コラム/トピックス

人的資本経営に取組む企業の課題とは

[このコラムを書いたコンサルタント]

對間 裕之
専門領域
労働安全衛生、人材・組織リスク、
健康経営
役職名
リスクマネジメント第四部 
人的資本・健康経営グループ 
グループ長 主席コンサルタント
執筆者名
對間 裕之 Hiroyuki Taima

2025.10.15

AIの急速な普及等を背景に、現代のビジネス環境は劇的な変化の渦中にある。そのような中、企業が持続的に成長するためには、従業員の意欲を引き出し、創造性や行動力を発揮してもらえるように人材へ投資していくことが不可欠である。このような取組みを「人的資本経営」と呼び、企業が競争力を維持し発展を続けていく上で極めて重要なものとなる。また、上場企業を中心にこのような人的資本経営に関する情報開示を進めており、投資家だけでなく求職者が企業の人的資本に関する取組み状況を把握できるようになってきている。求職者の立場では、どの企業で働けば、より良い職場環境で自分自身の能力を伸ばし、希望するキャリアを歩めそうなのか、企業から開示された情報を基に比較できる、という状況になりつつあるのだ。

では、人的資本経営を進める企業では、具体的にどのような取組みを進めており、またその中でどのような課題があるのだろうか。今回は、当社が共催し第3回目として2024年8月から12月に実施した「人的資本調査2024」(回答206社、うち8割以上は上場企業)の結果から注目すべき点を簡単にご紹介したい。

多くの回答企業では、人的資本経営における体制整備等の各種取組みが進んでいることが明らかになった。特に、経営戦略と人材戦略を連動させ、必要な人材の維持・獲得を進めている。また、多様な人材が活躍できる仕組みを整え、職場環境の改善に向けた投資を進めながら、人的資本経営が企業文化として定着するよう進めている。

一方、課題に関する注目点としては、人事関連システムやデータの整備に関する点が挙げられる。人事関連データの収集と蓄積が不十分であり、KPI(重要とする指標)がシステム上で統合的に可視化できていないことがわかった。その結果、定量的な把握や分析ができず、As is(現状)と To be(将来のありたい姿)とのギャップを踏まえた計画の作成やその遂行が十分にできていない、という別の課題にもつながっていることが推察される。

過去3回の人的資本調査の結果を見ると、人的資本経営に取組む企業のレベルは年々向上している。しかしながら、環境変化が激しく不確実性の高い環境下において、人材戦略を遂行し各種施策の効果を検証していくためには、旧来ながらのKKD(勘・経験・度胸)だけを頼るのではなく、データに基づく仮説検証を短いサイクルで回していくことが必要である。今後の課題として、人的資本経営もこのようなデータドリブン(データに基づく意思決定や行動)へシフトしていくことが求められるだろう。また、既に上場企業には有価証券報告書において人的資本の情報開示が義務付けられているが、将来的には同開示情報の第三者保証制度の創設が予定されている。開示するデータの収集プロセスや正確性を担保する体制の確立等が必要となり、特に連結ベースでの対応まで考慮すると、グループ企業を含めて全社で統一的かつ効率的に人的資本データを収集し、利活用し、開示につなげられる仕組みの検討も視野に入れていくことが望まれる。

(2025年7月31日 三友新聞掲載弊社コラム記事を転載)

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