CSO(最高サステナビリティ責任者)に求められる“力”とは? キーワードは「巻き込む力」と「自分事化」
2026.3.9
企業のサステナビリティ取り組みへの関心がいっそう高まる中、日本企業でもCSO※(Chief Sustainability Officer・最高サステナビリティ責任者)という役職を設置する動きが出てきています。
こうした中、MS&ADインターリスク総研は、国内企業のCSOやサステナビリティ部門責任者の方々を取材し、“あるべき姿”をまとめた書籍『CSOと拓くサステナビリティ経営 価値創造の現場』(経済法令研究会刊)を2026年2月に刊行しました。
今回は、CSOの方々の考えや企業の取り組みについて、取材を行ったMS&ADインターリスク総研のコンサルタントである末永潤に話を聞きました。
※ 最高戦略責任者(Chief Strategy Officer)と区別するため、最高サステナビリティ責任者を「CSuO」と呼ぶ企業もある
流れ
- CSOを設置する日本企業の現在地
- CSOに求められる力とは?
- 「自分事化」がサステナビリティの取り組みを前進させる
- サステナビリティ分野の価値を示すには
- CSOと共に組織・取り組みを動かす
CSOを設置する日本企業の現在地
ーー今回の取材先の企業は、どのような観点で選定したのでしょうか?
末永)BtoB(企業間取引)やBtoC(消費者向け取引)、「モノ」を提供する製造業や「無形」のサービスを提供する金融業など、顧客層や提供価値の異なる10社を選定しました。
取材にあたったコンサルタントの1人、末永潤
取材した企業
| 食品・ライフサイエンス・消費財 | |
|---|---|
| ・キリンホールディングス株式会社 | ・味の素株式会社 |
| ・株式会社コーセー | |
| 流通・小売 | |
| ・J.フロント リテイリング株式会社 | |
| 環境ビジネス | |
| ・株式会社フェイガー | |
| 総合技術・製造業 | |
| ・株式会社 日立製作所 | ・帝人株式会社 |
| ・株式会社レゾナック・ホールディングス | ・株式会社リコー |
| 金融サービス | |
| ・MS&ADインシュアランス グループ ホールディングス株式会社 | |
| 食品・ライフサイエンス・消費財 | |
|---|---|
| ・キリンホールディングス株式会社 ・味の素株式会社 ・株式会社コーセー |
|
| 流通・小売 | |
| ・J.フロント リテイリング株式会社 | |
| 環境ビジネス | |
| ・株式会社フェイガー | |
| 総合技術・製造業 | |
| ・株式会社 日立製作所 ・帝人株式会社 ・株式会社レゾナック・ホールディングス ・株式会社リコー |
|
| 金融サービス | |
| ・MS&ADインシュアランス グループ ホールディングス株式会社 | |
ある研究者は、企業のサステナビリティ分野の成熟度を①コンプライアンス ②効率化 ③イノベーションの3段階に分類した時、②から③へと移行する過程でCSOが権限を獲得し、③ではCSOが企業のビジョンや戦略の策定を主導するとの分析結果を提唱しています。(Miller&Serafeim, 2014)
今回お話を聞くことができた日本企業はいずれも、②のレベルから③を目指す過程にあるといった印象を受けました。
ーー取材した皆さまのキャリアには、共通するところはあったのでしょうか?
末永)過去に企業の情報開示を担当していたり、サステナビリティに関連する商材を扱っていたりと、キャリアのどこかでサステナビリティの前提となる知識や経験を得ていた方が多かったです。
一方で、例えば「学生の頃からサステナビリティの研究一筋でやってきました」といった方はいませんでした。職歴で培ってきた経験と、習得したサステナビリティ分野の知見を掛け合わせることで、取り組みを推進されています。
CSOに求められる力とは?
ーーCSOに“求められる力”という点では、皆さまに共通するものはありましたか?
末永)CSOの皆さまのお話から、共通する“力”として3つあると感じました。
1つめは、理念やパーパスなどから、企業が将来「こうありたい」というビジョンを具体化する力です。
2つめは、CSOがこれまでに積んできたキャリアから得た知見を発揮する力。
そして最後が、社内外との対話に必要となるコミュニケーション力、巻き込む力です。
ーー3つの力の中でも、特にどの力が求められると考えていますか?
末永)企業がサステナビリティの取り組みを実行し、推進していくためには、実際に現場が動かなければなりません。その意味では、CSOに強く求められるのは「巻き込む力」だと考えています。
サステナビリティの取り組みを全社的に推進するには、社内の理解を得て、必要性を認識してもらい、実際の行動に移してもらうまでが必要です。そのためにCSOは、まず経営会議の場などで、社長をはじめ、社内の各領域を担当する役員を巻き込んでいかなければなりません。
「経営レベル」を巻き込むことができたら、サステナビリティ部門のメンバーを動員しながら、次は「部門長レベル」、その次は「現場レベル」というように、カスケードダウンさせる必要があります。
このような「巻き込む力」の流れをつくり、最終的に企業の事業活動そのものにサステナビリティの観点を組み込むことが、CSOに求められる役割です。
このコンテンツは約6分で読めます。
残り2940文字
この先は「続きを読む」を押してください。
「自分事化」がサステナビリティの取り組みを前進させる
ーー企業がサステナビリティの取り組みを具体的に進めるために不可欠な要素はなんですか?
