コラム/トピックス

「南海トラフ地震臨時情報」調査終了も企業が警戒するべきポイントは?

[話を聞かせてもらったコンサルタント]

石川 美有
専門領域
BCP/BCM(事業継続マネジメント)
役職名
リスクマネジメント第四部 事業継続マネジメント第一グループ
上席コンサルタント
お名前
石川 美有 Myu Ishikawa

2025.1.21

2025年1月13日、日向灘を震源とする地震が発生したことを受けて、気象庁は南海トラフ地震の評価検討会を開きましたが、特段の防災対策をとる必要はないとして、調査を終了したと発表しました。
南海トラフ地震をめぐっては、2024年8月には「南海トラフ地震臨時情報(巨大地震注意)」が発表されるなど、対象地域の企業のみなさまは、情報を注視されていることと思います。そこで、改めて「南海トラフ地震臨時情報」の基本的な情報や、企業が警戒すべきポイントについて、MS&ADインターリスク総研の上席コンサルタントである石川美有さんに話を聞きました。

南海トラフ地震臨時情報とは?

―― そもそもになりますが、「南海トラフ地震臨時情報」について、教えてください。

石川)「南海トラフ地震臨時情報」というのは、南海トラフ巨大地震の想定震源域で異常な現象が観測されるなどした際、気象庁から発表されるものです。実際に地震が起こっていなくても危険性が高まっているという時に、注意を喚起するために出される情報です。

【図:南海トラフ地震臨時情報】

「南海トラフ地震臨時情報」には、「調査中」、「巨大地震警戒」、「巨大地震注意」、「調査終了」の4つがあり、「南海トラフ地震臨時情報(調査中)」といった形で情報名のあとにキーワードが付けられて発表されます。

気象庁では、南海トラフ沿いでマグニチュード6.8以上の地震等の異常な現象を観測したあと、5~30分後に南海トラフ地震臨時情報(調査中)を発表し、その後、「南海トラフ沿いの地震に関する評価検討会」(以下、評価検討会)の臨時会合での調査結果を受けて、該当するキーワードを付けた臨時情報が発表します。

「調査終了」も引き続き巨大地震への備えを

―― 今回は、結果的に「調査終了」となりましたが、どう受け止めればよいのでしょうか。

石川)日向灘を震源とする地震を受けて、評価検討会が開かれたわけですが、「南海トラフ地震情報(巨大地震注意)」を発表する基準のマグニチュード7.0を下回ったということで、気象庁は「調査終了」と発表しました。

今回は「南海トラフ地震臨時情報」に関して、「巨大地震注意」や「巨大地震警戒」というステップに進まずに終わりました。一方で、政府の地震調査委員会は、南海トラフの巨大地震が今後30年以内に起こる確率について改めて計算して、これまでの「70%から80%」を「80%程度」に引き上げています。

このため、南海トラフ地震の被害が予想される地域の皆さんには、引き続き巨大地震に備えておく必要がある状況には変わりはありません。

企業は巨大地震にどう備える?

―― 企業としては、巨大地震にどう備えておく必要がありますか?

石川)南海トラフ巨大地震の大きな特徴は、広範囲での強い揺れがある点と、大きな津波が起きる恐れがあるという点です。このため、強い揺れや大きな津波が想定されるエリアに事業所や拠点があるかどうかということを、ハザードマップなどで調べていただくということが1つ挙げられます。そのうえで、どのような被害が起きうるのかリスクを正しく把握して、そのリスクに備え対策をとっていく必要があります。

また、今回の調査を終了した「南海トラフ地震臨時情報」もそうですし、前回(2024年8月の)のケースでも、勤務時間外に地震が発生して情報が出されました。このため、従業員の皆さまの家庭での防災の備えについても、企業として呼びかけていくことも大事になってくると思います。

「臨時情報」にあわせてどんな対策をとる必要が?

―― 「南海トラフ地震臨時情報」には「巨大地震注意」「巨大地震警戒」という段階がありますが、今後、それぞれの情報が出た場合に備えて、企業はどのような準備をしておく必要がありますか?

