
「“空飛ぶクルマ”は実現すると思いますか?」最新調査から見えてきたポイントは?専門家が解説!
2025.6.3
商用化が実現すれば、人を乗せて空を気軽に移動できるようになると期待されている「空飛ぶクルマ」。
この新しい移動手段は、社会にどれくらい受け入れられるのか?その観点から、MS&ADインターリスク総研は、2020年から「『空飛ぶクルマ』の社会受容性に関するアンケート調査」を実施してきました。
今回、最新となる2025年2月実施の調査結果がまとまりました。そこで、調査を担当した増田藍マネジャー上席コンサルタントに、調査結果のポイントに加えて、空飛ぶクルマの現状や商用運航に向けた見通しなどについて、詳しく話を聞きました。
流れ
- そもそも「空飛ぶクルマ」とは?
- なぜ「空飛ぶクルマ」への期待が高まる?
- 「空飛ぶクルマ」の商用運航に向けたスケジュールは?
- アンケート調査結果の目的は?
- 調査結果から見えてきたポイントは?
- 「空飛ぶクルマを利用したい」と回答した人の割合は約半数
- 利用者が最も気にしているのは“料金・コスト面”
- さらに詳しいデータ、あります
そもそも「空飛ぶクルマ」とは?
ーー調査結果のポイントについて質問する前に、そもそもの話になりますが空飛ぶクルマとは、具体的にはどのような乗り物のことを指すのでしょうか?
増田)実は明確な定義はないのですが、日本の交通政策を所管する国土交通省は、以下のような条件を満たした次世代モビリティが1つのイメージだとしています。
- 電動
- 自動操縦
- 垂直離着陸
同じような移動手段としてヘリコプターが思い浮かぶと思いますが、電動でも自動操縦でもないので、空飛ぶクルマには該当しないということになります。


調査を担当したリスクコンサルティング本部・リスクマネジメント第二部・次世代モビリティグループでマネジャー上席コンサルタントを務める増田藍
ーーいま日本国内では、空飛ぶクルマの運航は実現しているのでしょうか?
増田)乗客を乗せて運航する「商用運航」は、日本では実現していません。また、日本国内で機体の安全性を担保する重要な認証「型式証明」を取得できているメーカーが出てきていないためです。一方、今年4月に大阪・関西万博にデモ飛行が行われたり(機体の一部が破損)、実証飛行が日本各地で実施されたりと、商用運航の実現に向けて各社が取組を進めています。
なぜ「空飛ぶクルマ」への期待が高まる?
ーー万博で行われたデモ飛行が話題になるなど、大きな注目を集めています。空飛ぶクルマは、どうして期待されているのでしょうか?
増田)国土交通省と経済産業省は2018年に「空の移動革命に向けた官民協議会」を発足して、空飛ぶクルマの商用運航実現に向けて、官民挙げて取り組んでいます。
その中では、「日常生活における自由な空の移動という新たな価値提供と社会課題解決の実現」をビジョンとして掲げています。つまり、高齢化、人口減少、人手不足、地域の移動手段の減少など、日本が直面する課題を、無人で空を運航できて、発着陸のスペースが小さくて済む空飛ぶクルマで解決できるかもしれないことから、期待が高まっているんです。
都市と都市、都市と地方との間の移動、観光での利用、過疎地における医師の派遣や患者の搬送、離島や山岳地での荷物の輸送など、人やモノの移動を“身近で手軽な空飛ぶクルマ”で実現しようというのが、協議会が目指しているところです。
「空飛ぶクルマ」の商用運航に向けたスケジュールは?
ーー商用運航はまだ実現していないということでしたが、実現に向けた見通しはどうなっているのですか?
増田)当初、協議会が想定していたスケジュールよりも遅れているのが現状です。協議会は2018年に発足した際にロードマップを作っているのですが、その時点では、商用運航は2023年に開始とされていました。その後、2022年にロードマップが改定されて、現在開かれている大阪・関西万博を境に「商用運航の開始」から「商用運航の拡大」をしていくとしていました。
ただ、今回の万博では、乗客を乗せる商用運航を行うことを目指していましたが、実際は乗客を乗せないデモ飛行となったように、2022年のロードマップでも、全体のスケジュールは遅れ気味になっています。
メーカーは、万博での商用運航に向けて型式証明の取得を目指してきましたがが、取得が遅れたため断念しています。
アンケート調査結果の目的は?
ーー本題のアンケート調査結果についてですが、まず調査の目的について教えてください。
増田)先ほどお伝えしたように、協議会では、日本が直面する様々な課題を“身近で手軽な空飛ぶクルマ”の実現で解決することを目指しています。そのためには、多くの人に空飛ぶクルマを利用してもらわないと、ビジネスとして成立しませんし、持続可能なサービスにはなりません。
新しい技術が社会にどれほど受け入れられるかを評価する際に用いられる「社会受容性」という言葉があるのですが、今回の調査は、空飛ぶクルマに対する社会受容性がどう変化しているのかを明らかにすることが目的の1つです。
また、空飛ぶクルマの実現に当たっては、利用者は様々な不安を感じることが想定されます。例えば、自宅の上を飛ぶことが不安なのか、あるいは実際に機体が飛行しているのを見て不安を感じるのかといったことです。こうした課題が浮き彫りになれば、その課題を解決する方法も考えられるようになります。
調査は、こうした課題解決に対しても役立つのではないかと考えていて、今回含めて4回実施しています(下表)。
これまでのアンケート調査の実績


