CSO(最高サステナビリティ責任者)が担う役割と価値創造の現場とは?専門家がセミナーで講演したポイントを紹介!
2026.3.5
サステナビリティの対応は、近年、企業価値を大きく左右する経営課題となってきており、日本でもCSO※(最高サステナビリティ責任者)を任命する企業が増えています。
こうした状況を踏まえMS&ADインターリスク総研では、国内企業でCSOやサステナビリティ部門の責任者を務める方たちを取材し、“あるべき姿”をまとめた『CSOと拓くサステナビリティ経営 価値創造の現場』(経済法令研究会刊)を2026年2月に出版しました。
この書籍の出版を記念したオンラインセミナーが2月25日に開催され、編著者で京都大学経営管理大学院の特命教授を務める加藤晃氏と、取材を担当したMS&ADインターリスク総研でサステナビリティ分野のコンサルタントを務める石川隆彦・末永潤が登壇。
グローバルの動向・研究や、CSO・サステナビリティ部門に求められる役割やスキル、組織を具体的に動かすためのヒントなどを解説しました。セミナーのポイントを紹介します。
※ 以前から存在する最高戦略責任者(Chief Strategy Officer)と区別するため、最高サステナビリティ責任者を「CSuO」とするケースもある
流れ
- CSOに期待される役割とは?
- 大きな責任を持つCSOに求められる“能力”とは?
- サステナビリティも「まずは『戦略』ありき」
- サステナビリティ部門の情報・コミュニケーション上の役割は?
- CSOはサステナビリティ・トランスフォーメーションの“先導者”
- サステナビリティ部門に求められる「つなぐ」と「自分事化」の実現
CSOに期待される役割とは?
オンラインで開催されたセミナーには、様々な業界の企業から約40名が参加し、第1部では京都大学経営管理大学院の加藤特命教授が「CSOー企業価値獲得の先導者ー」と題して、講演を行いました。
京都大学 経営管理大学院 加藤晃 特命教授
貿易商社、AIU保険会社、愛知産業大学、東京理科大学大学院経営学研究科技術経営専攻教授を経て、2025年から同大学嘱託教授。情報開示/経営戦略、サステナブルファイナンスが専門分野。
この中で、加藤特命教授はCSOというポジションの位置づけについて、企業内外の多数のステークホルダー(顧客、従業員、投資家、監督機関、サプライヤー等)と双方向の関係を築きつつ、社内外をつなぐ“架け橋”として機能することが求められると説明しました(下図)。


CSOを取り巻くステークホルダー(資料提供:加藤晃特命教授)
その上で、CSOに求められるのは、一方向的な情報発信ではなく、対話型のインタラクションだと強調しました。
また期待される役割や資質について、戦略的リーダーシップ、コンプライアンス、ステークホルダー・エンゲージメント、リスクマネジメントなど多岐にわたり、“スーパー・パーソン”のように幅広い知識と経験が要求されると指摘しました。
一方で、現在の日本企業におけるCSOの職位や組織内の位置づけは企業によりばらつきがあり、CEOや役員が兼務するケースもあれば、課長級が務めるケースまで存在するということです。
大きな責任を持つCSOに求められる“能力”とは?
続けて加藤特命教授は先行研究を踏まえたうえで、企業における以下3つのサステナビリティ取り組みの成熟段階に合わせて、CSOの役割や責任が変化すると説明しました。
第1段階:関連する法律や制度に沿って適切に取り組んでいる
第2段階:サステナビリティの取り組みの業務効率化ができている
第3段階:イノベーションを促進できる
CSOは、第2段階から第3段階に進むにつれてステークホルダーに対するコミュニケーションを成功させるために不可欠な存在になり、第3段階では、ビジョンと戦略の策定を主導し、最終的な責任がCEOからCSOに移ることが示唆されているとしました。
また、CSOの役割を8つの重要な仕事※に分解して測定した別の先行研究を取り上げ、あるCSOのケースでは、当初は自身の得意分野に注力したことからレーダーチャートがバランスを欠いた状態(赤の破線)が測定され、CSO自身が行動を修正した結果、バランスの取れた状態(青の実線)に変化したとの報告があったということです。こうしたアプローチは、CSOの採用や育成期のモニタリングに資する手法として有効だと指摘しました。
※コンプライアンス、モニター/報告、プロジェクトポートフォリオの監督、ステークホルダーとの関係、組織的能力の構築、企業文化変革、採用と経験、サステナビリティのプロセス/意思決定への盛り込み
その上で、CSOというポジションを評価する際の透明性とシンプルさが、組織全体における整合性と明確性を強化するとしました。


CSOの8つの重要な仕事(資料提供:加藤晃特命教授)
最後に加藤特命教授は、ビジョンや戦略の策定を主導するCSOに求められる能力について、MBAで学ぶような財務の基礎知識やサステナビリティに関する専門知識も必要だとしつつ、目標に向かって社内外とのコミュニケーションを通じてやり抜く力、人間性も含めた“巻き込み力”が非常に重要になってくると強調しました。
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サステナビリティも「まずは『戦略』ありき」
第2部では、MS&ADインターリスク総研のサステナビリティ分野のコンサルタント2名が登壇し、はじめに石川隆彦が「戦略・情報開示・コミュニケーション」をテーマに、実際に取材を行った企業の事例を紹介しました。
MS&ADインターリスク総研 リスクマネジメント第五部 サステナビリティ2グループ 石川隆彦 主任コンサルタント
この中で石川は、TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)の開示枠組みで提唱された「ガバナンス」「戦略」「リスク管理」「指標及び目標」からなる4つの「コア・コンテンツ」の位置づけに触れ、これらは並列の関係ではなく“まず戦略ありき”であり、サステナビリティの取り組みでも、戦略を中心に据えた密接な結びつきが不可欠だと説明しました。
その上で、成長戦略のひとつとしてサステナビリティ経営を掲げ、企業戦略と事業戦略の一体化を図る「CSV(Creating Shared Value:共通価値の創造)」の実現を目指しているJ.フロント リテイリング株式会社のケースを取り上げ、戦略と日常行動を結びづける言葉づくりの重要性を紹介しました。
具体的には、3つの共創価値(感動共創・地域共栄・環境共生)を定め、それらに基づく新たなマテリアリティ(重要課題)を従業員が自分を主語として考えられるように、「アクション型」の表現に変更する工夫を行っていると説明しました。
セミナー当日の資料より(出典:MS&ADインターリスク総研)
サステナビリティ部門の情報・コミュニケーション上の役割は?
