レポート/資料

地方公共団体のグリーンボンドの資金使途に関する実態調査 ~自然や生物多様性の保全に向けて~「リサーチ・レター(2024 No.8)」

2025.3.5

2030年までに自然の損失を止め、そこから回復軌道へと反転させる、いわゆる「ネイチャーポジティブ(自然再興)」を目指し、近年様々な取り組みが進められている。こうした中で、自然や生物多様性の保全に向けてどのように資金を動員していくか、その仕組みとしてグリーンボンドの活用が期待されている。本稿ではグリーンボンドの概要を説明し、地方公共団体(都道府県および市)の発行した債券を対象に、グリーンボンド等の資金使途の実態調査結果を紹介する。

1.自然資本に関する動向

自然資本とは、森林、土壌、水、大気、生物資源など、自然によって形成される資本(ストック)を意味する。豊かな生物多様性に支えられた自然資本は、人間が生存するために欠かせない安全な水や食料の安定的な供給に寄与している。それだけでなく、防災・減災など暮らしの安全・安心を支え、さらには地域独自の文化を育む基盤となる恵みをもたらすなど、豊かな社会の礎となっている。

2022年12月に開催された生物多様性条約第15回締約国会議(COP15)では、「昆明・モントリオール生物多様性枠組(GBF)」が採択され、2030年までに生物多様性の損失を止め、反転させること、すなわち「ネイチャーポジティブ(自然再興)」が目標として掲げられた。

GBFを踏まえ国内では、日本政府が2023年3月に「生物多様性国家戦略 2023-2030」を閣議決定した。また環境省では、民間の取組等によって生物多様性の保全が図られている区域を認定する「自然共生サイト」の制度の開始や、ネイチャーポジティブ経済移行戦略の公表など、取り組みが進められている。

ネイチャーポジティブの実現に向けては、企業の行動変容のみならず、多様なステークホルダーによる協働(コレクティブアクション)が求められている。またファイナンスの側面では、自然の保護や復元のための資金は現在大幅に不足しており、自然資本への大規模な資金動員が求められている。

2.グリーンボンドについて

(1)グリーンボンドの概要

グリーンボンドとは、地球温暖化をはじめとする環境課題の解決に資する事業(通称、グリーンプロ ジェクト)に要する資金を調達するために発行する債券を指す。グリーンボンドのほかに、サステナビリティボンドと呼ばれる、グリーンプロジェクト及び社会課題の解決に資する事業(通称、ソーシャルプロジェクト)の双方に資金を充てることを目的とした債券もある。こうしたグリーンボンドやサステナビリティボンドは、金融の側面から環境課題の解決に向け持続可能な社会の実現を目指すサステナブルファイナンスの手段の1つである。

(2)グリーンボンドの資金使途・グリーンプロジェクトの例

前述したように、グリーンボンドの特徴は、グリーンプロジェクトへの資金充当である。このグリーンプロジェクトについて、グリーンボンドの国際的な基準として知られる国際資本市場協会(ICMA)のグリーンボンド原則(GBP)では、10の事業区分を紹介している。これらはあくまでも例示であり、これらに限定されるものではない。一方でグリーンボンドを発行する多くの債券発行体は、このGBPのグリーンプロジェクトの事業区分を参考に、グリーンプロジェクトとして資金使途となりうる事業をリスト化し、自身のグリーンボンド・フレームワーク1にて公表している。

【図表1】グリーンプロジェクトの事業区分の例

図1
(環境省『グリーンボンド原則(GBP)及びGBPに類似したガイドラインの事例』より筆者作成)

(3)自然や生物多様性に関するグリーンボンドの発行事例

グリーンボンドは、ネイチャーポジティブの実現に向けた資金の流れを創出する手段として考えることができる。実際、海外のグリーンボンド市場では、自然や生物多様性に焦点を当てた債券の発行がみられる。例えば国際金融公社(IFC)は…

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