レポート/資料

中堅・中小企業の人手不足対策 ~採用・定着・業務効率化の三位一体で乗り越える~ 【RMFOCUS 第91号】

[話を聞かせてもらった専門家]

曽和利光
会社名
株式会社人材研究所 代表取締役社長
氏名
曽和 利光 Toshimitsu Sowa

2024.10.4

見どころ
ポイント
  • 深刻化する人手不足問題への中堅・中小企業の対応策について「人を獲得する(採用)」「人を減らさない(定着)」「業務を見直す(業務効率化)」の三つの観点から提示する。
  • 採用では、ターゲットの絞り込みと能動的アプローチの重要性を説き、定着では評価制度の運用と健康経営の活用に言及。業務効率化では、AI・RPA・BPOの活用を推奨する。
  • これら三つの観点におけるバランスについて、自社の強みや状況に応じて最適化することが重要となる。人手不足というピンチは、市場の変化に迅速に対応できる組織づくりを行うことで、持続的に成長する企業に変わるチャンスにもなりえる。

1.深刻化する人手不足の実態

ーー人手不足の問題について、多くの企業支援のご経験を踏まえ、どのようにとらえていらっしゃいますか?

曽和)日本の労働力人口は、少子高齢化の影響により、今後急速に減少することが予想されています。リクルートワークス研究所の試 算によると、2040年には1,100万人の労働力が不足するとされており、特に中堅・中小企業にとっては経営の存続を左右しかねない大きな課題となっています(図1)。

現在の労働市場は、すでに人材の奪い合い状態に入っています。失業率は3%を下回る完全雇用の状態が続いており、どこかから人材を奪ってこなければ確保できない状況です。特に中小企業では、大卒の新卒採用倍率が7倍、高卒で4倍近くになるなど、必要な人材の4分の1程度しか採用できていない厳しい実態があります。

中途採用市場でも同様の状況が見られます。ハローワークの有効求人倍率は全体で1.3倍程度ですが、実際に中小企業が必要とする人材に絞ると3倍以上になるケースも少なくありません。つまり、新卒・中途を問わず、企業が必要とする人材の3分の1から4分の1程度しか確保できていないのが現状です。

さらに、こうした人材獲得競争の激化は、採用担当者にも大きな負担をかけています。採用担当者の疲弊も深刻な問題です。何 をやっても思うような結果が出ないことで、諦めムードがまん延するケースも少なくありません。経営者や人事部門の責任者は、最前線で奮闘している「採用担当者のケア」にも注意を払う必要があります。

図1
【図1】労働需給シミュレーション(出典:リクルートワークス研究所「Works Report 2023 未来予測2040」(2023年3月28日))

2.人を獲得する -採用力強化と外部人材活用のポイント

ーー中堅・中小企業における採用面の課題や、これに対する対策についてお聞かせください。

曽和)中堅・中小企業の場合、大手企業のように知名度や待遇面で勝負するのは難しいです。そのため、「弱者の戦略」として、限られ たリソースを最大限に活用するゲリラ的なアプローチが有効です。具体的には、以下の3点がポイントになります。

(1)ターゲットを絞り込む

獲りやすい人材にアプローチすることが重要です。例えば、東京よりも大阪など求人倍率の低い地域で採用活動を行うことです。ほかにも、「文系よりも理系」「一般大学よりも女子大」など、競合が少ない層にアプローチするのも効果的です。

具体例として、IT企業で、東京にしかオフィスがないのに、採用活動はすべて関西で行う企業が存在します。なぜかというと、東 京は47都道府県で最も求人倍率が高く、人材の獲得が難しい。一方、関西は求人倍率が低く、学生の数も東京の半分近くいる。つまり、競争が少ない地域で優秀な人材を獲得しようという戦略です。

また、学部・学科による違いも大きいです。例えば、サービス業の採用担当者と話すと、文学部と教育学部は他の学部より何倍 も採用しやすい傾向にあります。工学部でも、機械・電気電子・情報系はライバルが多いものの、理学部の宇宙物理学科などは意外と見落とされがちです。女子大も同様で、大手企業があまり目を向けていないため、中堅・中小企業にとってはチャンスがあります。

(2)能動的な採用手法へのシフト

従来の「広告を出して応募が来るのを待つ」という手法から、リファラル採用(社員紹介)やスカウト型採用など、こちらから積極的にアプローチする手法にシフトすることが…

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