コラム/トピックス

冬季オリンピックとサステナビリティ:雪不足の危機をビジネス機会へ

[このコラムを書いた研究員]

衣笠 功次郎
専門領域
気候変動、サステナブル経営、
情報開示、人権
役職名
上席研究員
執筆者名
衣笠 功次郎 Kojiro Kinugasa

2026.1.22

いよいよ2月からミラノ・コルティナ冬季オリンピックが始まりますね。白銀の世界で繰り広げられる熱い戦いを楽しみにされている方も多いのではないでしょうか。しかし今、多くの人に親しまれる「冬の祭典」が、深刻な危機に直面しています。
実は、地球温暖化の影響で、世界各地のスキー場で雪が十分に降らなくなっているのです。これは単に「スキーができなくなる」というレジャーの問題にとどまりません。スポーツを支える環境の変化は、私たちの社会や経済、そしてビジネスの在り方にも大きな警鐘を鳴らしています。

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「スポーツとサステナビリティ(持続可能性)なんて、自分たちの仕事には関係ない」と思われるかもしれません。しかし、スポーツには社会を動かす絶大な影響力があり、そこでの課題解決は新しい技術やサービスの創出、つまり大きなビジネスチャンスにもつながっているのです。
今回のコラムでは、冬季オリンピックを巡る環境リスクの実態を紐解きながら、スポーツがいかにして持続可能な社会を築く「核」となり得るのか、そしてそこにどのようなビジネスの可能性があるのかを解説します。不確実な時代を生き抜くヒントを、スポーツの視点から一緒に探ってみましょう。

この記事の
流れ
  • 冬季オリンピックを取り巻く環境リスクの実態
  • 「人工雪」にも潜む2つのリスク
  • リスクへの対応を進めるプロスポーツ団体
  • 新たなビジネス機会を得る企業の事例
  • 展望・提言
  • まとめ

冬季オリンピックを取り巻く環境リスクの実態

冬季オリンピックの存続を脅かす環境リスク。特に注目すべきは、気候変動に伴う降雪量の減少です。

気象庁によると、年ごとの降雪量は変動が大きいとされています。そうした中でも、1962年以降の日本海側の降雪データには減少傾向が現れています。また、ドイツ・バイロイト大学などの研究チームの予測によれば、今世紀末には世界の主要スキー場地域の20%で降雪が半減し、13%で降雪が完全になくなる(約4度の気温上昇が起きるシナリオの場合)とされています。日本アルプスにおいては、年間の平均降雪日数が、これまでの151日から86日へと大幅に減少するという衝撃的な結果が出ています。

図表1 世界7大山岳地域のスキー場における2100年までの年間降雪日数予測

世界7大山岳地域のスキー場における2100年までの年間降雪日数予測
世界7大山岳地域のスキー場における2100年までの年間降雪日数予測

(出所:Veronika Mitterwallner et al., “Global reduction of snow cover in ski areas under climate change”)

(黄色~緑色~紫色になるにつれて、年間降雪日が0~100日減少する地点を示している。日本:図表g の場合、東北から甲信越、北陸、近畿、中国地方にかけて100日ほど降雪日が減少する。)

こうした雪不足は、ウィンタースポーツの活動停止を招くだけでなく、スノーリゾートを基盤とする地域の宿泊施設や飲食店、観光ビジネスにも深刻な打撃を与えます。実際に、2023年度にはスキー場の倒産が過去10年で最多の10社に達しており、経営環境は極めて厳しくなっています。

「人工雪」にも潜む2つのリスク

この雪不足を補うために、多くの大会で導入されている「人工雪」。実はここにも、2つの大きな課題があります。
一つは安全性の低下です。英国・ラフバラー大などの研究チームは、人工雪は天然雪に比べて空気層が少ない(天然雪:約90%、人工雪:約10%)ために、硬いアイスバーンになりやすいと指摘しています。これにより、転倒しやすいだけでなく、転倒時の衝撃が大きくなるため、重大事故につながる危険も大きくなります。2022年の北京オリンピックでは、スキー会場のほぼ100%が人工雪で覆われ、選手から「防弾氷」と表現されるほどの事故リスクが懸念されました。

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もう一つは環境負荷です。人工雪の製造には膨大な淡水と電力エネルギーが必要になります。地域によっては飲料水の供給を圧迫するうえ、さらなる温暖化を助長するという皮肉な状況を生んでいます。

リスクへの対応を進めるプロスポーツ団体

こうした深刻なリスクに対し、プロスポーツ団体は「攻め」の姿勢で対応を始めています。ここで注目すべきは、スポーツにはファンや地域社会を巻き込み、行動変容を促す圧倒的な影響力があるという点です。

現在、国連気候変動枠組条約(UNFCCC)や国連環境計画(UNEP)、国際自然保護連合(IUCN)、国際オリンピック委員会(IOC)が、「Sports for Climate Action」や「Sports for Nature」といった国際的な枠組みを創設し、組織を挙げてサステナビリティに取り組むことを宣言しています。日本国内でも、JリーグやB.LEAGUEが「地域密着」の強みを活かし、気候変動対策やゴミの削減を地域のパートナー企業と共に推進しています。また、大会運営時の環境負荷を低減する取組みも始まっています。国際スキー・スノーボード連盟は、公認大会でのフッ素系ワックスを使用禁止にしており、全日本スキー連盟も2022年から取り入れています。

