COP30が示す地球の現状と今後 ~アメリカ不在でも進むネットゼロ~【RMFOCUS 第97号】
[このレポートを書いた専門家]

- 会社名
- 一般社団法人SusCon
- 執筆者名
- 代表理事 粟野 美佳子 氏 Mikako Awano
2026.4.2
- 国連気候変動枠組条約第30回締約国会議(COP30)が2025年11月にブラジル・ベレンで開催された。
- 宿泊設備の乏しさから、特に政府代表団の規模が縮小されたが、会場内では例年どおり企業や金融機関に関わる話題が多く提供された。
- アメリカが代表派遣を見送り、EUもパビリオン出展無しと、これまでの議論の牽引役の姿が見えなくなる中、危機感を強めた科学者たちが、今の地球の危機的状況を伝えるセッションを連日開催していた。
- パリ協定からの10年で脱炭素は企業経営の中に定着したが、各国の政策はまだ1.5℃の軌道に乗っていない。
- 削減がはかばかしくない中、大気からCO2を除去する炭素除去への注目が高まっている。
アメリカがパリ協定からの脱退を宣言し(*手続き上、正式な脱退は2026年1月)、政府代表団も派遣しないという環境の中で開催された国連気候変動枠組条約第30回締約国会議(COP30)。パリ協定から10年という節目に当たる2025年は、地球の肺と喩えられるアマゾンを抱え、メガダイバーシティと表現される豊かな生物多様性を誇るブラジルが、早くから議長国として名乗りを挙げ、森林保全にも注力した成果を出そうとしていた。条約交渉の会議体としては、既に様々な報道や報告イベントで紹介されているように、ブラジル政府の意気込みどおりの成果は出せなかったというのが正直なところである。しかし今のCOPの役割は単に条約交渉だけではない。気候変動というテーマを巡り官民問わず様々な関係者が集結し、取り組みの紹介や議論を交わす場でもある。本誌で毎年報告させていただいているように、筆者は今回も公式サイドイベントや、パビリオンと称される政府や様々な団体が設けたブースでのセッションを聴講してきた。会期終盤に発生した会場内の火災により、それ以降のセッションはキャンセルという残念な事態もあったが、今回も民間企業や金融機関に関わる話題が多く提供されている。その中から特徴的だったものを紹介したい。
1. 参加者の縮小と出展者の異変
COP30の開催地となったのは、ブラジル北部に位置するパラ州の州都ベレンである。ルラ大統領はアマゾンでCOPを開催すること自体に意義があるとして、何万人単位となる会議参加者を収容するだけの宿泊インフラが揃っていないベレンでの開催に執着。地元の不動産業者と提携契約を交わし、ベレン市内のマンションの入居者に半月から1カ月間部屋を退去してもらい、会議参加者の宿泊場所として提供するという策に打って出た。しかしその結果、宿泊代がこれまでになく高騰し、日本企業も参加を見送ったところが多いと聞いている。
実際のところ、参加者は確かに減っている。特に影響が大きかったのが、政府代表団である(表1)。
【表1】COP参加機関数および参加者数の推移
オランダ政府は「国民の税金をそこまで使う価値があるか慎重に判断する必要がある」と派遣人数を前回より大幅に減らすことを予告。そのせいか、毎回ベネルクスとして出展していたパビリオンが今回は見られなかった。ベネルクスパビリオンは、日本の金融機関も使用している金融機関の炭素フットプリント計測手法「金融向け炭素会計パートナーシップ(PCAF)」を世界的に発表する場となったこともある。サステナブルファイナンス先進国であるオランダがこのパビリオンで主催するセッションには毎回注目していたため、いわば主力選手の一人が欠場という状態になってしまった。
しかしそれ以上に筆者を驚かせたのはEUの不在である。筆者は2019年からCOPに参加しているが、その2019年のEUパビリオンはグリーンディールの発表の場となり熱気にあふれかえっていた。2023年のCOP28では炭素国境調整措置(CBAM)を前面に押し出し、フォンデアライエン委員長をはじめ世界銀行総裁、IMF専務理事と首脳級レベルを揃えたセッションが開かれた。しかし2024年のCOP29のパビリオンはスクリーン投影のみ、そして今回はついに消滅である。今のEUの状況を考えれば、何を世界に発信できるのか、確かに疑わしい。オランダ政府同様に予算の制約もあっただろう。だが、EUがどこに向かおうとしているのか世界に示す非常に貴重な場を自ら諦めたことは、EUの世界を牽引する力の陰りにも見える。この不在は筆者にとってはアメリカの不在よりも衝撃的であった。
