中国での風水災の広域化を踏まえた企業のリスク対策【中国風険消息(中国関連リスクニュース)2025年度 No.1】
[このレポートを書いたコンサルタント]
- 会社名
- インターリスク上海
- 執筆者名
- 総経理 大嶋 智也
- 主管 葛 永正
2025.7.3
- 近年、中国各地で風水災の激甚化・広域化が進んでおり、従来被害が少なかった地域でも備えが不可欠となっている。
- 企業としては具体的な風水災対策をハード面(建物・設備施設・貨物)、ソフト面(管理)の観点から講じる必要がある。
- 風水災による損害は物的被害にとどまらず、事業中断や信用失墜を招くため、事前点検や体制整備が極めて重要となる。
1.風水災の発生状況
近年中国においても、天候の不順や異常気象が取りざたされるようになった。中国では台風の上陸シーズンは7月から8月にピークを迎えるが、2024年は9月16日に台風13号(バビンカ)が上海に上陸した。この台風は過去70年で最も強い勢力で上陸し、強風と豪雨により都市部の広範囲で浸水や停電が発生する事態となり、経済損失は2300億元(約4.6兆円)に達した。
また、翌週の9月19日には台風14号(プラサン)が浙江省に上陸した。勢力は強くはなかったものの、南からの湿った空気と北からの寒気を伴った気圧の谷の影響により、大雨をもたらし、各地に大きな被害を及ぼした。
図1 台風の上陸数(月別)※1


図2 2024年に上陸した台風の経路※1


また、表1は昨年中国気象学会と全国暴雨研究センターが主催した「暴雨東湖フォーラム」で中国気象科学研究院の徐祥徳氏が発表した中国国内の十大異常気象に関するものである。
表1 2024年に中国内で発生した十大異常気象
| 事例 | |
|---|---|
| 1 | 华南大暴雨引发北江罕见大洪水 (華南地域における豪雨により北江で稀発の大規模洪水が発生) |
| 2 | 龙门港小时雨强破广西历史极值 (龍門港における時間当たり降雨量が広西壮族自治区の観測記録を更新) |
| 3 | 入梅强降雨导致安徽歙县等地极端暴雨洪涝 (梅雨期の強雨により安徽省歙県を含む地域で集中豪雨および洪水災害が発生) |
| 4 | 持续梅雨诱发长江中下游大面积洪水 (断続的な梅雨前線の活動により長江中・下流域に大規模洪水を誘発) |
| 5 | 北方首场大暴雨,黄淮旱涝急转 (北部地域で大規模豪雨を観測し、黄淮地域において干ばつから洪水への急激な気象転換が発生) |
| 6 | 极端特大暴雨肆虐黄河中下游 (黄河中・下流域において極端かつ記録的な豪雨が襲来) |
| 7 | 台风“格美”携雨袭击湖南等省 (台風「格美」が湖南省等複数省に豪雨をもたらし被害を及ぼす) |
| 8 | “七下八上”强降水绵延数千公里 (「七下八上」と呼ばれる強降水帯が数千キロにわたり持続的に展開) |
| 9 | 葫芦岛遭遇罕见暴雨,创历史之最强 (葫芦島市で観測史上最強の豪雨を記録) |
| 10 | 台风“贝碧嘉”创登陆上海最强纪录 (台風13号(バビンカ)が上海市に上陸した台風として最強の記録を樹立) |
出典:中国科技网 2024年全国十大暴雨事件发布
https://www.stdaily.com/web/gdxw/2024-10/21/content_245535.html
2024年に中国で発生した風水災事例からは、従来、主に広東省や福建省など華南地域を中心に発生していた風水災が、長江流域や黄河流域、さらには華北・東北地域にまで広範囲に拡大していることが確認される。これは、地域を問わず中国全土が風水災リスクに晒されている状況を示している。
また、観測記録を更新するような豪雨や台風が相次ぎ、気象災害の激甚化・極端化・多様化が進行している。都市部への直接的な影響や、局地的かつ広域的な降雨の同時発生も特徴的であり、従来の想定では対応しきれない局面が増えている。
こうした状況を踏まえると、企業においては建物・設備の整備に加え、立地や拠点特性に応じた平常時からのリスク評価と、BCP(事業継続計画)に基づく対応体制の構築・運用が不可欠であるといえる。
2.企業が実施する対応としての考え方
風水災に備えるうえで、企業が講じる対応は大きく分けて「① ハード面(物理的な備え)」と「② ソフト面(管理体制・運用面の対応)」の2つに分類される。この2つの観点に加えて、対応のタイミングを「A 平常時(発災前)」と「B 発災直前(災害発生の予兆・警報段階)」の時系列で区分することにより、具体的な対策の整理と実施判断がしやすくなる。
以下の表2は、それぞれの観点とフェーズにおける対応領域を整理したものであり、企業が自社の対応状況を確認・評価する際の基本的な枠組みとなる。
表2 対応の観点及び対応フェーズ
| 対応の観点 | 対応フェーズ | ||
|---|---|---|---|
| A 平常時 | B 発災直前 | ||
| ① ハード面 | 建物 | ○ | ○ |
| 貨物 | ○ | ○ | |
| 施設設備 | ○ | ○ | |
| ② ソフト面 | 管理 | ○ | - |
以降にハード面及びソフト面におけるフェーズ毎の具体的な対応について解説する。
3.風水災被害軽減のためのチェックポイント(ハード面)
風水災による被害を軽減するうえで、企業がまず講じるべきは、建物・施設設備・貨物といったハード面の脆弱性の把握と改善である。強風や浸水、飛来物といった外的要因に備え、日常的な点検・保守に加えて、緊急時に備えた資機材の準備や配置の見直しを行うことが重要である。
とりわけ、事前の対策が不十分な場合、物的損害が拡大するだけでなく、業務停止や復旧の長期化を招くリスクが発生する。ハード面での対策は、平常時の備えと発災直前の行動に分けて整理し、各観点に応じた具体的な実施項目を明確にしておくことで効果的となる。
以下に、「建物」「施設設備」「貨物」の3つの観点に分け、企業が講じるべき具体的な対応を示す。
① 建物
平常時においては、建物や設備の脆弱性を日頃から把握し、点検・整備を継続的に行うとともに、補強・修繕を適切に実施することが求められる。また、風水害発生時の被害を最小限に抑えるために、開口部の封鎖措置、排水設備の維持管理、屋外物の固定・撤去など、事前に講じておく必要がある。
また、風水害の発生が目前に迫った段階においては、人的・物的被害の発生を防ぐために、建物の開口部や構造の保全を最優先で実施する必要がある。平常時に準備した対策を、迅速かつ確実に実行できるかが、被害の程度を大きく左右する。
特に、建物内部への浸水を防ぐために、止水板や土のうの確実な設置が不可欠である。また、窓・ドア・シャッターなどの開口部は確実に閉鎖・施錠し、強風による開放や飛来物の侵入を防止することも重要である。
以下に、建物に関する平常時および発災直前の対応項目を示す…
【参考資料】
※1)《中国気候公報(2024)》,中国気象局
https://www.cma.gov.cn/
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