CSO(最高サステナビリティ責任者)と切り拓く価値創造への道 ~先進企業の現場から~【RMFOCUS 第96号】
[このレポートを書いたコンサルタント]

- 会社名
- MS&ADインターリスク総研株式会社
- 部署名
- リスクコンサルティング本部 リスクマネジメント第五部
サステナビリティ第二グループ - 執筆者名
- 上席コンサルタント 末永 潤(上) Jun Suenaga
主任コンサルタント 石川 隆彦(下) Takahiko Ishikawa
2026.1.5
- MS&ADインターリスク総研コンサルタントが、京都大学大学院の加藤晃特命教授の監修で執筆した『CSOと拓くサステナビリティ経営 価値創造の現場』(経済法令研究会刊)を2026年2月、上梓する。昨今、国内企業でも設置が広がる「最高サステナビリティ責任者(CSO・CSuO)」やサステナビリティ部門責任者にインタビューし、あるべき姿をまとめた。本稿ではそのエッセンスをご紹介する。
- CSOは、CEOやCFOなどと並ぶ新たな「CXO」の一つだ。サステナビリティが関わる領域は昨今、気候変動や人権問題など諸課題への対応に加え、国際的な情報開示の枠組みが確立するなど、急速に拡大している。企業にとって新しい課題のため、会社組織において対応の役割や責任が曖昧というケースも多い。本書籍は、CSOの試行錯誤やそれぞれのバックグラウンドを活かした工夫・挑戦を明らかにしている。
- 各社のCSOや部門長へのインタビューでは、サステナビリティ取組の高度化実現に向けて担当役員や責任者らの役割を明確にすることの重要性、それぞれの組織に特有の業務領域やスキル等の要素が語られた。多くの企業の話から抽出できた共通の目的として、CSOは各事業や部門をサステナビリティの観点でつなぎ、全社が自分の問題として考えることができるよう組織を変革することがその要であるといえる。
MS&ADインターリスク総研は2026年2月に『CSOと拓くサステナビリティ経営 価値創造の現場』(経済法令研究会刊)を上梓する。タイトルの「CSO」は「Chief Sustainability Officer」の略、和訳は「最高サステナビリティ責任者」が一般的だ。肩書がChiefで始まる経営幹部は英語でC-SuiteやCXOと呼ばれ、最高経営責任者(CEO)や最高執行責任者(COO)、最高財務責任者(CFO)などがよく知られている。海外ではこれらの経営幹部と並んでサステナビリティをつかさどるCSO注1)を設置する企業が増えており、今やサステナビリティは担当役員を設けるに値するテーマであることが窺える。
足元で企業のサステナビリティに関する施策をめぐる外部環境は大きく揺れ動いている。2025年3月には国内の有価証券報告書での情報開示に適用されるサステナビリティ基準委員会(SSBJ)基準が確定している。東証プライム市場に上場する時価総額3兆円以上の企業は、2027年3月期決算からSSBJ基準に沿った開示が求められる。一方、2025年は米国のトランプ政権を筆頭にESGやSDGs、DE&I(多様性・公平性・包摂性)への政治的なバックラッシュ(反動)が国際的に活発化した1年でもあった。

大半の企業が、将来世代への責任を果たしつつ、短期的な収益の獲得や事業継続のために足元の動向にも目配りが不可欠な難しいかじ取りを迫られている。
こうした開示基準への対応や情報収集、実際の施策を展開するにあたり、体制構築や人材育成といった企業内部の取り組みは重要な課題だ。近年注目度が飛躍的に高まったとはいえ、サステナビリティは企業組織においてはまだ新しい領域であり、サステナビリティ一筋のキャリアを積んできた経営幹部や部門責任者は稀である。CSOは誰もがまず自らの役割の定義や組織作りの問題に直面することになる。
本書籍は、国内企業のCSOおよびサステナビリティ部門責任者にインタビューを行い、実際に最前線でこうした課題に直面し試行錯誤する方々のリアルな声や、そこから浮かび上がったサステナビリティ担当者や組織のあり方をまとめた書籍である。本稿では、そのエッセンスを新たに書き下ろしたダイジェストにてご紹介する。より詳細な内容や各社のインタビューを知りたい方はぜひ本書を手に取っていただきたい。
1. CSOの存在意義
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国内に目を向けるとCSOを設置している企業はまだ少ない。プライム上場の大企業を中心に、サステナビリティの領域で先進的な企業で設置し始めたというのが実情であろう。
