった。即ち、事件は起こしてしまったが、ステークホルダーの期待を上回る適切な対応で、良いレピュテーションを築くことに成功したのである。
近年、レピュテーションのリスク管理に有効なメディア分析やインターネット上のモニタリング技術も多く開発されてきている。これまで、管理が難しく、着手できなかったこのリスクについても、ようやく取組みを開始する時期が到来したと言えるのではないだろうか。
以上