
“億ション”は当たり前?都心の不動産価格高騰と不動産の“三極化”
[このコラムを書いた研究員]

- 専門領域
- 未来予測(金融、自動車、高齢化等)
- 役職名
- シニア研究員
- 執筆者名
- 中川 淳 Jun Nakagawa
2025.2.18
流れ
- 「億ション」は当たり前に?都心の不動産価格急騰
- 不動産の三極化とはどういうことか?
- 原因の一部:購入層の違い
- 不動産のデータ整備の重要性
- 日本の不動産プレイヤーの特色
- 不動産・都市開発のDX
東京都心部のマンション価格が高騰し、中古マンションでも「億ション」が当たり前、といったニュースに注目が集まっています。一方で日本では、人口減少や高齢化が進むとともに「空き家問題」が深刻化していることを思い起こすと、不動産価格の上昇に違和感を覚える人も多いのではないでしょうか?
こうした現状の背景には、日本の不動産の“三極化”と呼ばれる状況があるようです。不動産の“三極化”とは?カギは“DX”?日本の不動産事情の最新動向と課題について、わかりやすく解説します。
「億ション」は当たり前に?都心の不動産価格急騰
2023年の東京23区の新築マンション価格は平均で1億円を超えたことが話題になり、2024年も同様の状況が続きました。特に都心6区(千代田、中央、港、新宿、文京、渋谷)では1億円台後半に達し、一部には100億円を超えるような超高級マンションも出現しました。
そうした動きは地方都市の主要駅近くのタワーマンションにも飛び火し、1億円を超える高額物件も出ています。

不動産の三極化とはどういうことか?
ただし東京の都心を除く首都圏全体では不動産価格がこれまで上昇してきたものの、実需層がその値上がりについて行けず、中古マンションでは埼玉などの周辺県で値下がりも出てきています。また首都圏の戸建て住宅も在庫が増え、値上げの動きが弱まっています。
そして地方の多くは人口減少が顕著となり、政令指定都市のような大都市の都心部を除けば、住民が減り、空き家が増えています。また、かつて栄えた地方都市でも商店街の空洞化が顕著です。そうなると行政サービスの質の維持が難しくなり、災害時のような万が一の場合、対応の脆弱性が露呈することになります。
つまり、1)一部の都心部、2)一定規模の都市部、3)その他の大部分を占める地方、では不動産の動きが大きく異なってきています。そうした状況を不動産の「三極化」と表現することがあり、確かに重要なポイントをついています。
原因の一部:購入層の違い
三極化の原因の一部はその購入層の違いです。
タワーマンションを中心とする都心部の物件は売買のための流動性も高く、海外も含めた投資家・富裕層が投資対象とする面が強いです。動きがダイナミックで、築浅物件の転売も多いです。
その点で一定規模の都市部の住宅地は一般の実需層が主な購入者で、比較的リーズナブルな価格形成が主流です。夫婦で一定以上の所得がある「パワーカップル」でもあまりに高額になれば購入控えの動きも出てきます。
一方、人口減少が顕著な地方では買い手が少なく、売買が成立しにくい中で着実に価格が低下しています。優良物件はリフォームして賃貸に出すという投資家も存在しますが、限られます。
不動産のデータ整備の重要性
不動産の売買は、そのストックが十分積み上がったことから、新築中心から中古物件へと徐々にシフトしています。中古物件の購入では物件のデータがどれだけ整備されているかが重要です。大きな買い物ですから、見えない問題点があるのかどうか、当然気になります。
また不動産データの整備は、地域の各種行政サービスの質や都市開発の検討、災害対策や被害把握といった有事の対応力を左右することにもなります。郵便や物流サービス業者にとっても場所に関するデータ整備は必須です。
日本の不動産プレイヤーの特色
日本は欧米に遅れて近代化が始まり、その進み方は急激でした。土地に対する強い私的所有権を導入、都市開発も「都市計画」という発想が定着せずに無秩序な部分が大きく、不動産価格も激しく変動しました。
そうした中、不動産を扱う主要プレイヤーは、日本では都市部の企業が中心となりました。一方でアメリカでは地元密着の個人がプロフェッショナルとして活躍し、データの整備にも大きな役割を果たしています。
そのため、日本では不動産売買が活発な地域ではデータ収集・整備が行なわれるものの、企業がデータを囲い込む傾向が強く、アメリカとは異なる状況となっています。そして三極化の底辺である地方では、企業にとって事業機会が少なく、活動が消極的となりがちです。データ収集が遅れかつ劣化し、空き家状況の把握も十分ではありません。

不動産・都市開発のDX
今、世界的にDXと呼ばれる変革が求められ、不動産・都市開発分野も同様です。しかしデータ整備が不十分であればそれは困難です。日本政府も法制度を変えつつ、土地・建物に不動産ID(識別番号)を付与するといったインフラ整備を進めつつありますが、容易でないことは事実です。今後の動向に引き続き注目する必要があります。
あわせて読みたい
日本の不動産・都市開発の 現状と政策・DX 日本の特殊性、超えるべきハードル 【RMFOCUS 第91号】
https://rm-navi.com/search/item/1884