CSOに与えられる職位・権限も、CEOやCFOに次ぐ位置付けから、他のCXOより限定的な場合など様々だ。米ハーバード・ビジネス・スクール(HBS)のジョージ・セラフェイム教授らは、企業のサステナビリティ分野の成熟度を「①コンプライアンス」「②効率化」「③イノベーション」の3段階に分類し、CSOが必要とされる段階を調査した(Miller&Serafeim 2014)1)。その結果、①ではCSOがサステナビリティ分野の最高責任者となるケースが多いが、②から③へと移行する過程ではCSOが権限を獲得し、③ではCSOが企業のビジョンや戦略の策定を主導することが明らかになっている。
このように、企業のサステナビリティ分野の取り組みの進化に伴い、CSOはより重要な存在となる。昨今、気候変動や人権、生物多様性といったサステナビリティ分野の課題が、企業経営や事業活動を左右する存在となりつつある中で、企業は関連する法規制・ルール等にただ対応するだけでなく、それらの取り組みを中長期的な収益性・生産性の向上や、多様なステークホルダーへの価値提供などに結び付けることが求められる。
その過程では、経営層がサステナビリティを経営戦略の中核に位置付け、社内外のステークホルダーとの対話・協働を積極的に図ることが求められる。そして、そこから把握した課題への対応を通じて、新たな成長機会や企業価値の向上につなげるプロセスを確立する必要がある。
こうした経営戦略におけるサステナビリティの位置付けに関連して、経済産業省は2022年公表のいわゆる「SX版伊藤レポート」で「サステナビリティ・トランスフォーメーション」(sustainability transformation, SX)の概念を打ち出している2)。SXとは、企業が持続的に成長原資を生み出し企業価値を高めるべく、社会のサステナビリティ課題に由来する中長期的なリスクや事業機会を踏まえ、投資家等との間の建設的な対話を通じて資本効率性を意識した経営・事業変革を実行することを意味する3)。

CSOは、企業のSXの先導者として、存在意義を発揮することが期待されているといえるだろう。
2. CSOが役割を果たすためには
本書籍では、日本企業のサステナビリティ分野の取り組みの高度化にあたり、CSOに実際に期待されている役割や現状の課題などを具体化するため、サステナビリティ分野の先進企業5社のCSO(CSuO)にインタビューを実施した。インタビュー内容から明らかになったポイントを、(1) 期待される役割、(2) 役割を果たす上で重要な要素、という二つの観点から紹介する。
(1) 期待される役割
一般的にCSOという言葉から連想される役割は、経営層や事業活動などに対して、サステナビリティ分野の専門性に基づき提言する姿であろう。実際にインタビューしたCSOの中には、社内の会議体でサステナビリティの観点から助言を行うケースや、自社のビジネスモデルに関連するサステナビリティ分野についてのリサーチ・助言、具体的なサポートを実施するケースがみられた。
同時に、CSOが経営層の一員として果たすべき重要な役割として、「サステナビリティに関する経営レベルの意思決定の強化」や、「サステナビリティが企業価値や事業活動にもたらす影響を経営層に認識させる」ことへの言及もあった。
前者に関して、あるインタビュー対象企業では、CSOがサステナビリティ分野の情報開示について決裁が可能であるため、国際的なルールメイキングの場への参加などをスピーディーに決定できている。また、後者に関してはサステナビリティ分野の取り組みを全社的に推進するにあたって、CSOが各担当役員の所管する業務領域とサステナビリティの関連性を認識させることで、サステナビリティの重要性について共通認識を形成するというものである。例えば、欧州の入札条件にはサステナビリティに関する高レベルな評価基準が設けられており、一定の評価を獲得できなければ、性能・価格面で優れていても失注する。
こういった情報を経営陣に共有することで、各担当役員がサステナビリティの重要性を実感でき、トップダウンでの取り組み推進の契機になる。
全社的な推進の観点でもう一つ重要なポイントは、社内各部門の実務担当者に、担当業務とサステナビリティの関連性を理解してもらい、当該部門の戦略上不可欠なものとして取り組みに協力してもらえるよう促すことである。サステナビリティ経営が実装されている企業では、CSO自身による情報発信や、従業員のサステナビリティ関連の取り組みを表彰する制度の運営など、「事業活動の第一線をいかに動かすか」という点に、工夫が凝らされている。

(2) 役割を果たす上で重要な要素
上記のとおりSXの実現のためには、サステナビリティに関する専門性を前提とした上で「いかにして社内の関係者に動いてもらうか?」に腐心する必要がある。そのために必要な要素について、インタビューからは以下のような実態が明らかになった。
