レポート/資料

日本の不動産・都市開発の 現状と政策・DX 日本の特殊性、超えるべきハードル 【RMFOCUS 第91号】

[このレポートを書いたコンサルタント]

中川 淳
会社名
MS&ADインターリスク総研株式会社
所属名
基礎研究部 受託調査グループ
シニア研究員
執筆者名
中川 淳 Jun Nakagawa

2024.10.4

見どころ
ポイント
  • 日本は人口減少、少子高齢化が進み、様々な課題を抱える。地方・郊外は社会インフラ維持の困難や空き家増、大都市は東京一極集中やマンションの空き家増懸念といった問題がある。解決のためにデータ整備、デジタル化が求められている。
  • 近代化を進める中、急激な都市開発に規制・計画が追い付かなかった。戦後に不動産価格の急変動を経験し、加えて相続を含む不動産関連制度は欧米と相違点が多く、データ整備のハードルを高めている。
  • 地方創生等を打ち出したが問題は残り、土地基本法の大改正で土地の適切な利用・管理の促進に舵をきった。また、不動産・都市DXで不動産仲介・まちづくり等を効率化し、建築BIM、PLATEAU、不動産IDの一体的推進を目指す。
  • 米国では不動産エージェントの業界団体が仲介物件情報のシステムを整備、データを標準化し、不動産IDも定めた。米国はプロがデジタル化・標準化に積極的、日本は「企業の論理」が先行し行政が介入、という違いがある。
  • 不動産・都市DXの必要性は共通認識となりつつあり、日本の事情を勘案し推進すべきである。行政が枠組み作りに注力しており、幅広い動きも出ている。今後のDX活用に期待する。

1.日本の人口減少、高齢化に伴う課題と不動産・都市開発

(1)人口減少、高齢化の実態

日本の人口は明治維新時(1868年)の約3,300万人から近代化に伴い急増、太平洋戦争後も順調に増加し、2008年前後に約1億2,800万人でピークを打った。2024年現在では減少開始から15年以上経過し、減少ペースが加速している段階である。

人口の減少は少子化が主因であり、その影響が長寿化を上回っている。そして高齢化が急速に進み、65歳以上の比率(高齢化率)が既に3割弱に達するとともに、75歳以上の「後期高齢者」が急増する。一方で「生産年齢人口」と呼ばれる15-64歳の人口は人口全体が減少に転じる以前の1990年代後半にピークを打ち、マクロ的な供給力の制約となりつつある。現時点では主に女性、高齢者の非正規雇用や外国人労働者で補完しているが、それも限界に近づいている。

日本の人口減少は全国一律で生じているわけではなく、人口は大都市に集中する傾向が明確である。都道府県別では、相対的に人口が増加したのは、沖縄・滋賀を例外に、1)東京、神奈川、埼玉、千葉の東京圏(一都三県)、2)政令指定都市(名古屋、福岡、北九州、仙台)を持つ愛知、福岡、宮城、である。対照的に大都市を持たない県の人口減少は著しく、しかも人口減少が激しい県では県庁所在地のような県内の中心都市でさえ人口の減少が拡大している。

また同じ大都市の市内でも都心部と郊外では状況が異なる。例えば東京圏でさえ郊外では人口が減り、高齢化が著しい地域も出ていることは軽視できない。

(2)地方と郊外が抱える課題

地方で人口が減少する場合のマイナス点は「集積の経済」の喪失が大きいことである。地域社会を形成する上で人・企業が集まれば生産性が高まり、行政サービスの提供面でも効率的になる。したがって逆に人口が離散しその集積の経済が失われると、経済が低迷し税収が減少、社会インフラの維持が困難になる。そうなると例えば防災・減災および災害時の適切な対処のための態勢が十分に整わないことから地域は災害に対し脆弱化し、それがますます人口の減少に拍車をかけることになる。全体に人口規模が小さな市町村ほど人口減少率が大きくなっており、その動きはおそらく止まることはない(図1)

図1
【図1】市区町村の人口規模別人口減少率の推定(2015年→2050年)(出典:国土交通省(2023)「国土交通白書」P.5)(注)人口は2018年推計

一定以上の人口を持つ都市でも郊外では公共交通(主に路線バス)の減便が進んでおり、公共交通機関の利便性が低い郊外では移動手段として自家用車が必須となる。しかし高齢者の中には運転免許を持っていない人も多く、また持っていたとしても高齢となって運転能力が低下し免許を返上する人も増えている。そうなると高齢の住民にとって買い物が不便となり、「買い物難民」と言われる状況が起きている。そのため一部には駅に近い集合住宅に転居し、郊外から人口が流出する傾向もみられる。

そうした中で、地方ではもとより、都市周辺の郊外でも空き家問題(空き家増、放置、空き地も)が発生、さらには所有者不明土地問題が深刻化している。

(3)大都市が抱える課題

大都市都心部、特に東京都心部では投資目的・相続対策の資金流入(含む海外からの投資目的)もあって不動産価格の高騰が続いている。一般層には手が届かない価格となりつつあり、その点で格差拡大といったマイナスも指摘することができる。そして政令指定都市ではその周辺から人口が集まりつつも、多くの場合、対東京では人口流出傾向が続いており、東京一極集中は顕著になっている。

(4)共同住宅、分譲マンションの空き家問題

空き家は戸建て住宅だけではなく共同住宅でも散見され、相続対策等で建てられた賃貸用の共同住宅(アパート)でも目立つようになった。また利便性が比較的高い場所の分譲マンションも老朽化は避けられず、大規模修繕等による対処が今後重要になるが、それが住民の高齢化で困難になることがある。また区分所有者が死亡し相続が発生しても管理費・修繕積立金の負担を回避するため相続が事実上放棄され…

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