レポート/資料

上場企業におけるリスクマネジメントの現況と課題 ~第4回 上場企業のリスクマネジメント体制整備状況調査結果を踏まえて~【RMFOCUS 第91号】

[このレポートを書いたコンサルタント]

多田 彩乃
会社名
MS&ADインターリスク総研株式会社
所属名
リスクコンサルティング本部 リスクマネジメント第三部
統合リスクマネジメントグループ 上席コンサルタント
執筆者名
多田 彩乃 Ayano Tada

2024.10.3

見どころ
ポイント
  • 企業をとりまく環境変化の激しさ、非財務情報開示・サステナビリティ課題対応への要求の高度化などによって、企業のリスクマネジメントの重要性、および高度化の必要性はますます高まっている。
  • 3年ぶりに実施した「上場企業のリスクマネジメント体制整備状況調査」からは、企業におけるリスクマネジメントの取り組みがこの3年間で進展し、「全社的リスクマネジメント」へのレベルアップを図りつつある状況がうかがえた。
  • 一方、いまだ多くの企業において、リスクマネジメント所管部門のマンパワー不足、リスクアセスメントのマンネリ化、情報開示やサステナビリティ課題対応に関する関係各部との連携などに課題がある状況がわかった。

はじめに

自然災害の激甚化、生成AIなど新たな技術の台頭、慢性的な人材不足、物価高騰、為替や金利の急速な変動、サステナビリティ課題への対応など、企業を取り巻く環境は激しく変化し、足元のリスクも高まっている。
このような状況の中で、企業がその目標達成および持続的な発展をより確実にしていくために、会社全体・企業集団全体で経営が主体的に取り組む「全社的リスクマネジメント」の体制を構築し、実効性高く運用することを志向する企業が増えている。一方、自社の体制・取り組みに課題感を持ちつつも具体的な改善方法がわからず、対応に苦慮している企業も多い。
この度、MS&ADインターリスク総研では、上場企業を対象とした「企業のリスクマネジメント体制整備状況調査」を3年ぶりに実施した。本稿では、前回調査結果との比較も踏まえ、上場企業のリスクマネジメントの現況およびそこから推察されるリスクマネジメントを高度化する上での課題について解説する。

1. 調査概要

  1. 調査方法
    郵送・Web形式によるアンケート調査
  2. 調査時期
    2024年7月
  3. 調査対象
    調査時期時点での上場企業 3,700社
  4. 有効回答数
    278件(およそ7.5%)

2. 主な調査結果

(1) リスクマネジメント所管部署とその役割

会社全体・企業集団全体で経営が主体的に取り組む「全社的リスクマネジメント」の実現のためには、より経営に近い立ち位置で、各組織に横串を刺し調整を図ることができる組織がリスクマネジメントを所管することが望ましい。
リスクマネジメントをどの部署が所管しているかについて、今回の調査結果では、総務部署または法務・コンプライアンス部署(双方を兼務している場合も含める)がリスクマネジメントを所管しているケースは、合計で46%と依然として多いものの、前回調査から10Pt程度減少した(図1)。一方で、経営企画部署、リスクマネジメントを専門とする独立部署において所管している企業の割合がいずれも5Pt程度増加した。上場企業において、リスクマネジメントが「経営と切り離せない重要事項である」との認識が高まっており、それに則した組織体制に変更している企業が増えていることがうかがえる。
また、リスクマネジメント所管部署には、リスクマネジメントを実効性高く運営する上で様々な役割が期待される。今回の調査では、リスクマネジメント所管部署の役割は、前回と比べ全体的に増加・拡大している傾向がうかがえた(図2)。多くの企業において、リスクマネジメント所管部署は各組織に対する支援・調整機能を発揮し、リスクマネジメントのPDCAサイクル全体をけん引する役割を担っていることがうかがえる。
このような役割を担うには、マンパワーの確保はもちろん、組織の内情やリスクマネジメントに習熟した担当者が不可欠である。そのため、前述のとおり「リスクマネジメントを専業とする独立部署」を設置する企業は増加傾向にある。

【図1】リスクマネジメント所管部署
【図1】リスクマネジメント所管部署
【図2】リスクマネジメント所管部署の役割
【図2】リスクマネジメント所管部署の役割

一方、リスクマネジメントを専業とする独立部署を設置していない企業においては、リスクマネジメント担当者は基本的には他の業務と兼務しているケースが大半となっている(図3)。
リスクマネジメント活動を充実させ、継続的な活動とするためには、リスクマネジメント所管部署の位置付け、適切な役割・権限の付与、リソースの確保が不可欠である。現在の所管部署の体制(人数、リスクマネジメント業務の経験年数、他業務との兼務状況)、リソース配分は「全社的リスクマネジメント」を推進する上で十分かどうか見直していただきたい。

【図3】リスクマネジメント担当者の業務専任状況(専業部署設置企業を除く)
【図3】リスクマネジメント担当者の業務専任状況(専業部署設置企業を除く)

(2) リスクマネジメントに関する会議体の活動および経営の関わり方

全社的リスクマネジメントを適切に運用・推進していくためには、経営陣や各部門の責任者が参画する会議体が確立されるとともに、リスクマネジメントプロセス全体の有効性・妥当性をチェックする機関として機能することが重要である。
リスクマネジメントに関する会議体の機能・審議内容についても、前回調査と比較して、高度化・充実化が図られていることがうかがえた(図4)。リスクマネジメントのプロセス(リスクアセスメント、重要リスクの選定、リスク対策計画の策定、リスク対策の進捗状況確認等)の有効性・妥当性のみならず、「リスクマネジメント全体の体制や仕組み上の課題」(枠組み)についても審議している企業の割合が増加した。リスクマネジメントの会議体が、単なる各部の取り組みや社内の事件・事故の発生状況の報告の場ではなく、リスクマネジメントプロセス全体、および各ステップの有効性・妥当性をチェックする機能を持つようになっているといえる。・・・

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