災害発生時におけるSNS投稿情報の活用
[このコラムを書いたコンサルタント]
- 専門領域
- 気候変動、水文学
- 役職名
- データアナリティクス部 リスク計量評価第一グループ 担当
- 執筆者名
- 吉川 晴矢 Haruya Yoshikawa
2025.2.5
近年、全世界で大規模な災害が頻発しており、特に気象災害は進行する地球温暖化によってリスクが高まっている。災害による被害や影響を軽減するためには、事前に対策をすることはもちろんのこと、実際に災害が発生した際の適切な初動対応が求められる。
発災時に自治体や企業が適切な対応を行うためには、被災状況に関する情報収集が非常に重要であろう。理想は正確で網羅的、迅速な情報収集だが、実際には完全な情報を得るのは難しく、断片的な情報をもとに判断する必要がある。
一般的に公的機関が調査し発表する情報は、網羅的かつ情報源も明確で信頼性が高いが、正確性を担保するために詳細な調査を行ったり、情報を集約したりするために、公開まである程度の時間を要することが多い。災害時には、現場の様子がリアルタイムで把握できる新たな情報源が必要だ。
近年、スマートフォンとSNSの普及に伴い、だれでも簡単に情報発信が可能となった。インターネット上には日々あらゆるジャンルの情報が大量に公開されるが、その中には災害現場に関する情報も含まれる。災害発生時の情報収集手段としてSNSが利用され始め、自治体など公的機関による情報提供を市民が閲覧するのみならず、市民の投稿を自治体や企業が活用するケースも増えている。2011年の東日本大震災では、孤立した避難先の状況を知らせる投稿が、実際に救助に役立てられた例も存在する。
SNSに投稿される情報は、現地の状況をリアルタイムに反映し、なにより迅速性に優れているのが利点である。また、ある程度人口的な偏りが影響するものの、都市部(≒被害が大きくなりがちな地域)ではSNS利用者が多く情報が網羅的であるとも言える。
SNS情報の有用性が注目される一方で、誰もが簡単に情報を発信できるという特性上、その信頼性について吟味する必要がある。過去の災害では、閲覧数稼ぎのためと思われるデマが拡散されてしまったこともあった。また、被害規模などを知らせる情報には、投稿者の主観が多分に含まれていることにも注意を要する。情報を活用する際は、人工衛星画像など他のデータソースと組み合わせて正確性を担保していくことが求められるだろう。
最近ではAI技術の発達により、インターネット上の大量の情報を収集・整理することが可能になってきた。同時にデマの判定を自動的に行う技術も利用され始めている。適切なフィルタリングによって情報の正確性が担保されれば、自治体による早期復興や、民間企業における広域のリスク情報の把握にも活用の可能性がある。
当社でもSNSに投稿された災害情報の活用を進めている。自動収集した水災関連のSNS投稿と他のデータを組み合わせ、浸水範囲・被害件数をリアルタイムで推定するシステムを開発している。浸水の可能性が高い地域を地図上に可視化することで、浸水状況を面的に広く把握することも可能である。
災害時のSNS投稿情報の活用はまだ始まったばかりである。経済発展や通信技術の発達に伴ってSNSは世界中で急速に広まっており、画像や動画を投稿できる媒体も増えている。災害発生時には、リアルタイム情報としてSNS投稿情報の利用は今後ますます進んでいくのではないだろうか。
(2025年1月30日 三友新聞掲載弊社コラム記事を転載)