コラム/トピックス

GRI、TNFD開示との整合を重視した「生物多様性報告」事例付きガイドを公表

2026.4.8

Global Reporting Initiative (GRI)は2026年2月16日、企業の生物多様性開示を支援する事例付きガイド「Decoding biodiversity impacts: A practical guide to corporate reporting with the GRI Standards(以下「本ガイド」)」を公開した。本ガイドは、2026年1月より適用開始となった新スタンダード「GRI 101: Biodiversity 2024」を用いた、自然資本・生物多様性へのインパクトに関する開示の進め方について、主要4社(CDL、Coca-Cola HBC、Enel、JSW Steel)の先行事例をケーススタディとして示している。

本ガイドは、生物多様性の喪失が加速する中で、企業が事業活動およびサプライチェーンを通じた自然への「インパクト」について、場所の文脈も含めて特定・管理し、比較可能な形で開示する重要性を強調している。GRI101はそのための実務的ロードマップとして位置付けられる。加えて、本ガイドは開示実務の効率化の観点から、TNFDとの「相互運用性」の重要性を強調している。GRI101にはTNFDのLEAP(Locate/Evaluate/Assess/Prepare)の考え方が取り込まれており、両者はIPBESが整理する生物多様性損失の5つの直接要因(Direct Driver)などの共通概念を用いている。すなわち、LEAPアプローチを通じて、その結果をインパクト開示としてGRI101に紐づければ、TNFD対応とGRI開示を可能な限り同じ作業の流れで整理することができる。本ガイドではこの前提のもとで4社の事例を通じて開示の組み立て方を具体化している。

ケーススタディ①:City Developments Limited(CDL/不動産)

世界29カ国・地域で展開するシンガポールの不動産大手City Developments Limitedは、「GRI 304: 生物多様性2016」に基づき、保護地域等と関連する拠点の把握や重要なインパクトの管理を継続し、その蓄積を土台として2024年に東南アジアで初めて、サステナビリティ報告書でTNFDに沿った開示を実施した。自然の生息地に隣接する開発用地について、着工前から生物多様性影響評価を行い、インパクトの回避・低減を前倒ししてきた点も特筆される。このようにGRIスタンダードを使用して事業活動およびサプライチェーン全体における生物多様性へのインパクトの特定を継続的に進めてきた成果がGRI101にLEAPアプローチが組み込まれたことで、GRI101とTNFDの両枠組みに沿った整合性をもった報告が可能となった。

ケーススタディ②:Coca-Cola HBC(飲料)

Coca-Cola HBCは、GRIが焦点を当てるインパクトマテリアリティの開示経験をもとに、SBTN(SBTs for Nature)ガイドラインを使用し、バリューチェーン全体で生物多様性マッピングとマテリアリティ評価を進めている。この結果、主要インパクトは直接操業点ではなく上流(農業由来の土地改変や取水)にあることが明確になった。一方で、信頼性の高い情報開示を進めていく上では、ティア2以降のデータ収集・検証が難しく、目標設定や進捗管理の信頼性確保が課題となることが示された。加えて、新興地域では外部評価ツールが汎用データに依存し、実態と乖離する可能性もあり、信頼できる現地調査などを優先し、調達・環境部門等を早期に巻き込むことが教訓として挙げられた。

ケーススタディ③:Enel(エネルギー)

Enelは2020年以降、GRI304に基づくKPIで自社の生物多様性パフォーマンスを測定・報告してきた。この成果とGRI101でカバーされている指標をもとに、生物多様性の重要性や水ストレス等の地域の自然条件とインパクト指標を組み合わせることで重要なインパクトとそのホットスポットを特定した。

ケーススタディ④:JSW Steel(鉄鋼)

インドの製鉄大手JSW Steelは、「ノーネットロス」を掲げ、自社の最大拠点において生態系タイプ別に正(+)と負(-)の生物多様性フットプリントを算定し、ミティゲーション・ヒエラルキーに沿って進捗管理を実施している。植林等により正のフットプリントを積み上げつつ、侵略的外来種の管理等、優先KPIの絞り込みにつながった点が教訓とされ、定量化の取り組みがGRI101とTNFDの開示準備に資すると結論付けられている。

以上を踏まえると、本ガイドは、重要な点として次の3点を提示している。

  1. GRI101のロードマップに沿って生物多様性損失の「直接要因」の特定、影響が生じる「場所」のマッピング、「インパクト評価」、「開示」を一連のプロセスとして実施すること
  2. バリューチェーンの特に上流ではデータ制約が大きいことを前提に、地域固有のデータを優先しつつ、外部ツールや社内外の専門的知見を組み合わせて評価・管理を進めること
  3. TNFDのLEAPアプローチと整合させ、重複を避けること

加えて各社事例は、開示を重要インパクトの可視化にとどめず、意思決定・行動につなげる手段と位置付けている。また、初期段階から詳細な定量化を求めず、ホットスポットと主要な直接要因の特定から着手し、データの精度・範囲を段階的に高めるアプローチを各社とも採っている。

【参考情報】
2026年2月16日付 Global Reporting Initiative:
https://www.globalreporting.org/media/mszlcqgf/gri_decoding-biodiversity-impacts-e-book.pdf

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