① 実務を通じた専門性の確立
インタビュー対象のCSOは皆、サステナビリティ分野の情報・知識のインプットに日々追われている。具体的なインプット方法としては「セミナー・書籍」「他企業のCSOからの情報収集」「NGO等の外部機関との連携・エンゲージメント」等が挙げられた。
中には、サステナビリティ関連の大量のドキュメントを自ら丹念に読み解くCSOもみられた。文書のいわゆる「斜め読み」ではルールの誤読などのリスクが高いため、英文の資料であれば助動詞の使い分けといったレベルまで強く意識して確認しているとのことだ。サステナビリティに関する個別のテーマが次々と登場・進化することから、学び直しを厭わないマインドセットが必要といえよう。
また、複数のCSOから、知識の定着・スキルアップに効果的なのは、実務を通じた学習であるとの回答を得た。ある企業のCSOによれば「サステナビリティ分野の担当役員」という立場は、ともすれば部下から上程された内容への「良し/悪し」の判断だけになりかねない。そのため、担当役員クラスは通常参加しないサステナビリティ部門内のミーティングなどに参加して不明点を確認する、外部講演の事前準備のための集中的な学習など、実務を通じた学習こそ一番効果があったと語っている。
② キャリアパスから得られた実践力
インタビューでキャリアパスを直接確認できたCSOのうち、必ずしも全員がCSO着任以前にサステナビリティ分野の業務経験があったわけではない。
過去の経験や専門的知見がある場合は、サステナビリティ分野に直接的に活用可能ではある。だが、CSOが職務を果たす上でより重要なのは、いかなる分野・業務領域であれ、過去の経験から「社内の関係者を動かす」ための勘所を把握しており、実践できる力にある。実際、インタビュー対象のCSOの多くから、他分野の業務から得た経験が、サステナビリティ分野の施策・取り組みの推進に重要な役割を果たしているとの発言があった。
例えば、サステナビリティに関する施策・取り組みを企業価値創造につなげるためには、社内の各部門やグループ会社等が能動的に取り組みに参画する状況を創り出す必要がある。中でも売上・利益の創出に直接携わる事業部門とのコミュニケーションをいかに円滑に進めるかがポイントとなる。「事業会社・部門の特徴・課題の俯瞰」ができる力、そして「事業部門は何を考えているのか?」「コーポレート部門の指示を、事業部門はどう受け止めるのか?」といった想像力の有無が、腹落ちする対話の可否に直結する。実際に、事業部門や営業現場での経験が長いCSOからは、社内外の相手にいかに納得してもらうか、動いてもらうかを常に考えてきた日々が、サステナビリティの観点からの事業部門との対話や情報発信に役立っているとの回答を得た。
また、事業部門の施策・取り組みの推進手法が、サステナビリティ分野における「仕組み」づくりのヒントになるケースもある。
あるCSOは、営業部門のマネジメント手法を参考に、全社視点の経営企画・戦略とサステナビリティ分野の戦略が一体となって経営企画・戦略を立案し、各事業部門の具体的な活動へ落とし込む仕組みを構築したと語っている。
なお、本書籍のタイトルが『CSO「と」拓くサステナビリティ経営』であるように、SXはCSOの存在のみで実現可能なものではない。後述のとおり、特に現場を巻き込んだ取り組みの推進には、CSOが示した方向性の下、サステナビリティ部門の担当者が社内各部門と地道な対話を重ねる作業が不可欠となる。本書籍では、5社のサステナビリティ部門の責任者にインタビューを実施し、各社の「サステナビリティ推進部門」の機能や人員構成、メンバーに求められるスキルセット等についても取り上げている。こちらの内容もぜひ注目いただきたい。
3. SX実現のカギは、「つなぐ」と「自分事化」
企業が「SX」を実現するためには、経営層がサステナビリティを経営戦略の中核に位置付け、社内外のステークホルダーとの対話・協働を積極的に図り、対話・協働から把握した課題への対応を通じて新たな成長機会や企業価値の向上につなげるプロセスを確立する必要がある。その中心的な役割を果たすのが、「マテリアリティ」である。
マテリアリティとは、企業活動において重要なサステナビリティに関する課題を指す。
全社戦略とサステナビリティ戦略の方向性を揃えるためには、企業活動の原点である企業理念やパーパスを起点に、サステナビリティ分野において到達すべき「目標」や「ゴール」を検討する必要がある。また、マテリアリティの特定・改定の過程では、サステナビリティ関連のリスクや機会の整理が必要となり、それらをビジネスモデルや事業戦略のレジリエンスの検証に活用することで、企業価値創造に向けた変革の検討や、企業価値の毀損につながりうるリスクの実効的な管理に貢献する。