末永)「自分事化」だと考えています。
CSOという役職を設置したり、CSO自身がいくら理念を掲げたりしても、本社部門や製造部門、営業部門などの現場の1人ひとりが、それぞれの立場で「自分事化」していかなければ、サステナビリティは“絵に描いた餅”に終わってしまいます。
そのためには、例えば役員に対する評価にサステナビリティの観点を盛り込むことで、役員が担当する部門への評価にもつながり、現場の1人ひとりの評価にもつながっていきます。こうした枠組みを作っていくことが「自分事化」を促進していくための1つの手法となります。
また、事業部門を動かすためには、CSOのリーダーシップの下、サステナビリティ部門が現場に寄り添いながら「自分事化」を促進し、実践を後押しすることが必要です。
サステナビリティ経営の目指す方向は、「社会課題の解決が企業の成長を生み、その成長がさらに社会課題解決能力を高める」ことだと思いますが、事業部門では目の前の仕事が、サステナビリティの観点でなぜ重要なのか、事業機会とどのように関連するのか、ということに気付けていないこともあるようです。
どういうことかと言うと、例えば、ある食品メーカーでは廃棄ロスが出ていたため、事業部門でロスを減らしてコストを削減していたとします。これは、サステナビリティ文脈で見ると、「食品ロス」という社会課題の解決につながりますし、食品ロスの削減技術を開発・提供することで新たな事業機会にむすびつくかもしれません。
そこでサステナビリティ部門が現場の声を丁寧に拾い上げ、社内に発信することが重要です。好事例や課題の共有は、現場が自らの活動の社会的意義を実感するだけでなく、サステナビリティの取り組みに対する社内の共感を醸成することにもつながります。
例えば株式会社日立製作所さまのサステナビリティ部門は、時間がある限り世界中の生産現場などを訪問し、現場レベルの好取り組み・事例を拾い上げてレポートやホームページで紹介する活動を行っているそうです。
サステナビリティ分野の価値を示すには
ーー2027年3月期から適用開始となるSSBJ基準※など、これまで以上にサステナビリティ分野に関して「投資家にとって有用な情報の開示」が求められます。対応の一つとして「価値を定量的に示す」ことが考えられますが、取材した企業の取り組み・考えはどうでしたか?
※SSBJ基準:「サステナビリティ基準委員会(SSBJ)」が2025年3月に公表した日本の情報開示基準。有価証券報告書での開示に適用される
末永)例えば味の素株式会社さまは、製品がお客さまに届くまでの企業活動全体、つまり「バリューチェーン」でサステナビリティにつながる価値をいかに作り出しているのかを説明しています。
同社が製造するうま味調味料の原材料キャッサバは、タイで生産されています。現地の農家はキャッサバに広がる病害や労働力不足などの課題を抱えています。そのため同社は、農家に技術や農業資材の提供、教育支援などを行っています。
さらに製造過程では環境負荷の低い技術を使う一方、販売過程では栄養バランスの良いメニューを提供して生活者の健康にアプローチするなど、バリューチェーン全体で複数の社会・環境課題に取り組んでいるそうです。そして、これらの取り組みがどのような形で経済・社会的な価値を生み出しているかを定量的に示しています。




出典:味の素株式会社 IR Day「企業価値向上に向けたサステナビリティの取り組みについて」(2024年3月27日開催)
(https://www.ajinomoto.co.jp/company/jp/ir/event/business_briefing/main/011113/teaserItems1/01/linkList/01/link/Sustainability_J.pdf)
一方で、サステナビリティの取り組みは、財務的な価値として示しやすいものと、取り組みを通じて獲得する「社会的な信頼」などのように、財務的には評価しにくいものがあります。株式会社レゾナック・ホールディングスさまからは、企業の成長につながる取り組みや、社内外から共感を得るための働きかけなどを積み重ねてから、財務的な価値との関連性を示していくという考え方をうかがいました。現時点では財務的に評価しづらいからといって、必ずしも優先度を下げてよいわけではない、ということですね。
CSOと共に組織・取り組みを動かす
ーー最後になりますが、今回の取材を通して、企業のサステナビリティに関する取り組みはどのような方向に向かっていくと考えていますか?
末永)企業におけるサステナビリティの“最終形”は、事業活動にサステナビリティが当たり前のように組み込まれている状態なのだと思います。面白いことに、取材したCSOやサステナビリティ部門の責任者の方からは、最終的に目指すべきはCSOやサステナビリティ推進部門といった「サステナビリティに特化」した役割がなくなっている状態という意見もうかがいました。持続可能性への貢献が会社の稼ぐ力の源泉となり、課題解決を通じて利益が生まれている状態が、究極の理想形といえるでしょう。
その理想に少しでも近づくためには、CSOを起点にサステナビリティの取り組みをどこまで拡げられるかにかかっています。そのためにはCSOが設置されているだけでは十分でなく、サステナビリティ部門をはじめとする社内関係者や、社外のステークホルダーとどのように協働していくのかが問われます。本書のタイトルが「CSO“と”拓くサステナビリティ経営」である理由は、まさにその点にあります。
本書籍の中心にあるテーマは「サステナビリティ」ですが、企業が目的の達成にむけて経営層や事業部門をどのように巻き込み、動かしていくのかという、経営における普遍的な要素が散りばめられています。組織を動かすのはどのような人なのか、どのような取り組みが必要なのかなどに興味がある方にも、参考になる要素が含まれているのではないでしょうか。
≪参考文献≫
・Miller, Kathleen & Serafeim George (2014). “Chief Sustainability Officers: Who Are They and What Do They Do?”, SSRN.
(本インタビューは、2026年1月23日に実施されたものです)