新たなビジネス機会を得る企業の事例

こうした動きは、企業に対して新しいビジネス機会を提供しています。まず、気候変動における緩和策です。温室効果ガス(GHG)の排出削減に向けた取組みは、スポーツにおいても求められるようになっています。GHG排出量の見える化サービスなどを提供するアスエネ社は、2025年9月に開かれたフットボール産業の国際カンファレンス「World Football Summit」香港大会で、イベント前後のGHG排出量を算定しました。世界70以上の国・地域から4,000人以上集まった参加者に対し、同社の知見とテクノロジーをアピールする機会になっています。

また、石油資源の消費抑制に加えて、汚染防止/生態系の保全にもつながる資源循環(サーキュラーエコノミー)の分野にも機会があります。湘南国際マラソンでは「マイボトル・マイカップ」方式を導入し、数万個規模の使い捨てプラスチックコップを削減しました。この給水システムは災害時にも転用できることから、開発したアクアクララ社は、大磯町などとの防災協定も締結しています。こうした「ゴミを出さないイベント運営」のノウハウや給水システムは、フェーズフリー(普段利用している商品やサービスが災害時にも使える)なビジネスモデルとして期待されています。

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さらに、スポーツはサステナビリティの実証機会としても活かされています。東洋製罐グループHD社は、Bリーグ「アルバルク東京」と協働で、2022年より飲料用紙コップのリサイクルを試行していました。その後、2025年10月に「TOYOTA ARENA TOKYO」が新設された際には、同アリーナで利用する飲料用紙コップの「数量や期間を限定せずに水平リサイクル」する取組みを、日本で初めて実施しています。スポーツの場を「サステナビリティを実践し、新しい価値を創造する実験場」として捉えることで、ブランド価値の向上と収益化の両立が期待できます。

展望・提言

今後の冬季オリンピック、そしてスポーツ界全体の展望を考える上で、欠かせないのが「ガバナンス(組織体制)の整備」と「統合的なアプローチ」です。

まず、スポーツ団体は組織内に「CSuO(最高サステナビリティ責任者)※1」を置くなど、サステナビリティを運営の根幹に据える必要があります。短期的な「安全性の確保」を最優先としつつ、中長期的には「GHG排出量の削減」や「施設の脱炭素化」、さらにはサプライチェーン全体での「生物多様性への配慮」、「資源循環に向けた取組み」を行うといった包括的な戦略を取る必要があります。

今後のアクションへの提言として、以下の3点を挙げます。

(1)データの可視化と情報開示 どれだけ環境負荷を減らせたか、どのような社会的貢献をしたかを、科学的なデー
タに基づいて定量化し、対外的に発信することが重要です。これは、企業が求め
られるTCFD(気候関連財務情報開示)やTNFD(自然関連財務情報開
示)と同様の流れです。企業にとっては、共通言語ができることで比較可能性を
担保でき、自社が進めたいサステナビリティ取組みと一致する活動を見つけやすく
なります。
(2)地域コミュニティとの共創 スポーツは地域社会の「核」となり得るポテンシャルを持っています。自治体、企
業、地域住民が協力し、スポーツをきっかけとした環境保全活動や地域のレジリエ
ンス(防災・回復力)を高める取組みを加速させるべきです。これは地域の持続
可能性を高めると同時に、企業にとっては地域密着型のビジネスを拡大する機会
となります。
(3)「環境・社会・経済」の統合的な視点 スポーツを単なる「教育」や「娯楽」としてではなく、「環境を土台とした社会・経済
活動」の一部として捉え直すことが不可欠です。環境への投資を「コスト」ではな
く、将来のリスクを回避し、新しい市場を創る「投資」と捉えるマインドセットの転換
が求められます。企業にとっては、新規ビジネスを実証する機会になります。

※1)Chief Sustainability Officerの略で、「CSO」とするケースもある。

まとめ

世界人口の約15%が現役または元アスリートであると言われるほど、スポーツは多くの人々の生活に根付いています。そのスポーツが気候変動や生物多様性の課題に正面から向き合い、解決策を提示し続けることは、地球全体のサステナビリティを牽引する力強いエンジンとなるはずです。冬季オリンピックの白銀の景色を次世代に引き継ぐために、私たちは今、スポーツという共通言語を通じて、新しいビジネスと社会の形を共に描き始める時にあると感じています。

例えるなら、サステナビリティへの取り組みは「リレーのバトン」のようなものです。 私たちの世代で環境という土台を壊してしまえば、次世代にバトンを渡すことすらできません。今、私たちが手にしているバトンを、革新的なビジネスや知恵によって磨き上げ、より良い形で未来へと繋いでいくことが、現代のビジネスパーソンに課された「競技」なのかもしれません。

【参考文献】

  • 気象庁HP、「日本の気候変動 6.雪 6-1. [観測結果] 日本国内の雪には減少傾向が現れている」
  • Veronika Mitterwallner et al,「Global reduction of snow cover in ski areas under climate change」(2024年3月13日)
  • Loughborough University. 「Slippery Slopes: How Climate Change is Threatening the Winter Olympics.」(2022年)
  • 産経新聞、「「防弾氷」でけが人続出 北京五輪、硬い人工雪のリスク」(2022年2月15日)

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