また石川は、情報開示をする媒体について、有価証券報告書など法令で定められた報告を行う「法定開示」と、統合報告書など自由に自社の取り組みや魅力をアピールできる「任意開示」に大別されると説明。
その上で、「法定開示」が財務や法務、「任意開示」がIRや広報が担当することが多かった従来の状況が、サステナビリティの開示基準の策定やESG・SDGsへの関心の高まりから、どちらに対してもサステナビリティ部門の関与が重要になってきているとしました。
そして、株式会社日立製作所では社内横断的な開示媒体の制作体制を整備して、サステナビリティ部門が「法定開示」「任意開示」の両方に関与していることを紹介しました。
また、コミュニケーションの重要性について、不十分な情報開示が企業価値の低下につながる恐れがあるため、サステナビリティの取り組みにおいてもしっかりと開示することが企業価値向上につながるとしました。
好事例として株式会社レゾナック・ホールディングス(以下、レゾナック)を取り上げ、CSuOがインタビューの中で「(サステナビリティに関心が高い)投資家との対話は、CFO、IR部門と共にCSuOの私やサステナビリティ部が対応することもあります」と話していたことに触れました。その上で、レゾナックでは統合報告書に関してCSuOが編集責任を持ちつつ、他部門との企画会議を立ち上げて議論をしながら制作していることを紹介しました。
セミナー当日の資料より(出典:MS&ADインターリスク総研)
CSOはサステナビリティ・トランスフォーメーションの“先導者”
続けて、MS&ADインターリスク総研の末永潤が、各企業への取材を通じて得られたという「つなぐ」と「自分事化」という2つのキーワードで、CSOに求められる役割などを紐解きました。
MS&ADインターリスク総研 リスクマネジメント第五部 サステナビリティ2グループ 末永潤 上席コンサルタント
はじめに末永は、企業のサステナビリティの取り組みについて、単なる規制対応にとどまらず、企業の中長期的な収益性や生産性向上、そして多様なステークホルダーへの価値提供につながる「サステナビリティ・トランスフォーメーション(SX)」をめざすべきものであり、CSOはその“先導者”として経営の中核にサステナビリティを据える役割が期待されているとしました。
その上で、国内企業のCSOを取材した結果、「ビジョン」「キャリア」「巻き込み」という3つの力を共通して持っていたと話しました。
セミナー当日の資料より(出典:MS&ADインターリスク総研)
中でも、サステナビリティ分野の施策や取り組みを企業価値創造につなげるためには「巻き込み」の力が特に重要とし、CSOが各経営層を巻き込んで、全社的な推進力につなげる必要があると説明しました。
続けて、サステナビリティ部門に期待される役割について、事業部門の目標や施策・取り組みが、サステナビリティのマテリアリティ(重要課題)と同じ方向を向くように、現場に寄り添いながら対話を通じて取り組みを加速させる必要があるとしました。
その好事例として帝人株式会社のケースを取り上げ、サステナビリティ部門と全事業部門が約1年間、関連するKPIなどの策定に向けて対話したというエピソードを紹介しました。その上で、対話を進めるにあたっては、これまで培ってきた社内の様々な部署とのパイプや、コミュニケーションできる関係性が重要だとしました。
サステナビリティ部門に求められる「つなぐ」と「自分事化」の実現
CSOとサステナビリティ部門が役割を果たすために必要なこととして、末永は、CSOのリーダーシップの下で、「つなぐ」と「自分事化」の実現を挙げました。
セミナー当日の資料より(出典:MS&ADインターリスク総研)
「つなぐ」の実現にあたって、CSOは経営メンバー間をつなぎ、メッセージを全社に発信すること、サステナビリティ部門は対話を通じて、サステナビリティに関するビジョン・戦略を事業部門の現場につなげる必要があると強調しました。
また、「自分事化」の実現に向けては、経営層の目標から社内各層の評価へとカスケードダウンする制度設計や、施策や研修などを通じて経営層だけでなく現場の従業員一人ひとりの主体的な行動変容を導くことが必要だとしました。
最後に、ネイチャーポジティブの実現に向けたコミュニケーションを題材に、社内の「つなぐ」と「自分事化」を、地域社会、産学官等のステークホルダーも包括した形で連鎖させることの重要性を説明しました。
セミナー当日の資料より(出典:MS&ADインターリスク総研)
その上で、CSOのリーダーシップとサステナビリティ部門の対話力によって、事業活動におけるリスク低減やブランド価値につながる取り組みを広げること、消費者や投資家などへの情報発信を通じて新たな価値を認識させる流れを生み出すことが、今後のサステナビリティ経営の要であるとしました。