だが捨てる神あれば拾う神ありである。ベネルクスパビリオンが無くなった中、一人気を吐いたのがルクセンブルグである(写真①)。
欧州金融の中心地の一つであるだけに、金融を取り上げたセッションがいろいろと組まれ、筆者も自然に根ざした解決策(NbS)に対する投資のデリスキングを論じるセッションに参加した。その内容もさることながら、ルクセンブルグ環境大臣が1時間のセッションをずっと聞いていたことも強く印象に残っている。この環境大臣は、COPに先立つ2025年10月に国際自然保護連合(IUCN)が4年に1度開催する世界大会にも顔を見せ、“「自然のための金融」プログラムを策定したルクセンブルグは投資家が求める透明性と安定性を担保する”と熱弁を振るっている。気候変動と自然を統合的にとらえた金融政策を着実に進めているルクセンブルグが、オランダの穴を十分に埋めてくれた。
もう一つ見逃せない存在となったのが、フィンランドである。北欧勢のパビリオンは厳密には政府ではなく、経済団体が国を背負って出展しており、フィンランドもノキアと同国の鉄鋼企業オートクンプを主軸とした企業連合で今回出展を再開。このフィンランドパビリオンでのセッションに登壇者として欧州委員会(EC)幹部を招いたり、欧州議会主催セッションを開催したおかげで、EUの政策関係者たちの今の考えが聞ける機会を作ってくれたのだ。さらには、このEUの現況を企業側がどう思っているのか、生々しい声に触れる場ともなった。
重要鉱物をテーマとしたセッションに登壇したEC担当者は、サプライチェーンの透明性確保をECの政策方針として強調。ところがこれに対する企業側登壇者の反応は、重要鉱物という本来のセッションテーマではなく、オムニバス法による一連の政策の迷走状態に矛先が向き、政策側のつるし上げともいえる展開となったのだ。ブラジルの資源大手ヴァーレは「政策シグナルが矛盾している」、ノキアは「簡素化はよいとしても意図が重要」、オートクンプは「サステナビリティで長期的競争力が得られる政策環境を作れ」と、今の欧州の政策環境の不確実性に対する批判が続出。EC側は「政策が不確実なのはEUだけではない」と反論してはいたが、およそ説得力に欠けていたのはいうまでもない。欧州議会のセッションでは、立ち見の参加者もおり、注目度の高いパビリオンとなっていた。
2. 科学者たちの高まる懸念
今回新たにパビリオンを出展したところもある。中でも存在感を放っていたのが、プラネタリーバウンダリーの提唱者 であるヨハン・ロックストローム氏を筆頭とした、世界的に有名な科学者たちによる「プラネタリーサイエンスパビリオン」である(写真②)。
脱石炭を筆頭とした環境キャンペーンに精力的に資金提供しているブルームバーグ財団をはじめ、アメリカの複数のフィランソロピー財団やブラジル政府等からの支援を受けて設置されたこのパビリオンに感じられたのは、科学者たちの強い二重の危機意識である。国連総会の場では気候変動を「hoax(でっち上げ)」と強く非難し、気候変動を深刻な環境問題と結論づけたアメリカの気候変動対策の科学的基盤をなしてきた基本文書(endangerment finding 生命に関わる危険の研究結果)の見直しを指示したトランプ大統領。気候変動の科学的研究を支えてきたアメリカ国内の研究機関も次々と閉鎖され、科学の無視どころか抹殺に近い政策が繰り広げられている。この今のアメリカの状況に黙っていられないと、科学者たちが立ち上がったのだ。
しかしそれ以上に彼らを突き動かしているのは、地球がもはや危険水域を超えてしまっている危機感だろう・・・
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