コラム/トピックス

開発途上国だけの問題ではない飢餓と食料不安 ~国際貢献と自国の問題解決に関する世界の現状は?~

[このコラムを書いた研究員]

新納康介
専門領域
食料安全保障、マイクロファイナンス
役職名
主席研究員
執筆者名
新納 康介 Kousuke NIIRO

2025.2.12

この記事の
流れ
  • 食料安全保障の定義と飢餓の現状
  • 決してゼロではない日本の食料不安・飢餓
  • 世界食料安全保障に関するローマ宣言
  • SDGsゴール2「飢餓をゼロに」
  • 国連世界食糧計画(WFP)に対する日本政府の支援
  • アンケート結果~「飢餓をゼロ」の達成はまず自国から
  • 国際貢献と、自国の課題解決は並行して行う先進国

2023年に世界で飢餓に直面した人の数をご存じでしょうか?国連によると、最大で約7億5,700万人に上るということです。そして、この中には、開発途上国だけでなく、日本やアメリカなどの先進国も含まれています。国連は今「飢餓ゼロ」を目標に取り組みを進めていて、先進国は、開発途上国への食料支援だけでなく、自国の食料不安と飢餓の解決も目指しています。こうした中、MS&ADインターリスク総研では、日本の食料支援に関して、開発途上国と自国のどちらを優先すべきかについてアンケートを行いました。このアンケート結果と世界の飢餓の現状などについて、わかりやすく解説します。

食料安全保障の定義と飢餓の現状

国連食糧農業機関(FAO)は、食料安全保障を、「すべての人がいかなる時にも、活動的で、健康的な生活に必要な食生活上のニーズと嗜好を満たすために、十分で安全かつ栄養ある食料を、物理的、社会的及び経済的にも入手可能であるときに達成される状況」と定義しています。

しかし、これは、紛争、気候変動、災害、所得格差、そして最近では新型コロナウィルス感染症の大流行などの影響で、達成にはほど遠い状況です。

国連によると2023年に世界で飢餓に直面した人は最大で約7億5,700万人で、未だに多くの人々が日常的な飢餓状態に陥っています。

世界の飢餓と食料不安

決してゼロではない日本の食料不安・飢餓

お金など資源の制約により食料へのアクセスが困難になることを「食料不安」といいます。この「食料不安」に直面している人たちは、日本国内にもいます。

2021年の内閣府による子供の生活状況調査では、「過去一年間にお金が足りなくて家族が必要とする食料が買えないことがあった」とした世帯は11.3%でした。また、厚生労働省の人口動態調査によれば、日本では2023年に2,371人が栄養失調(餓死)で亡くなっています。

MS&ADインターリスク総研の実施したアンケート調査では回答者の6割超が、日本の食料安全保障は「達成されていない」としています。確かにそういう意見は頷けます。

世界食料安全保障に関するローマ宣言

1996年に国連食糧農業機関(FAO)および国連がイタリアのローマで開催した「世界食料サミット(World Food Summit)」において採択された「世界食料安全保障に関するローマ宣言」は、グローバルな食料安全保障の達成に関して重要なものとなっています。

同宣言には、以下のような内容が記載されています。

  • 全ての人にとっての食料安全保障の達成
  • 全ての国において飢餓を撲滅するための継続的努力
  • それらの達成に向けた、各国政府と国連諸機関等との協力

SDGsゴール2「飢餓をゼロに」

前述の「世界食料安全保障に関するローマ宣言」の後に、2000年に国連で採択された「ミレニアム開発目標」(Millennium Development Goals、MDGs)における8つの目標のゴール1は「極度の貧困と飢餓の撲滅」でした。この目標は、食料安全保障とリンクするものです。そして、MDGsの後継となる「持続可能な開発目標」(Sustainable Development Goals、SDGs)における17の目標のゴール2として「飢餓をゼロに」が設定されています。

国連世界食糧計画(WFP)に対する日本政府の支援

この目標の達成のために、世界最大の人道支援機関である国連世界食糧計画(WFP)は、食料支援を通して、開発途上国などにおける飢餓の解決のためにさまざまな活動に取り組んでいます。WFPの2023年の必要資金は251億ドルで、この資金はドナーである政府、機関、企業、個人からの任意の拠出や寄付によってすべて賄われています。日本はWFPの主要支援国の一つとして2023年には約208.9百万ドル(約328億円)を寄付しています。

アンケート結果~「飢餓をゼロ」の達成はまず自国から

上記のような状況を踏まえ、前述のアンケート調査では、食料支援について、飢餓の問題を抱える開発途上国の支援と日本国内の支援のどちらを優先するべきかを聞きました。その回答結果が図1です。そこでは、「日本国内の支援を優先」および「日本国内の支援を多くすべき」とする回答の合計が約6割になりました。

「飢餓をゼロに」することを考えるにしても、グローバルな視点で考えるのか自国の視点で考えるのか、限られた自国の資源を分配する際にジレンマが起きることはあると思います。食料支援は他の国より自国を優先すべきという考えは果たして「自己中心的」とのそしりを受けるでしょうか。

図1 食料支援について、あなたは、日本の予算や資源をどのように活用すべきだと考えますか

図1 食料支援について、あなたは、日本の予算や資源をどのように活用すべきだと考えますか

国際貢献と、自国の課題解決は並行して行う先進国

日本と同様に自国の飢餓をゼロにすることは、他の先進国でも困難であることが窺えます。食料自給率が100%を超えるアメリカでも食料不安(Food Insecurity)に陥る世帯が全体の13.5%(1,800万世帯)というデータがあります。たとえ食料自給率が高くても、食料不安が発生しているようでは、その国の食料安全保障は、達成されているとはいえません。その一方で、アメリカはWFPの最大の支援者であり、2023年に3,050百万ドル(約4,788億円)を寄付しています。

ちなみに英国もWFPの主要支援国の一つです。同国は2023年に290.9百万ドル(約456億円)の寄付を行っていますが、全世帯の15%が食料不安に陥っているといわれています。国際貢献と、自国の課題解決は並行して行うということが今の先進国のスタンスのようです。

【参考文献】
・FAO(1996)”Rome Declaration on World Food Security”
・WFP (2024) “Contributions to WFP in 2023”
・U.S. Department of Agriculture Economic Research Service (2024) “Food Security Status of U.S. Households in 2023”
・The Guardian ‘Health emergency’: 15% of UK households went hungry last month, data shows (27 Feb 2024)

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