コラム/トピックス

経営層の多様性とリスク対応力

[このコラムを書いたコンサルタント]

谷 侑弥
専門領域
全社的リスク管理(ERM)、危機管理
役職名
リスクマネジメント第三部 
統合リスクマネジメントグループ 
主任
執筆者名
谷 侑弥 Yuya Tani

2025.10.15

近時発生している企業にまつわる事件・不祥事において、経営層が発生した事象の重大性を見誤り適切な対処が行われないことで企業の経営を揺るがす事態に発展してしまっているケースが少なくない。リスクが顕在化する前の“予兆”も含め、企業として認知していたにも関わらず正常性バイアスに陥り「大した話じゃない」「優先して取り組む事項ではない」などと軽視して適切な手を打つことができなかった結果だ。

このような事態を説明する言葉として「コンダクトリスク」が挙げられる。コンダクトリスクとは、企業の“ふるまい”に起因し、そのふるまいがステークホルダーの期待や価値に反した場合にステークホルダーへの裏切りと捉えられ、支持を失い、批判が巻き起こるなどするリスクであり、影響が極大化する性質を孕んでいる。企業の活動においてESG(環境・社会・ガバナンス)を考慮することが一層求められる中、明確な法律違反でなくとも倫理や社会規範を含む広い意味でのコンプライアンスに背く“ふるまい”が批判の対象となっている。また、何かまずい事象に遭遇した時に、適切な判断と行動ができない“危機管理の失敗”も“ふるまいの失敗”として批判の対象となっている。

こうしたコンダクトリスクに適切に対処するためには、「経営層の多様性確保」がキーになる。 本年4月に経済産業省が「企業の競争力強化のためのダイバーシティ経営(ダイバーシティレポート)」を公表した。同レポートは、イノベーションの創出を目指す企業や国際競争力を高めていきたい企業の経営層に向けて、企業価値向上につながるダイバーシティ経営の考え方についてまとめたものである。その一節に「同質性が高い組織は、変化に対する柔軟な対応力に乏しく、自社の価値観や戦略を現状維持としがち」との記述がある。これはいわゆる“攻め”の文脈の話ではあるが、“守り”としてのリスクへの対応においても同じことが言える。同質性が高ければ、重大な変化や発生した事象の重大性を“同じように見誤る”可能性が高くなり、適切に対処することが難しくなる。一方、様々な経験をしてきた多様なメンバーがそろっていれば、同じ事象に対しても、評価が多面的となり、重大性を適切に認識できる可能性が高まるだろう。

不確実性の高まりにより、リスクマネジメントの重要性が高まる中、経営者には重大な事象を察知する力、察知した情報からワーストシナリオを描く発想力、どう対処していくべきかの構想力が求められる。その解は、経営層の多様性確保にある。

同レポートには「社内の論理に縛られない立場のメンバー主導で取締役会の構成を見直す」「各社のビジネスモデルに即し、知・経験のダイバーシティの推進や同質性からの脱却を考慮した(経営陣の)選定」など経営層の多様性を高めるための具体的な指針も示されている。同レポートを紐解きつつ、不確実な世界をサバイブするために、攻め・守りを両立する真の“ダイバーシティ経営”を実現していただきたい。

(2025年6月26日 三友新聞掲載弊社コラム記事を転載)

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