石川)内閣府が公表した「南海トラフ地震の多様な発生形態に備えた防災対応検討ガイドライン」(2021年5月改訂)の中には、「巨大地震注意」、「巨大地震警戒」のそれぞれの場合に企業がとるべき対応が整理されています。

たとえば、「臨時情報(巨大地震警戒)発表後は、企業活動を1週間どのように継続するか検討する」、「南海トラフ地震臨時情報(巨大地震注意)発表時は個々の状況に応じて、後発地震に備えて注意した防災対応を検討する」などが推奨されています。

これを踏まえて、MS&ADインターリスク総研のクライアントの中には、臨時情報が発表されたときの対応事項を事前に整理しているところもあります。具体的には、次の表にまとめましたので、ご参考にしてください。

表:南海トラフ地震臨時情報に対する企業の対応事例

業種 巨大地震警戒 巨大地震注意
(M7以上の地震)
巨大地震注意
(ゆっくりすべり
金融業A社 巨大地震警戒(半割れ)が出た場合、
津波リスクのない支社・営業所は拠点閉鎖し、
原則拠点内で待機。
以降、自治体指示に従い行動する。
津波リスクのある支社・営業所は拠点閉鎖し、
津波避難所へ直ちに避難する。
以降、自治体指示に従い行動する。
地震に備えつつ、業務継続。
ただし、自治体の指示があれば、
自治体指示に従い行動する。
金融業B社 震度6弱以上の揺れが予想される営業拠点は閉鎖する。
津波浸水想定区域の営業拠点は閉鎖し、避難。
震度6弱以上の揺れが予想される営業拠点でも閉鎖はせず、
地震への備え(備蓄品、避難場所等)を確認する。
津波浸水想定区域の営業拠点は、必要に応じて閉鎖し、避難する。
震度6弱以上の揺れが予想される営業拠点でも閉鎖はせず、
地震への備え(備蓄品、避難場所等)を確認する。
津波浸水想定区域の営業拠点は、本社指示により閉鎖し、避難する。
金融業C社
  • 臨時情報発令時は、各拠点では「情報モニタリング」「地震への備えの再確認」「PC持ち帰り」「被害回避策の検討」「事前避難対象地域内の拠点に対する避難・閉鎖準備」等を行う。
    同時に、本社では「リモート対応運営の指示」「在宅勤務ルールの緩和検討」「事前避難対象地域の営業所の把握」などを行う。
  • 避難指示が出た場合は、各拠点では「避難開始・拠点閉鎖」、「代替拠点での業務継続」等を行う。
    同時に、本社では「代替拠点への出社指示」「代替拠点に関連した人事諸手続きの案内」等を行う。
  • 上記について、本社および各拠点向けの行動チェックシートを作成し、展開。
製造業D社 臨時情報が発表された場合、自衛消防隊をいつでも活動できるように体制再構築(現在検討中)
製造業E社 勤務時間中に巨大地震警戒が発表された場合、
速やかに業務を終了し退社後、自宅待機する。
なお、勤務時間外に発表された場合も同様に
自宅待機とする。
警戒解除後には、原則出社する。
注意の段階では、業務継続。

MS&ADインターリスク総研にて作成(2022年当時)

※ ゆっくりすべり:断層がゆっくり動いて、地震波を出さずにひずみエネルギーを解放する現象

「空振りを恐れない」

―― 今後も「南海トラフ地震臨時情報」が発表されることがあると思いますが、改めて企業にはどんなことが求められるのでしょうか?

石川)企業に求められることは「空振りを恐れない」ことだと考えています。震度 5 強以下の地震は、国内でも頻繁に発生していますし、緊急地震速報に触れる機会も増えているので、企業として起こしたアクションが“空振り”に終わるのではないかという不安をお持ちかもしれません。

ただ、実際に大規模な地震が発生して、「情報を基に備えを強化しておけばよかった」と後悔するのでは遅いのです。先ほど紹介した企業の対応事例では、「巨大地震警戒」の情報が発表された際には「事業停止」、「巨大地震注意」の情報であっても「備えを確認する/津波浸水想定区域では拠点閉鎖」といったアクションが盛り込まれています。

「南海トラフ地震臨時情報」に基づいた企業の対応を検討する上では、このように「空振りを恐れないこと」と「臨時情報を“これまでの対策をスムーズに実施する確認の機会”と捉えること」が重要です。

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「南海トラフ地震臨時情報発出時の企業対応について」
https://rm-navi.com/search/item/1141

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