コラム/トピックス

顕著に増えた「経営及び内部統制」リスク~2005年度に顕在化したリスク事象の分析より~

[このコラムを書いたコンサルタント]

専門領域
「実践リスクマネジメント」(共著、経済法令研究会)
「為替変動に対する企業の対応」(リサーチビュー、2004.5)
「個人情報漏洩事件を起こすと株価が下がる!?」(同上、2004.10)
「Q-Scoreに見る大地震による企業インパクト」(同上、2005.10)
「2004年度に顕在化したリスク事象の分析」(企業リスクインフォ、2005.6)
「2005年度上期のリスクの特徴と評価」(リサーチビュー、2005.11)
「リスク事象の発生確率を考える」(企業リスクインフォ、2005.11)
「2005年度に顕在化したリスク事象の分析」(企業リスクインフォ、2006.6)
「子どもの安全を考える」(RM Focus、2006.10)
「リスク情報に見る期待ギャップとギャップの解消」(企業会計、2006.11)
役職名
総合リスクマネジメント部 主任研究員
執筆者名
本間 基照 Motomitsu Honma

2008.4.1

有価証券報告書に義務付けられた「リスク情報等の記載」、2006年5月の新会社法施行に伴う「内部統制システム構築の義務付け」、日本版SOX法の導入に向けた動きなど、企業リスクへの社会的取組要請はますます高まっている。こうしたなか、インターリスク総研では企業のリスク管理の取組みに有益な情報を提供することを目的として、関西大学(柴健次研究室)協力のもと、上場企業を対象に日本経済新聞に掲載されたリスク事例を収集し、データベース化を図っている。今回は2005年度の分析結果について、その特徴とリスクの顕在化が株価に与える影響等について紹介したい。

2005年度の大きな特徴は「経営及び内部統制」に関するリスク分類が大きく増加した点である。前年度に比べ49件増加、総数は105件となった。この分類には、脱税・過少申告や知的財産権の侵害・被侵害、企業合併・買収のほか、事務オペレーションのミスも含んでいる。このリスク分類は内部統制システムを構築し、それが有効に機能しているのであれば発生や影響度を低減させることができるが、そうでない場合、顕在化したときの企業へのダメージが大きいのが特徴である。社会的に非常に関心のあるテーマでもあるため、関連するリスクを洗い出し、早急に対応策を講じることが必要となる。

また個人情報保護法の施行で注目を集めた個人情報漏洩については、各企業の対策が進んでいる様子がデータから窺えた。盗難等、悪意を持った個人情報の漏洩は37件と前年の51件から大きく減少した。反面、おそらく処分済みと考えられるものの当該情報・書類が見当たらず念のため公表したという個人情報の紛失が19件と、前年の6件から大きく増加した。これはリスク管理の基本である「情報のたな卸し」の進捗を裏付けるものである。

リスクを個別に見ると(リスク事象)、1位が「設計の欠陥・瑕疵」の79件、2位が「(製品の)検査・試験のミス」の41件、3位が「事務オペレーションのミス」と「機密情報の漏洩(個人情報漏洩を含む)」で各々37件、5位が「労働災害」の26件となった。そのキーワードは「鉄道・航空機のトラブル」、「誤発注」、「アスベスト」であった。

2004~05年度にかけて収集したリスク事象は延べ771件。これらを対象にリスク事象が顕在化した後の株価の変化率も調査した。10日後の株価の変化率(対TOPIX超過収益率)の上位は「粉飾決算(減少率9%)」、「キーマン・有能な人材の流出(同9%)」、「リスク情報の隠蔽・改ざん(同5%)」「水質汚染(同4%)」「IR対応の失敗(同4%)」となり、90日経過後、何れも顕在化する前の株価は回復できていないことが判明した。

リスクは、環境の変化とともに年々変遷している。リスクが顕在化したときの影響度を今回は株価で測ったが、経済的損失額で測った場合、影響度のランキングは異なったものとなる。PDCAを着実に回して、常に新しいリスクへの対処に努めるとともに、自らの企業にとって何が重要なのか、影響度を測る尺度にも細心の注意を払いながら、リスクマネジメントを推進していくことが肝要である。

以上

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