コラム/トピックス

IPBESが生物多様性、水、食料、健康の相互関係に関する「ネクサス報告書」を発表

2025.2.7

IPBES(生物多様性および生態系サービスに関する政府間プラットフォーム)※1は、2024年12月16日に開催されたIPBES第11回総会の場で、生物多様性、水、食糧、健康、気候変動の相互関係に関する評価報告書「ネクサス報告書」を発表し、承認された。同報告書は、これらの課題に対する正の相乗効果を最大化するために70の具体的な対応策を提示している。また、これらの問題は連鎖的に影響し合うため単独で対処することは非効率的であり、むしろ逆効果を生む可能性があると指摘した。

具体例として、セネガルでの住血吸虫症への対応が挙げられている。単に健康問題として薬で対処するのではなく、水質改善と水域に侵入した有害植物の除去により病気を媒介するカタツムリの生息地を減少させることで、感染率を32%減少させ、地域の淡水アクセスを改善し、経済的利益ももたらした。このように、単一の問題だけに焦点を当てるのではなく、複数の要素を考慮した統合的アプローチが求められている。

また、多くの経済活動が自然に依存しているにもかかわらず、短期的な利益が優先され、環境へのコストが考慮されていないことを批判した。このような環境へのコストは、少なくとも年間10兆~25兆米ドルと推定され、これが持続可能性の実現を妨げていると警笛を鳴らした。また、世界が対策を先延ばしにするほど、生物多様性目標の達成にはコストが2倍に膨らむとも試算している。

同報告書は、生物多様性の減少が食料安全保障や健康に深刻な影響を与えていることを強調し、それらの課題への対策が一貫性を欠いていると指摘している。また、これらの危機が社会の不平等を拡大させていることを示しており、特に開発途上国や先住民族、地域コミュニティが大きな負の影響を受けている。世界の人口の半分以上が、生物多様性の減少や食料安全保障の低下、気候変動の影響を強く受ける地域に住んでおり、これに対処するためにはより包括的な意思決定が不可欠で、影響を受ける人々を含めて解決策を講じることが重要とした。

同報告書内で検討された「自然志向型」「バランス型」「環境保全ファースト」「気候ファースト」「食料ファースト」「ネクサス搾取」の6つの未来のシナリオにおいても、現状維持では生物多様性や水質、健康に悪影響が及び、気候変動への対応が困難になると予測された。例えば「食料ファースト」シナリオでは、短期的には利益をもたらすが長期的には他の重要な要素に悪影響を及ぼす可能性が示唆された。

SDGsやパリ協定の達成に向け、生物多様性、水、食糧、健康、気候変動に関する統合的なアプローチとして、生態系の修復や病気のリスクを減らす生物多様性の管理、持続可能な健康的食事などを挙げ、これらを組み合わせて実施することで、コスト削減と効果の最大化が図れるとした。またガバナンスの改善も強調されており、現在の断片化された政策ではなく、統合的で公平な『ネクサスガバナンスアプローチ』への移行を求めている。本報告書は、これらの相互に関連する問題に対して統合的な解決策を提供し、持続可能な未来を目指すための重要な指針となっている。

自然関連財務情報開示タスクフォース(TNFD)の提言おいても、「気候と自然の統合(Climate-Nature Nexus)が一般要件等で強調されている。また企業がTNFD提言が推奨する自然関連シナリオ分析を進める際には、本報告書で示されたシナリオも参考になるだろう。

【参考情報】
2024年12月16日付 IPBES HP:https://www.ipbes.net/nexus/media-release

1)生物多様性条約第10回締約国会議(CBD-COP10/2010年)の決議に基づいて、生物多様性と生態系サービスに関する動向を科学的に評価し、科学と政策のつながりを強化する政府間のプラットフォームとして2012年に設立。2025年1月時点で147カ国・地域がメンバーとして参画。

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