
会社全体でリスクマネジメントの意識を変えるには?“今さら聞けない”全社的リスク管理(ERM)Q&Aシリーズ①
[話を聞いたコンサルタント]

- 会社名
- MS&ADインターリスク総研株式会社
- 所属名
- リスクコンサルティング本部リスクマネジメント第三部
統合リスクマネジメントグループ マネジャー上席コンサルタント - 氏名
- 鈴木 隼人 Hayato Suzuki
2025.5.12
事業環境が激しく変化する時代にある中で、企業にとってリスクマネジメントの重要性が高まっています。
リスクマネジメント活動の推進にこれまで以上に力を入れる企業が増えていますが、所管部署は熱意をもって取り組んでいるものの、「リスクマネジメントは利益につながらない面倒な業務」「所管部署の仕事で自分たちには関係ない」と考える役員・社員との意識の“ギャップ”が取組推進の妨げとなってしまうケースもあります。
それでは、リスクマネジメント活動の停滞や形骸化を回避し、会社全体でリスクマネジメントへの意識を変えていくためには、どうしたらよいのでしょうか?
そんな“今さら聞けない”ポイントについて、当社で全社的リスク管理(ERM)のコンサルティングを行っている統合リスクマネジメントグループのマネジャー上席コンサルタント・鈴木隼人に話を聞きました。
流れ
- 企業のリスクマネジメントをめぐる現状は?
- リスクマネジメントを浸透させるための「教育」の重要性
- ポイントは「階層別の教育」
- リスクに強い組織を目指す
企業のリスクマネジメントをめぐる現状は?
ーーまず、企業のリスクマネジメントをめぐる現状について教えてください。
鈴木)近年、これまでのリスクマネジメントを見直し「全社的リスク管理(ERM)」へのレベルアップを目指す企業が増えています。この背景には、次のような社内外の環境変化が挙げられます。
- パンデミックや紛争など一昔前には想像もしていなかったリスクの顕在化
- 政情不安や気候変動、人材の流動性の高まりなどによるリスクの多様化・複雑化
- ESG(環境・社会・ガバナンス)について企業として責任を果たすことへのステークホルダーからの要請の高度化

ただ、リスクマネジメントに関わる役員・社員の経験値、知識、スキル、そして重要性の認識に相当程度のバラつきが発生していることで、活動が円滑に進まなくなっているケースが見られます。
リスクマネジメントを浸透させるための「教育」の重要性
ーー「全社的リスク管理」の重要性が増している中、どうすれば社内にそういった認識を浸透させることができるでしょうか?
鈴木)リスクマネジメントの国際規格ISO31000 「5.枠組み 5.3統合」の一節では、「組織の全員が、リスクのマネジメントを行うことに対する責任を負っている」との記述があります。
これは、あらゆる階層の全社員がリスクマネジメントに関連する業務を自分事化し、責任感をもって取り組む必要があることを示しています。そのためには、「教育」を効果的に取り入れ、時間をかけて文化を醸成していくことが不可欠です。
ポイントは「階層別の教育」
ーー「教育」とひと口に言ってもどこからどのように取り組んでいったらよいのでしょうか?
鈴木)“効果的な教育”のポイントは、「階層別の教育」です。教育は、社内のあらゆる階層に対して求められています。企業における「階層」は、大きく次のように分けることができます。
- 経営層
- 部長・ライン長層(管理職層)
- 一般社員層
これらの階層ごとにリスクマネジメントをどのように認識し、実践していくべきかは異なるため、「階層別の教育」が必要となるのです。各階層別の教育方法について具体的に説明していきます。
経営層向け
経営層は、会社法やコーポレートガバナンス・コードにおいて、リスクマネジメント体制を整備し運用状況を監督することが義務として求められています。経営層には研修などを通じて、自身が負っているリスクマネジメントに関する責任のレベル・内容およびどのようにしてその責任を果たしていくかを適切に認識してもらうことが重要です。
部長・ライン長層向け
部長・ライン長層は、経営層と一般社員の間に入って、リスクマネジメントを組織全体に浸透させながら実践していく重要な役割を担っています。
ただ、一般的に部長・ライン長層は非常に多くの業務を担っていて、リスクマネジメントの優先順位は低くなりがちです。そのような状態においても、前向き・意欲的に参画してもらえるよう、リスクマネジメントが企業経営にとって重要なものであることを訴えながら、リスクマネジメントの基本的な考え方や、各部での取り組み方を丁寧に説明する機会を設けることが重要です。
一般社員層向け
一般社員は、業務遂行を通じて常にリスクと対峙している層といえます。そのため、この層に向けては、堅苦しいリスクマネジメントの教科書的な内容ではなく、事例紹介をふんだんに盛り込んだEラーニングや、リスクの洗い出しを実践するワークショップなど、手や頭を使いながらリスク感度を高められるようなプログラムを導入することが重要です。
以上のように、階層によってリスクマネジメントを推進していく上で求められる役割やレベルが異なります。それぞれの階層にあったコンセプトを検討し、実施方法、タイミングにも気を付けながら「階層別の教育体系」を作っていくことが重要となります。
表:教育コンテンツの例


リスクに強い組織を目指す
ーー当たり前ですが、社内にリスクマネジメントの重要性を浸透させていくことは、一朝一夕にはいかないということですね。
鈴木)その通りです。先に触れたリスクマネジメントの国際規格ISO31000 の「原則」の1つに「人的及び文化的要因」があります。そこでは、実効性あるリスクマネジメントの運用のためには、組織内の人間のリスクマネジメントへの理解・認識の十分性や組織文化が醸成されていることが欠かせない、と説明されています。
リスクマネジメントの規程・体制の整備は重要ですが、それだけではうまくいきません。どんなに正しいプロセスであっても「それを実行するのは人である」からです。リスクマネジメントを実行する「人」に焦点を当て、各階層の立場・目線に合わせた教育体系を構築し、継続的に実施することで、全員がリスクマネジメントを自分事として捉えられるようになるはずです。
一朝一夕に根付くものではありませんが、中長期的な目線で階層別教育を実施し、リスクマネジメントを着実に組織に根付かせリスクに強い組織づくりにつなげていくことを目指していきましょう。
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