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生物多様性COPとは?ビジネスサイドからみるポイント

[このコラムを書いた研究員]

新井督
専門領域
生物多様性
役職名
上席研究員
執筆者名
新井 督 Osamu Arai

2024.10.23

この記事の
流れ
  • そもそも生物多様性COPとは?
  • 日本、そして世界で関心が高まる生物多様性
  • 生物多様性COP16の見どころ
  • 企業において求められる対応は?

2024年10月21日から11月1日まで、生物多様性COP16がコロンビアのカリで開催されています。COPという言葉は聞いたことがあっても、詳しく知らないという方も多いのではないのでしょうか?そもそもCOPとはどんな会合で、今回の見どころや、企業として注目すべきポイントはどんなところなのか。現地入りしているメンバーもいる当社基礎研究部がわかりやすく解説します。

そもそも生物多様性COPとは?

1992年の地球サミットから始まった国際条約である生物多様性条約(Convention on Biological Diversity:CBD)に関して、様々な取組みを決定していく会合がCOP(Conference of the Parties)と呼ばれていて、今年開催されるものが16回目となります。

生物多様性COPの特徴として以下のような点が挙げられます。

生物多様性のイメージ
  • 合意による意思決定機関とデファクトスタンダードを生むフォーラムという2つの側面を持っていること
  • 2年に1回の開催であること
  • 単に各国の代表者が参加し議論するだけではなく、NGO、科学者、企業など幅広い関係者もサイドイベントを開催して生物多様性保全の課題に取り組む場であること

ちなみに、似た会合として「気候変動に関するCOP」も存在していて、こちらは今年アゼルバイジャンのバクーで29回目の開催が予定されています。

前回の生物多様性COP15は2022年12月にカナダのモントリオールで開催され、「昆明・モントリオール生物多様性枠組条約(世界目標:GBF)」が採択されました。特に以下の目標が推進されることとなりました。

「昆明・モントリオール生物多様性枠組条約(世界目標:GBF)」

1. 2050年ビジョン「自然と共生する世界」
2. 2030年ミッション「生物多様性を保全し、持続可能に利用し、遺伝資源の利用から生ずる利益の公正かつ衝平(こうへい)な配分を確保しつつ、必要な実施手段を提供することにより、生物多様性の損失を止め、反転させ、回復軌道に乗せるための緊急の行動をとる」
3. 2050年自然との共生に向けた4つのゴールと2030年ネイチャーポジティブに向けた23のターゲット
(1)
ターゲット3 2030年までに陸域と海域の少なくとも30%以上を保全(30by30目標)
(2)
ターゲット8 自然を活用した解決策等を通じた気候変動の生物多様性への影響の最小化とレジリエンス強化(ネイチャー・ベースド・ソリューション:NbS等)
(3)
ターゲット15 ビジネスにおける生物多様性への影響評価・情報効果の促進(例えば、TNFD開示等)
4. 新枠組の進捗をモニタリングする・評価する仕組み

日本、そして世界で関心が高まる生物多様性

生物多様性COP16の開催に先立つ2024年3月、農林水産省、経済産業省、国土交通省、環境省の4省合同で、「ネイチャーポジティブ経済移行戦略」が公表されました。

この戦略は、2023年3月に閣議決定された「生物多様性国家戦略2023-2030」の基本戦略3:ネイチャーポジティブ経済の実現を具体化したものです。4省合同の発表というのは珍しく、以下の3つの点を指針として、企業を全面的に支援する内容となっており、日本政府のネイチャーポジティブにかける意気込みが伝わってきます。

  1. 企業の価値創造プロセスとビジネス機会の具体例
  2. ネイチャーポジティブ経営への移行に当たり企業が押えるべき要素
  3. 国の施策によるバックアップ

また、世界中のビジネスリーダーが集まる世界経済フォーラム(World Economic Forum:WEF)が毎年発行するグローバルリスク報告書2024年版によれば、今後10年間のグローバルなリスクとして「生物多様性の喪失と生態系の崩壊」が3位となっており(2023年版では4位)、自然の喪失が経済に与える影響は年々高まっていると考えられています。

今回の生物多様性COP16では、このような環境認識のもと、2022年12月に策定されたGBFを踏まえ各国の代表が今後の生物多様性に関する取組みについて協議する場となっています。

生物多様性COP16の見どころ

10月21日から11月1日までコロンビアのカリで「Peace with Nature(自然との平和的共生)」と題して開催される生物多様性COP16の参加者は、登録ベースで1万5千人となり、特にビジネス関係者は前回の6倍と注目度が高まっています。

主な見どころや焦点となるポイントは以下の通りです。

  1. 生物多様性COP15で採択されたGBFにおける各国の実施状況の点検
  2. GBFと各国が策定する「生物多様性国家戦略及び行動計画」
  3. GBFのモニタリング制度
  4. 生物の遺伝資源のデジタル配列情報の共有
  5. 資源動員及び資金メカニズム

これらの議題を通じて、生物多様性COP16は生物多様性の保全と持続可能な利用に向けた協力を促進し、具体的な行動計画を策定する重要な機会となるでしょう。

企業において求められる対応は?

様々なステークホルダーがそれぞれの思惑で参加する生物多様性COP16ですが、やはり企業としてはここでの議論や決定事項がどのように自社の取り組みに影響(特に自然関連の取組み)するのか、ということが気になるところです。

そこで注目されるのがTNFD(自然関連財務情報開示タスクフォース)から新たな公表がされるのか、ということ。TNFDとは企業における自然関連の開示フレームワークですが、2023年9月に開示提言Ver1.0が公表された後、早期開示企業であるTNFD Adopterでは世界416社のうち日本企業が109社(2024年6月時点)と最多の登録となりました。このことは日本企業のサステナビリティへの関心の高さだけでなく、自然関連の開示を通じて自社のブランド力を高めようという意識が強く伺えます。

TNFDは生物多様性COP16にて2つの新たな公表を行う予定です。

(1)生物多様性の「移行計画」に関するディスカッションペーパーの公表

TNFDのエグゼクティブディレクターであるトニー・ゴールドナー氏によれば、次の段階として移行に向けた「行動」に焦点をあて、すでに多くの企業が着手している脱炭素の移行計画と同等のものを自然関連についても取り入れる意向を示しています。

(2)現在無数にある自然データをひとつのインターフェースで俯瞰できるプログラムの開発の検討

これは、企業の自然関連への取組みを後押しするだけではなく、自然情報を分析する企業やネイチャーポジティブを支援するソリューション提供企業にとっても、自社の商圏がグローバルに拡大するチャンスと言えます。

今回の生物多様性COP16、このような点に注目しながら交渉の行方を見守りましょう。

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