富士山噴火降灰対策のポイント【RMFOCUS 第97号】
[このレポートを書いた専門家]

- 会社名
- 株式会社竹中工務店
- 役職名
- レジリエンスソリューション推進室長
- 執筆者名
- 杉内 章浩 氏 Akihiro Sugiuchi
2026.4.2
- 大量降灰による建物の被害リスクや対策の技術的蓄積は限定的である。少なくとも現状の整理が必要と考え、その全体像をまとめた。
- 最悪の場合、降灰時はインフラ・ライフライン供給が停止し、建物の設備も火山灰の影響で稼働ができず、建物は機能停止する。
- 降灰時に建物を一部でも稼働させるためには大規模な対策と降灰中のメンテナンス継続が必要である。
- 少なくとも、建物閉鎖を前提とした復旧期間低減対策と、未経験の災害であることを踏まえた教育・訓練は必要である。
1. 喫緊の課題である降灰対策
日本は世界でも有数の火山大国であり、全国に111の活火山が分布している。このうち富士山はその偏西風の風下に首都圏を抱えることから、大量の降灰を引き起こすような大規模噴火が発生した場合には社会活動に大きな影響を与える 1)。民間企業においても防災・事業継続の面で大きな課題である。
噴火は地震や水害と異なり現代の大都市が被害を被った経験が無く、技術的な蓄積が乏しい(表1)。特に事業活動の基盤である建物についてはリスク・対策に関する全体像と具体的な情報が不足している。地震に対する耐震技術の発展に長い期間がかかったように、降灰対策の充実化についてもある程度の期間を要することが予想される。
一方、企業にとってはたとえ情報が乏しくとも「今」検討を始める必要があり、ここに大きなギャップがある。このような課題認識から竹中工務店では「建物の降灰リスク・対策」の検討に着手し、その現時点での全体像を描き要点を導き出すことを試みた 2)。本稿ではその内容を紹介する。
【表1】地震・水害・火山災害(噴火)の比較

2. 降灰災害の特徴
降灰による地域・社会への影響については内閣府などから豊富な情報が発信されている 1)。ここでは民間企業の備えの視点からその要点をまとめて示す。
(1) 災害としての降灰
噴火により起きる現象は降灰だけでなく溶岩流、噴石の落下、火砕流、などと様々である。富士山の次の噴火でこのうちどの現象が発生するのか、さらにその発生確率、規模の事前評価は難しい 3)。例として地震は地域別の発生確率情報があるのに対し、噴火は遭遇確率不明の災害である。
降灰災害の様相についてはハザードマップのモデルである「宝永噴火」が参考になる。この噴火では予兆現象の約2週間後に大噴火が発生し、その後約2週間降灰が続いたと推定されている。もちろんこれは単に一例であり、突発的に発生する・降灰が長期間続くなどの可能性もある。
(2) 火山灰の特性
火山灰には「灰」という文字が入っているが、実際には可燃物の燃えかすではなく細かい岩石の欠片である。砂やさらに細かい粒子に火山性の物質(硫化物等)が付着しているもの、という理解が分かりやすいと思われる。内閣府の資料に示された火山灰の特性 1)から想定される建物などへの影響を表2に示す。
(3) 降灰による広域災害
このような火山灰の特性から、大規模降灰時は地域のインフラ・ライフラインの停止を引き起こす恐れが指摘されている。2025年3月に内閣府から発表されたガイドライン 4)ではその影響が降灰量の大小で4段階のステージとして整理したものが示された(表3)。
またこのガイドラインでは住民・企業に求める行動指針が示された。具体的には降灰エリアの住民は在宅避難とし、企業は移動(出社・帰宅等)困難に備えることである。
【表2】火山灰の特徴
| 特性 | 建物などへの影響※ |
|---|---|
| 風に舞うような細粒分を含む | 様々なすき間からの侵入、特に吸気(外気の取入れ)をする屋外機器は多量に侵入 |
| 水を含むと泥のようになる | 歩行、車両通行の支障 |
| 乾くと固まる | 雨水管などの詰まり |
| 砂に近い重さ | 構造物の破壊、人力撤去に大きな労力 |
| 水を含むと導電性がある | 電気設備の短絡(ショート) |
| 鋭利な形状をした粒である | 駆動部の動作不良、損耗 |
| 1,000度程度の融点 | 内部が融点を超える機器(ガスタービン発電機など)の故障 |
| 火山性の物質(硫化物等)を含む | 屋外の金属部は長期で放置すると腐食 |
| (複合要因) | 植栽の枯死 |
※発生の「恐れ」がある確率的影響であることに注意
【表3】ステージ別のインフラ・ライフラインの状況
| ステージ | 1 | 2 | 3 | 4 | |||||
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| ▲ 降灰微量 |
▲ 3cm |
△ (閾値無し) |
▲ 30cm |
||||||
| 鉄道(地上) | × | × | × | × | |||||
| 鉄道(地下) | ○ | △ | × | × | |||||
| 道路 | ○ | × | × | × | |||||
| 航空 | × | × | × | × | |||||
| 電力 | △ | △ | × | × | |||||
| 通信 | △ | △ | × | × | |||||
| 上水 | ○ | ○ | × | × | |||||
| 下水 | ○ | ○ | × | × | |||||
| ○ | 基本的には通常通り稼働 |
| △ | 短期の停止、または条件により停止の可能性あり |
| × | ほど確実に停止、復旧に長期を要する |
(出典:内閣府ガイドライン(R7)を基に竹中工務店作成)
(4) 降灰常襲地域の状況
桜島から近い鹿児島市などでは日常的に降灰が発生しているが、大噴火時の想定と比べると微量であり、気象台記録5)によると1mm未満が多い。1g/m2はおおむね1,000分の1mmの降灰に相当する。一部の建物は空調機器へのフィルタやフードの設置(図1)、雨水側溝を広くし掃除をしやすくする等対策を行っているが、特別な対策のない建物・設備も多い。これらはいわば災害というよりは清掃の対策である・・・
ここまでお読みいただきありがとうございます。
以下のボタンをクリックしていただくとPDFにて全文をお読みいただけます(無料の会員登録が必要です)。
会員登録してPDFで全て読む
ご登録済みの方は
79117文字