コラム/トピックス

GHG削減目標 2035年までに60%削減 -日本政府、次期NDC案-

2025.1.10

政府は2024年11月25日、2035年までに温室効果ガス(GHG)排出量を2013年比で60%削減する案を提示した。これはパリ協定が、各国に5年ごとの更新・提出を義務付けているGHG削減目標(NDC:Nationally Determined Contribution、国が決定する貢献)の策定に際し検討された案で、提出に向けて今後検討が進められる見込みである。次期NDCは2025年2月中の提出が求められている。

<図 日本の排出削減の現状と次期NDC水準>

(出典:中央環境審議会 事務局資料*1

今回提示された削減目標案は現行のNDC(2030年までにGHG排出を46%削減)を達成した状態を起点として、2050年ネットゼロに向けGHG排出量を直線的に削減させる場合の数値である。次期NDCをめぐる会合では、GHG排出量の直線的な削減を進める経路(図中②)に加え、当初の削減ペースは緩やかながら、将来的に技術革新による急速な排出削減が進むことを想定した経路(図中①)、G7の一員として世界平均以上の目標を掲げ他国をリードする経路(図中③)の3つの排出削減経路が提示された。そのうち、排出削減と経済成長の同時実現に向けた予見可能性を高める観点からも直線的な経路を軸にした次期NDCの検討が提案されている。

一方で、2035年までに60%の削減では不十分との声もある。大手企業を含む国内252社が加盟する日本気候リーダーズ・パートナーシップは次期NDC案に対する提言を発表し、GHG削減の水準として2013年比で75%以上を求めた*2。環境保全団体である世界自然保護基金(WWF)も次期NDCの政府案に対し抗議する声明を出しており、少なくとも2013年比で66%以上の削減が必要との見解を示している*3。気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の第6次評価報告書(AR6)によると、現行の政策では21世紀の間に温度上昇が1.5℃を超える可能性が高く、温暖化を2℃より低く抑えることが困難になるおそれがあるという。国連環境計画(UNEP)は現時点で気温上昇を1.5℃に抑える目標が実現できる確率は最大で14%という試算を公開しており*4 、パリ協定の実現には各国の野心的なGHG削減が焦点となる。2024年11月にアゼルバイジャン・バクーで開催された第29回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP29)では、英国政府から「2035年までに1990年比で81%以上のGHG排出を削減する」という目標が発表され、話題となった。日本では次期NDCの提出に向け、今後さらに検討を進める見込みであるが、その目標水準に注目が集まる。

企業においては、NDCの更新にあたってTCFD開示などで実施したシナリオ分析やGHG排出削減目標の更新が必要になるであろう。NDCが野心的な水準となった場合は、シナリオや目標、移行計画の大幅な見直しを要するケースも想定される。昨今はTNFDをはじめとした自然資本に対する企業の関心が高いが、気候変動への対応も振り返りが推奨される。

【参考情報】
2024年11月25日付 中央環境審議会 地球環境部会 2050年ネットゼロ実現に向けた気候変動対策検討小委員会 開催資料
https://www.meti.go.jp/shingikai/sankoshin/sangyo_gijutsu/chikyu_kankyo/ondanka_2050/006.html

1)経済産業省HP
https://www.meti.go.jp/shingikai/sankoshin/sangyo_gijutsu/chikyu_kankyo/ondanka_2050/pdf/006_s01_00.pdf
2)日本気候リーダーズ・パートナーシップ HP
https://japan-clp.jp/wp-content/uploads/2024/11/20241114_JCLP_NDC_Proposal2_PressRelease.pdf
3)世界自然保基金(WWF) HP
https://www.wwf.or.jp/activities/statement/5825.html
4)経国連環境計画(UNEP) HP
https://www.unep.org/news-and-stories/press-release/nations-must-go-further-current-paris-pledges-or-face-global-warming

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この記事は「ESGリスクトピックス2024年度 No.10」(2025年1月発行)の掲載内容から抜粋しています。
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