機械産業のカーボンニュートラル対応の現状「リサーチ・レター(2024 No.6)」
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2025.1.7
2022年度の日本のエネルギー起源CO2排出量のうち、産業部門が34.0%を占めており、最も多い。鉄鋼業および化学産業からの排出がそれぞれ産業部門全体の38.1%と15.8%を占め、次いで機械産業が12.8%を占めている。機械産業はカーボンニュートラルを目指して、さまざまな対策を推進している。また、多くの産業に機械設備を供給しており、省エネ化などを通じて産業部門全体のCO2排出量削減に直接貢献している。本稿では、各社の統合報告書などのサステナビリティ情報をもとに、機械産業のカーボンニュートラル対応の現状を確認する。
1.機械産業のGHG※1排出状況
経済産業省「工業統計調査2020年確報産業別統計表」によると、機械産業の事業所数は製造業全体の28.3%、従業員数は42.3%を占め、いずれも製造業の中で最大である。そして、機械産業の製品は非常に多岐にわたる。このため、GHG排出量や使用電力量の多い工場設備を中心に対象製品分類を特定※2し、主要メーカーのGHG排出量を調査した。GHG排出量の傾向を分析する前に、GHG排出全般について解説する。
(1)GHGプロトコル※3
GHG排出量の算出方法はGHGプロトコルと呼ばれるデファクトスタンダードがあり、ISSB※4をはじめとする有力な情報開示の枠組みでも採用されている。
GHGは化石燃料の燃焼や工業プロセス、電気の使用など、様々なところで発生する。企業活動による全てのGHG排出量を把握するには、自社内だけでなく、サプライチェーンを通じて発生するGHG排出量も算定する必要がある。そのため、同プロトコルは企業のGHG排出量を算定・開示するための枠組みとして、「Scope1」、「Scope2」、「Scope3」の3つの区分を導入している。
- Scope1
燃料の燃焼や製品の製造などで企業や組織が「直接」排出するGHGのことで、例えば、自社の工場や施設で生じるCO2やメタン(CH4)の排出などが含まれる。 - Scope2
他社から供給された電気・熱・蒸気を使うことで「間接的」に排出されるGHGのことで、代表例として電力会社から供給される、化石燃料によって作られた電気の使用がある。 - Scope3
サプライチェーンの「上流」と「下流」から排出されるGHGのことで、機械産業の「上流」は鋼材や金属部品の調達などがある。一方、「下流」は機械(最終製品)の使用や廃棄がある。GHGプロトコルでは、Scope3をさらに細かく原料調達、製造、物流、販売、廃棄など15のカテゴリに分類している(図表1-1)。
図表1-1 Scope3カテゴリ分類
Scope3カテゴリ | 該当する活動(例) | |
---|---|---|
1 | 購入した製品・サービス | 原材料や部品の調達、加工の外部委託、消耗品の調達 |
2 | 資本財 | 生産設備の増設 |
3 | Scope1,2 に含まれない燃料およびエネルギー活動 | 調達している燃料の上流工程(採掘、精製等) 調達している電力の上流工程(発電に使用する燃料の採掘、精製等) |
4 | 輸送、配送(上流) | 調達物流、横持物流、出荷物流(自社が荷主) |
5 | 事業から出る廃棄物 | 廃棄物(有価物は除く)の自社以外での輸送、処理 |
6 | 出張 | 従業員の出張 |
7 | 雇用者の通勤 | 従業員の通勤 |
8 | リース資産(上流) | 自社が貸借しているリース資産の稼働 |
9 | 輸送・配送(下流) | 出荷輸送(自社が荷主の輸送以降)、倉庫での保管、小売店での販売 |
10 | 販売した製品の加工 | 事業者による中間製品の加工 |
11 | 販売した製品の使用 | 使用者による製品の使用 |
12 | 販売した製品の廃棄 | 使用者による製品の廃棄時の輸送、処理 |
13 | リース資産(下流) | 自社が賃貸事業者として所有し、他者に賃貸しているリース資産の稼働 |
14 | フランチャイズ | 自社が主宰するフランチャイズの加盟者のScope1,2に該当する活動 |
15 | 投資 | 株式投資、債券投資、プロジェクトファイナンスなどの運用 |
(出所)経済産業省資源エネルギー庁(2023)「知っておきたいサステナビリティの基礎用語~サプライチェーンの排出のものさし「スコープ1・2・3」とは」をもとに筆者作成
1)Green House Gas(温室効果ガス)の略称。GHGの内訳は二酸化炭素90.8%、メタン2.5%、他6.7%。
2)調査対象とする製品分類として、ボイラ、原動機、コンプレッサ、空圧機器、油圧機器、工業炉、建設機械、工作機械、産業用ロボットを特定。
3)米国の環境シンクタンクである世界資源研究所(WRI)と、持続可能な発展を目指す企業連合体である持続可能な開発のための世界経済人会議(WBCSD)が共同運営する民間のイニシアチブ。
4)International Sustainability Standards Board(国際サステナビリティ基準審議会)の略称。ESGなど非財務情報の開示の統一国際基準を策定する機関。国際会計基準の策定を行う民間非営利組織であるIFRS財団の下部組織として2021年11月に発足。
(2)機械産業のGHG排出の傾向
特定した製品分類の主要メーカー18社の2022年度GHG排出量を調査した結果…
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