リスク顕在化時代を生き抜くための「かもしれない経営」のすゝめ
[このコラムを書いたコンサルタント]
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- 専門領域
- 全社的リスク管理・危機管理
- 役職名
- マネジャー・上席コンサルタント
- 執筆者名
- 加藤 壮 So Kato
2024.3.25
2024年が幕を開けるや否や、最大震度7を記録した能登半島地震の衝撃が日本全国を駆け巡った。限られた陸路や漁港への甚大なダメージや、広範に点在する集落の存在が災害対応を一層困難にしている。このような地理的・社会的条件は日本中にあるため、あらためて災害対応の見直しが求められている。翌2日には航空機の衝突事故が発生した。旅客機の乗員乗客が全員無事脱出できたことが賞賛された一方で、過密な運行スケジュールや航空機と管制塔のコミュニケーションの問題が露呈した。この新年早々発生した一連の出来事から学ぶべき教訓は、“まさか”は“起こる”ということ、そして、“起こることを前提に、発生時の対策の実効性をあまねく検証すべき”であるということではないだろうか。
筆者は今、世の中は「リスク顕在化時代」に突入していると考えている。もう少し先の未来の話と思われていた気候変動リスクは、もはや差し迫った危機になっている。2023年は年間の平均気温が過去最高となり、夏には熱中症が多発した。2024年にはエルニーニョ現象の発生が予想され、昨年の気温を超える「物理的リスク」の顕在化が懸念されている。気候変動だけでなく、施設・設備の老朽化、人材不足など、多くの企業に共通する事業環境の変化が、火災や爆発、労災、従業員の不正など身近なリスクの顕在化する可能性を高めている。また、法規制の強化にも目を光らせるべきだ。世界的な地政学リスクやサステナビリティへの意識の高まりを背景に、経済安全保障や環境保護、人権保護関連の法規制が一段と厳しくなっている。法を犯した場合、社会的制裁を受けることは避けられない。違反の質によっては、ステークホルダーからの信頼を失い、事業が存続できない事態になることも想定される。
自社にとって顕在化した場合に大きな影響が生じうるリスクについては、「起こらないだろう」と見て見ぬふりをするのではなく「起こるかもしれない」と考え、「起こってしまった場合の対応策」の実効性、すなわち「危機管理の実効性」を確保することが、リスク顕在化時代を生き抜くためには不可欠である。
また、法規制の対応についても、従業員の性善説に依存して「守れているだろう」と過信するのではなく「守れていないかもしれない」と考え、法規制を遵守するために必要な体制整備やリソース投入を通じて、組織として適切に遵守できる状態を構築する「コンプライアンス体制・取り組みの見直し」が不可欠だ。
見直しの共通するテーマは、根拠がない思い込みの「だろう経営」から脱却し、「かもしれない経営」を実践すること、すなわち「リスク管理を実践する」ことである。リスク管理・危機管理・コンプライアンスは、会社法で求められる内部統制システムの中核要素であり目新しい概念ではないが、「リスク顕在化時代」においては、その実効性が真に問われ始めている。2024年は波乱含みの年明けであったが、先の見えない時代を生き抜くためには、年初に発生した災害や事故をきちんと自分事化し、リスク管理・危機管理・コンプライアンスに魂を入れる起点の年にしていただきたい。
以上