コーポレート・ガバナンス報告制度とその開示動向
[このコラムを書いたコンサルタント]
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- 専門領域
- ERM、危機管理
- 役職名
- コンサルティング第一部 ERMチーム コンサルタント
- 執筆者名
- 細井 彰敏 Akitoshi Hosoi
2008.5.26
最近の企業の情報開示に関する不祥事の続発などを背景として、上場会社には従来にも増して、株主・投資家等を重視した行動が求められている。こうした状況の中、2006年の春より日本の上場企業には、株主・投資家保護を目的として経営者自らが自社の企業統治に関する説明とその評価を行うコーポレート・ガバナンス報告書を提出するよう各証券取引所から指示されている。
本制度は、株主・投資家にとってのコーポレート・ガバナンス情報の比較検討可能性向上を念頭に置いている。例えば、各証券取引所のホームページ上で、各社の開示内容の検索や比較が容易になるなど、コーポレート・ガバナンス情報の比較可能性は飛躍的に高まっている。また、開示企業にとっては他社と比較されやすくなるため、自社のコーポレート・ガバナンス体制強化に一層前向きになる効果も期待でき、企業のリスクマネジメント・内部統制システムの有効性向上にある程度の効果が期待できそうだ。
弊社では、そのような制度の有用性に着目し、平成19年12月時点における日経225企業のコーポレート・ガバナンス報告書を対象に、各社のリスクマネジメント・内部統制の記載状況について調査を行った。以下に、調査結果のいくつかを紹介したい。
コンプライアンスに関しては、80%以上の企業が「専門のタスクフォースを設置している」「方針や行動規範を掲げて取り組んでいる」等の記載をしており、日経225企業においてコンプライアンスに関する取組みは比較的進んでいることが窺える。
一方で、危機管理の取組状況に関する記載をしている企業は少なく、危機管理に関する情報開示レベルの低さが窺える。
危機管理に対する取組みや情報開示レベルの強化は、日経225企業における今後の課題と言えそうだ。
リスクマネジメントに関する記載については、「専門のタスクフォースを設置している」「リスクマネジメント規程等が存在する」等の記載をしている企業が約半数に留まっている。しかし、会社法と金融商品取引法の施行によりリスクマネジメント体制の構築が求められていることから、その取組みを本格化する企業が今後ますます増えていくものと予想される。
前述のように、コーポレート・ガバナンス報告制度の導入は、開示企業にとって他社と比較されやすくなるため、これまで以上にリスクマネジメント・内部統制のあり方を厳しく問われる可能性が高まることを意味している。それは同時に、株主・投資家等に対して自社のリスクマネジメント・内部統制をアピールする機会が高まっているとも言える。これを企業の好機として捉え、自社のリスクマネジメント・内部統制システムの有効性をより一層高めていくと同時に、株主・投資家等に分かりやすい形でその内容を情報開示していくことが求められている。本制度の導入は、自社のリスクマネジメント・内部統制状況のあり方を株主・投資家等の目線から考え直し、前向きに取り組み始めるよい機会と考える。
以上