調査結果から見えてきたポイントは?
ーー今回の最新の調査結果から見えてきたポイントを教えてください。
増田)以下の3つを今回の調査結果のポイントとしてお伝えしたいと思います。
- 「空飛ぶクルマが実現すると思う」と回答した人の割合は低下し続けている
- 「空飛ぶクルマが実現したら利用したいと思う」と回答した人の割合は約半数
- 利用者が最も気にしているのは“料金・コスト面”
ーー「空飛ぶクルマが実現すると思う」と回答した人の割合は、低下し続けているんですね。
増田)第1回目の調査の時は、「空飛ぶクルマが実現すると思う」と回答した人の割合は、57.8%でしたが、年々その割合は低下していて、今回の調査では過去最低となる44.1%となりました。
「空飛ぶクルマは実現すると思う」と回答した人の割合の推移

この結果からは、大阪・関西万博での商用運航が間に合わなかったり、官民協議会のロードマップの想定からスケジュールが遅れたりと、空飛ぶクルマが私たちの生活レベルにまで近づいてきていないと多くの人たちが考えているということがうかがえます。
「空飛ぶクルマを利用したい」と回答した人の割合は約半数
ーー「空飛ぶクルマが実現したら利用したいと思う」と回答した人の割合が約50%という結果からは、どんなことが言えそうだと考えていますか?
増田)この質問は、「社会受容性」が高まっているかどうかを評価するのに関係するのですが、今回の調査では51.7%と約半分の割合でした。前回の調査では53.4%でしたので、ほぼ横ばいです。
「空飛ぶクルマが実現したら利用したいと思う」と回答した人の割合の推移

この数字をどうとらえるかは難しいのですが、「利用したい」と回答した人が過半数を超えているということは、多くの人が興味は持っていると言うことはできるかもしれません。一方で、約半数の人は、利用したくない、もしくは利用するかどうか判断できていない状況ですので、社会受容性を高めるためには、安全性やコスト面などに関して、さらなる情報提供が必要だとも考えられます。協議会が目指す“身近で手軽な空飛ぶクルマ”を実現するには、まだまだ課題が残されているのが実情だと思います。
利用者が最も気にしているのは“料金・コスト面”
ーー空飛ぶクルマの普及に向けてはまだまだ課題があることがうかがえるとのことですが、調査結果からは、具体的にどんな点に課題があることが見えてきていますか?
増田)調査の中では、空飛ぶクルマの実現に向けた懸念点についても尋ねています。その結果を見ると、懸念点の中でも、利用代金、整備コストといった金額面を挙げた人が最も多くなっています。
利用者の懸念点

空飛ぶクルマの普及に向けては、“手軽に乗れる”ことが重要な要素の1つになりますが、この結果から、現状では多くの人たちが、空飛ぶクルマは“値が張る乗り物”と受け止めていることがうかがえます。
さらに詳しいデータ、あります
ーー今回の調査から得られたテータの活用方法について教えてください。
増田)一連の調査で得られたデータからは、空飛ぶクルマに対する社会受容性の評価に加えて、利用者がどのような点に不安、懸念、課題を感じているのかを深堀することが可能です。
空飛ぶクルマの商用運航が実現して、“身近で手軽な空飛ぶクルマ”となるためには、利用者の不安や懸念を解消していく必要があり、その役割はメーカーや事業者に加えて各自治体が担っていくことになります。
その際に、一連の調査から得られたデータが役に立つと考えています。調査結果の「概要版」は無料で公開していて、より詳しいアンケートデータは販売を行っています。データには、回答者の居住エリア・年齢層・性別・職業などが含まれていますので、市場調査などに役立てていただければと思っています。