企業の交通事故防止に特効薬はあるか?
[このコラムを書いたコンサルタント]
- 専門領域
- 交通リスクマネジメント
- 役職名
- リスクマネジメント第二部 交通安全サポートグループ マネジャー上席コンサルタント
- 執筆者名
- 堀 友樹 Tomoki Hori
2024.9.24
バス、トラック、タクシー等の自動車運送事業者に限らず、営業などで白ナンバーの社有車を使用する企業にとっても事故防止に取組むことは不可欠である。筆者が、運送事業者以外の交通事故削減に向けたコンサルティングを行うなかで、交通事故防止を推進する部門の責任者から「交通事故防止に向けた取組を策定し、教育指導する立場の管理者に対し、管下従業員に指導徹底するよう伝えているが、一向に事故が減らない。」「何か一発で事故が減らせる方法はないか?」というような話を聞く。さらに詳しく聞くと以下のような実態であることが多い。
- 本社推進部門が推進する事故防止対策が、組織上のラインを通じて徹底されていない。
- 安全運転管理者を選任しているものの、その役割が充分に発揮できていない。
- 選任した安全運転管理者以外に現場の組織長がおり、組織の業務が優先され、交通事故防止への対応の優先度が低下している。
道路交通法 第74条第1項には、以下記載がある。
「車両等の使用者は、その者の業務に関し当該車両等を運転させる場合には、当該車両等の運転者及び安全運転管理者、副安全運転管理者その他当該車両等の運行を直接管理する地位にある者に、この法律又はこの法律に基づく命令に規定する車両等の安全な運転に関する事項を遵守させるように努めなければならない。」
つまり、企業の交通事故防止のためには、選任した安全運転管理者、副安全運転管理者だけでなく、組織を直接管理する管理者も関与しなければならないとされている。従業員が多く、交通事故防止を安全運転管理者、副安全運転管理者だけに任せきりにして管理指導が行き届かない組織は、血液の循環が体の末端まで行き届かない不健康な状態に似ている。健康体とするには「体制整備」が必要となる。
ではどうしたらよいか?企業にとって交通事故防止は社会的責任を果たすことでもあるが、本社推進部門と選任された安全運転管理者による取組みだけでは効果を上げていくことは難しい。運転者の直属の上司が主体的に取り組み、会社の事業の全体の方向性とベクトルを一致させて、組織をあげて事故防止に取り組むことが重要となる。経営トップが「現場の管理者」と「安全運転管理者」に対して明確に事故防止に関する役割と権限を与え、明確な目標と取組計画を示し、社内に周知徹底を図ることが重要だ。これにより社有車を運転する社員が交通事故防止について「他人事」との考え方から「自分事」として捉えやすくなる。遠く離れた本社の言うことを聞き流してしまったとしても、所属長が主要業務での目標達成と同じように交通事故防止に向けた具体的な指示・指導をすることにより、現場の運転者も「自分事」として捉えるようになる。
また、選任した安全運転管理者が専門知識を持ち合わせていないことも多く、どのように運転者を指示・指導したらよいかわからないケースも多々見られる。安全運転管理者は、選任しさえすればよいのではなく、期待される役割を明確に与え、必要な知識や力量を習得させ、力を発揮できるようにする必要がある。
「一発で事故が減らせる方法」というのは難しいが、安全運転管理の実効性を高めることが事故防止には有効であり、特効薬であるとも言える。事故が一向に減らないとお悩みの企業においては、安全管理体制の有効性を確認することをおすすめしたい。
(2024年9月12日 三友新聞掲載弊社コラム記事を転載)