
2025年 育児・介護休業法等の改正~法改正を機に実効性ある両立支援と職場文化の変革へ~【人的資本・健康経営インフォメーション 2025 No.1】
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[このレポートを書いたコンサルタント]
- 会社名
- MS&ADインターリスク総研株式会社
- 所属名
- リスクコンサルティング本部 リスクマネジメント第四部 人的資本・健康経営グループ
- 執筆者名
- 主任コンサルタント 大瀧 雅世 Masayo Otaki
2025.8.1
- 2025年の育児・介護休業法等の改正は、両立支援策の強化と実効性ある運用に向けた新たな対応を求めるものである。
- 法対応にとどまらず、くるみん認定の取得や積極的な社外発信を進めることで「働きやすい会社」としてのイメージを広く訴求し、ブランド価値向上や採用力の強化にも資するものとなる。
- 制度のハード面だけでなく、職場文化の醸成というソフト面からのアプローチを強化することが、実効性ある両立支援の実現には不可欠であり、企業価値向上と持続的成長の鍵となる。
1.社会的背景と法改正の全体像
日本社会では、少子高齢化が急速に進行し、65歳以上の高齢者が総人口の約29%を占めている。
また、労働力人口の減少や、仕事をしながら家族等の介護に従事する「ビジネスケアラー」の増加から、仕事と育児・介護の両立に関心が集まっている。さらに、2030年には介護離職による経済損失が約9兆円にのぼると試算されており、企業経営に直接的な影響を及ぼす可能性が指摘されている。
こうした背景を受け、2025年4月から「育児・介護休業法」の大幅な改正が施行され、併せて「次世代育成支援対策推進法」(以下、次世代法)も改正された。これら一連の法改正は、企業規模を問わずすべての企業に対し、両立支援策の強化と実効性ある運用を求めるものである。
2.法改正の主なポイント
2025年の法改正は、企業活動に多方面で影響を及ぼすものである(表1)。まず、育児・介護休業法では、企業規模を問わず、育児・介護と仕事の両立支援策の強化が義務化された。4月より、すべての企業が、介護離職防止のための雇用環境整備や従業員への個別周知・意向確認などに対応する必要がある。加えて、従業員301人以上の企業には、育児休業取得状況の公表が義務づけられた。10月からは、仕事と育児の両立において、柔軟な働き方実現のための措置の追加や個別の意向聴取配慮が義務となる。
また、次世代法についても、一般事業主行動計画に関する法定義務が強化されている。
3.企業に求められる対応と実務上のポイント
今回の法改正は、規模や業種を問わず、あらゆる企業に対応を迫る内容となっている。まず、各社が取り組むべきは、就業規則や休業・休暇制度の見直しである。法改正の内容を正確に把握し、自社の社内制度整備および社内規定の改訂を進める必要がある。
また、従業員への個別周知や意向確認体制の整備も急務である。特に介護分野については、「早い段階(40歳等)での情報提供」が全社義務化され、従業員が介護に直面する前から支援策を伝える仕組みづくりが不可欠となる。とりわけ、中小企業は、これまで以上に柔軟な働き方や休暇取得の促進、社内研修や相談窓口の設置など、実効性ある両立支援体制の構築が急務である。
加えて、301人以上の企業であれば育児休業取得状況の公表、101人以上の企業は行動計画策定・数値目標設定など、企業規模ごとの法的対応も整理して着実に進めなければならない。
なお、法対応だけでなく、属人化防止や代替要員の確保、引き継ぎマニュアルの整備など、現場での実務的な備えも重要である。また、管理職や従業員向けの研修、両立支援制度の活用事例の紹介、よくある質問(FAQ)整備などを通じて、制度が形骸化せず“使われる制度”となるよう、職場文化の醸成にも取り組むことが望ましい(表2)。
企業規模や現状にかかわらず、「まだ大丈夫」と油断せず、自社の制度や体制を速やかに点検し、必要な対応を始めることが不可欠である。今回の法改正は、すべての企業にとって“今取り組むべき” 経営課題であることを強く意識してほしい。
改正ポイント項目 | 対象企業 | 内容の概要 | 施行時期 |
---|---|---|---|
介護離職防止のための雇用環境整備 | 全企業 | 研修や相談窓口の設置、事例の紹介、方針の周知のいずれか実施 | 2025年4月1日 |
介護離職防止のための個別周知/意向確認 | 全企業 | 直面時の個別周知・意向確認と早い段階(40歳等)での情報提供 | 2025年4月1日 |
仕事と育児両立:柔軟な働き方実現のための措置等 | 全企業 | テレワークや短時間勤務、残業制限等の整備と個別周知・意向確認 | 2025年10月1日 |
仕事と育児両立:個別の意向聴取・配慮 | 全企業 | 妊娠・出産の申し出時や子が3歳になるまでに働き方等の希望を聴取 | 2025年10月1日 |
育児休業取得状況の公表 | 301人以上 | 毎年、育児休業取得率をHP等で公表 | 2025年4月1日 |
一般事業主行動計画の策定・数値目標設定 | 101人以上 | 次世代法に基づく行動計画に「育児休業取得率」等の数値目標を記載 | 2025年4月1日 |
対応項目 | 法令対応 | 実効性向上 | 概要 |
---|---|---|---|
就業規則・社内規定の見直し | ● | 法改正内容に沿った就業規則・休業関連制度の整備 | |
個別周知・意向確認体制の整備 | ● | 育児・介護対象者への個別周知・意向確認の実施 | |
雇用環境整備 | ● | ● | 育児・介護の相談窓口の設置、情報提供体制の強化 |
柔軟な働き方の導入 | ● | ● | 育児・介護ともに対応したテレワーク、時短勤務、フレックスタイム等の導入 |
企業規模別義務への対応 | ● | 自社規模ごとに必要な法的義務(取得状況公表・行動計画策定等)の履行 | |
管理職・従業員向け研修 | ● | ● | 両立支援制度(育児・介護)の理解促進や意識醸成 |
属人化防止・代替要員の確保 | ● | 休業・両立時の業務属人化防止、代替要員の確保、業務分担の見直し | |
引き継ぎマニュアルの整備 | ● | 休業時の業務引き継ぎマニュアル作成、ノウハウ共有 | |
職場文化の醸成 | ● | 両立支援制度の積極的な活用促進、研修や事例共有、FAQ の整備、ロールモデル紹介 |
※「●」は該当する項目
4.くるみん認定制度活用と社外発信
(1)くるみん認定とは
くるみん認定とは、厚生労働省が次世代法に基づき、「子育て支援のための一般事業主行動計画を策定・実施し、その目標を達成した企業」を子育てサポート企業として認定する制度である。
2025年の法改正に伴い、くるみん認定の要件も見直され、一般事業主行動計画の策定や育児休業取得率・時間外労働削減の数値目標の設定など、実効性と透明性を重視した運用が求められるようになった。また、301人以上の企業には育児休業取得状況の公表義務も課され、形式的な制度運用からPDCAサイクルによる継続的改善への転換が不可欠となっている。
くるみん認定の取得自体が直接的に企業価値向上に結びつくわけではないが、社員が安心して働ける環境を整備することは、企業の持続的成長や人材確保、ブランド力の向上に資する取り組みであり、その一環として認定制度の活用が期待される。
こうした認定制度の取得は…
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