コラム/トピックス

国際プラスチック条約、政府間交渉委員会での合意は延期

2025.1.10

韓国・釜山で国際プラスチック条約の採択に向けて開催された「政府間交渉委員会第5回会合(INC-5)」は2024年12月1日、文案の合意には至らず、採択は見送られた。

国際プラスチック条約に関する政府間交渉委員会は、2022年3月に行われた国連環境総会第5回会合(UNEA-5.2)での決議に端を発している。UNEA-5.2では海洋環境を含むプラスチック汚染について国際的な法的拘束力を持つ文書を策定する決議が採択され、2024年末までに国際プラスチック条約の策定作業を完了させることを目指すとしており、今回のINC-5が最終会合となる見込みであった。しかしINC-5の採択見送りを受けて、2025年に協議を再開する予定。INC-5では、今後の協議の出発点となる「議長文書*1」への合意を発表し、閉会した。

今回のINC-5は177か国の国連加盟国と440以上の国際機関、NGO等のオブザーバーが参加し、約3,800名の代表者によって協議が進められた。2024年4月の前回会合(INC-4)において作成された条文案のもと、前文から最終規定までの条約全体に関する協議が行われたが、第3条(プラスチック製品)、第6条(供給)、第11条(資金)については各国間の意見が分かれ、合意には至らなかった*2。特に第6条(供給)はプラスチック生産規制が大きな争点となっている。

なお、条文として合意に至った内容のうち、産業政策に関する項目として以下のものが挙げられる。

第5条:プラスチック製品・設計
  • プラスチック製品・設計の改善に向け、サーキュラーエコノミー・アプローチを採用する。
  • 環境、経済、社会および人間の健康に関する側面、および廃棄物削減と再利用の可能性を考慮すること、さらにライフサイクルアセスメント(LCA)と入手可能な最善の科学に基づき、製品、技術、サービスを含む、持続可能でより安全な代替品と非プラスチック代替品の研究、革新、開発、利用を促進する。
第7条:放出と漏出
  • マイクロプラスチックを含むプラスチックの環境中への放出と漏出を予防、削減し、可能な場合には廃絶する。
  • 海洋環境における、漁業活動によるプラスチック汚染(漁具の放棄、紛失、その他の方法で廃棄によるものを含むがこれに限定されない)を予防、削減し、可能な場合には廃絶する。
第8条:プラスチック廃棄物の管理
  • プラスチック廃棄物の安全な取り扱い、分別、収集、輸送、貯蔵、リサイクルおよび処分 (エネルギー回収を含む)のための適切なシステムと災害に強いインフラを国および地方 レベルで確立する。
  • プラスチック廃棄物の回収率とリサイクル率の向上のための目標およびターゲットを国レベルで設定する。
  • プラスチック廃棄に関わる労働者、特にウェイスト・ピッカーやその他の非正規労働者の公正な移行(ジャスト・トランジション)を促進する。

国際条約において各国間での合意が得られない一方、行政および民間での動きは活発化している。

欧州連合(EU)は12月16日、パッケージ・パッケージ廃棄物規則(PPWR)案を可決した*3。すでに欧州議会を通過し、規則として成立している。これまではEU指令として包装廃棄物の防止および管理のためのルールや目標を定め、加盟国への法制化を求めていたが、EU規則として加盟国に直接適用する形となった。その背景として、プラスチック廃棄物量の増加がリサイクル量を上回るペースとなっていることが挙げられる。PPWRでは、重量や懸念物質の含有量などのパッケージ素材に関する要件、使い捨てプラスチック包装の制限、再利用目標とリフィル容器の使用義務が定めている。

また、エレン・マッカーサー財団と国連環境計画(UNEP)が立ち上げ、企業や政府等の1,000以上の組織が署名しているサーキュラー・エコノミーの国際イニシアチブ「グローバル・コミットメント」は、2025年目標としてバージン・プラスチック使用量を2018年比18%減、プラスチックの再利用量を2018年比から増加、再生プラスチック生産量を2018年比から3.9倍とするなどを掲げている*4。グローバル・コミットメントは2024年版進捗報告書において、加盟団体のうち企業124社と16団体が過去1年間の進捗状況を報告しており、そのうちの上位25%は、すでにバージン・プラスチックの使用量を27%削減し、プラスチックの再利用量も微増しているなど、取り組みが進んでいるとした。

国際条約が最終的にどこまで厳格な内容になるかは不透明ではあるが、プラスチックと関係が強い企業は前述の各国規制や先進企業の取り組み状況を踏まえて、TNFDのプロセスに沿ったシナリオ分析などを実施し、今のうちに戦略を検討しておくとよいだろう。

【参考情報】
2024年12月1日付 国連環境計画(UNEP)HPプレスリリース
https://www.unep.org/news-and-stories/press-release/plastic-pollution-negotiations-adjourn-new-text-and-follow-session

1)国連環境計画HP「議長文書(Chair’s text)」
https://wedocs.unep.org/bitstream/handle/20.500.11822/46710/Chairs_Text.pdf
2)経済産業省HPプレスリリース(2024年12月2日付)
https://www.meti.go.jp/press/2024/12/20241202004/20241202004.html
3)欧州理事会HPプレスリリース(2024年12月16日付)
https://www.consilium.europa.eu/en/press/press-releases/2024/12/16/sustainable-packaging-council-signs-off-on-new-rules-for-less-waste-and-more-re-use-in-the-eu/
4)グローバル・コミットメントHP(2024年11月18日付)
https://www.ellenmacarthurfoundation.org/news/now-live-the-global-commitment-2024-annual-report

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この記事は「ESGリスクトピックス2024年度 No.10」(2025年1月発行)の掲載内容から抜粋しています。
ESGリスクトピックス全文はこちらからご覧いただけます。
https://rm-navi.com/search/item/1994

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