そして、マテリアリティに関するKPIを、経営層・事業部門・一般従業員の目標や評価基準へとカスケードダウン注2)することで、企業全体の戦略とサステナビリティ戦略を統合した形で、本業の中での具体的な実行や進捗管理、行動変容を促すことが可能となる。
上記の実現に向けて、CSOやサステナビリティ推進部門は、組織のトップからボトムに至るまでアプローチし、協力を深めながら取り組みを進めることが期待される。また、バリューチェーン、インベストメントチェーン(投資に関わる様々な主体・ステークホルダー)等に存在するステークホルダーと対話を行い、経営・事業戦略や意思決定等の改善につなげる必要がある。こうした役割を果たす上で鍵となる要素を端的に表したのが「つなぐ」「自分事化」という二つのキーワードだ。
(1) キーワード①「つなぐ」
一つ目のキーワード「つなぐ」について説明しよう。例えばCSOは、経営層が参加するサステナビリティ関連の会議体である「サステナビリティ委員会」に、運営責任者として関与するケースが多くみられる。こうした会議の場においてCSOが果たすべき大きな役割は、同委員会をCXO間の連携を促し、考えをつなぐ場とすることにある。社長(CEO)をはじめ、各分野の最高責任者たちの考え方がつながっていれば、サステナビリティに関連するリスクと機会を適切に考慮した上で、バランスのとれた経営判断が可能となるからだ4)。
各CXOが、社長のメッセージを各領域・役割の中で適切に翻訳することで、各領域の分断を防ぎながら、全社的な推進力につなげることが可能となる。こうした観点は機関投資家の大きな関心事項でもあり、社長のメッセージがいかに各CXOへ引き継がれているかという点が、統合報告書の内容などにも表れるという5)。インタビュー対象企業のCSOも、各CXO等の委員会メンバーの考えをいかにつなぐかという観点から、委員会運営に工夫を凝らしている。
ある企業では、毎回のサステナビリティ委員会に全CXOを招集。事業活動に関わるホットトピックを議題とし、取り組みの重要性に関して参加者間の共通認識を形成している。また同委員会では、部門の壁に埋もれて顕在化していないサステナビリティ関連のリスク・機会の把握や、優先順位付けを実施。担当部署選びを含めて実施することで、リスク・機会の双方の検討・対策漏れを防止しているという。
また、各CXOがそれぞれの立場で決定した事項について、実務を通じて具現化するには、サステナビリティ推進部門は社内の複数部門と関わり、部門横断の取り組みを進める必要がある。例えば、GHG排出量のスコープ3対応やサプライチェーンの上流・下流における人権への対応など、サプライチェーン全体で複数のサステナビリティ関連テーマへの対応を並行して進める必要に迫られることがある。個別のテーマで具体的に求められる対応は異なるものの、各事業・地域で対応を依頼するサプライヤーは共通する。
一般的に、サプライチェーン上で想定されるサステナビリティに関するリスクは、調達部門がリスクオーナーとして指定される傾向が強い。だが、調達部門の担当者が日々、サプライヤーとの間で想定・対応するリスクは広範に存在し、スコープ3対応や人権尊重はその一部に過ぎない。調達部門の担当者がサステナビリティ分野のリスクについて十分に理解していない場合、リスクの影響や重要性を過小評価し、適切な対策が講じられない可能性がある6)。こうした状況を防ぐため、サステナビリティ部門と調達部門の連携を通じて、サプライチェーン上に存在するサステナビリティリスクの識別・評価・対応策を実効的・効率的に進める必要がある。 ある企業では、直接材・間接材の全体の購買機能を統括する組織を設置。ESG委員会のメンバーであるサプライチェーン機能責任者の監督のもと、サステナビリティ担当役員やESG戦略部のメンバーも兼務する形で、サプライヤー向けの行動規範の署名取得や紛争鉱物対策を推進している。
(2) キーワード②「自分事化」
キーワードの二つ目が「自分事化」だ。マテリアリティに関する取り組みを推進するためには、社内の各部門やグループ会社が、それぞれの担当領域や事業の文脈に沿って関連する施策や取り組みを具体的な業務に落とし込み、従業員の業務遂行を通じて実践につなげることが不可欠だ。そのためには、マテリアリティに関するKPIを、経営層・事業部門・一般従業員の目標や評価基準へとカスケードダウンするといった進捗管理のための制度設計だけでなく、経営層、事業部門や現場の従業員一人ひとりが、マテリアリティに関する具体的な取り組みの必要性を、「自分事」として理解し、主体的な行動変容につなげるための取り組みが不可欠となる。
経営層・事業部門の双方の関与に向けて、CSOは経営層の一員として、サステナビリティの重要性をメッセージとして全社に発信し、中長期的な企業の目指す姿や全社戦略にサステナビリティの視点を組み込む責任を担う。ある企業のCSOは、自らサステナビリティ委員会の議題や身近なサステナビリティ関連のトピックについて、社内向けの動画を配信。社員のサステナビリティへの関心を高め、主体的な取り組みが企業文化として根付くことを目指している。
また、中長期の経営戦略や計画とマテリアリティを具体的に統合するためには、事業部門との関係構築が不可欠である。そのため、サステナビリティ推進部門はCSOのリーダーシップの下、現場に寄り添いながら「自分事化」を促進し、実践を後押しする役割を担う。
ある企業では、全社の中期経営計画の策定プロセスの一環として、サステナビリティ推進部門と各事業部門の担当者が対話を通じてマテリアリティを作成。サステナビリティ推進部門で2030年の社会・環境の姿を事業に関わる視点から提示した上で、各事業部門に将来やるべきことを検討させることで、自発的な検討の促進につなげている。
事業部門の行動変容を促す上で重要なポイントは、事業部門は日常業務の範疇(はんちゅう)で社会課題に直接触れる機会が多く、それゆえに社会課題を「当たり前」のものとしてとらえる傾向がみられ、サステナビリティの観点での重要性や事業機会との関連性に気付いていないことがしばしばある点である。
そこでサステナビリティ推進部門が、現場の声を丁寧に拾い上げ、社外向けの情報開示・発信の機会なども活用しながら全社的に発信することが重要となる。好事例や課題の共有は、現場の従業員たちが自らの活動の社会的意義を実感するだけでなく、サステナビリティの取り組みに対する社内の共感を醸成し、協力の姿勢を引き出すことにもつながる。
ある企業では、サステナビリティ推進部門が世界各地の工場を訪問し、現場の取り組みをレポートやHPで紹介している。別の企業では、統合報告書を作成後に社内の各部門向けに説明会を開催している。各部門の担当者が説明会に登壇し、制作の背景・想いなどを語ってもらうことで、次年度の統合報告書制作に関しても各部門の協力を得られやすくすることが狙いだ。
4. おわりに
本稿では、『CSOと拓くサステナビリティ経営』の内容を基に、各社がCSOに設定している機能や役割を探った。しかしながら、本書籍に含む一端にすぎない。CFOや最高人事責任者(CHRO)が担う財務や人事と比べ、各社ともCSOの役割の明確化に試行錯誤しているのが現状だ。インタビューでは多くのCSOや部門責任者は半ば疲労感をにじませつつ「新しい問題はみんなサステナビリティ部門に持ち込まれる」と語ってくれたのが印象的だった。見方を変えれば、サステナビリティは新しい挑戦の余地も大きいともいえる。いかに自社のサステナビリティ部門が持つべき役割を画するかは、その責任者はもちろん実務に携わる一人ひとりの担当者次第でもある。 インタビューには金融業、食品・消費財メーカー、製造業、小売業の大手企業から、環境ビジネスに携わるスタートアップ企業まで、多岐にわたるCSO(CSuO)やサステナビリティ部門の責任者に実名でご協力いただいた。書籍では本稿のような整理・分析だけでなく、各社の臨場感あるインタビューも掲載しているためぜひご覧いただきたい。
参考文献・資料等
- Miller, Kathleen & Serafeim George (2014) “Chief Sustainability Officers: Who Are They and What Do They Do?”, SSRN
- 経済産業省(2022)「伊藤レポート3.0(SX版伊藤レポート)」
- 経済産業省(2023)「「SX銘柄2024」募集要領」
- 住田孝之(2023)「直言・企業情報開示 インタンジブルズ(Intangibles)が紡ぐ企業価値~価値創造の仕組みこそ企業開示の本丸~」『RMFOCUS』Vol.87
- 松原稔(2024)「直言・企業情報開示 投資家がサステナビリティ開示に見ているもの~投資哲学から解き明かす企業価値~」『RMFOCUS』Vol.88
- WBCSD(2017)“Sustainability and enterprise risk management:The first step to wards integration”
注)
- 以前から存在する最高戦略責任者(Chief Strategy Officer)と区別するため、最高サステナビリティ責任者を「CSuO」とするケースも国内外ともに散見される
- 経営トップが決定した戦略やKPIを、各部門や現場などの下層に適合するよう細分化・浸透させること
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