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火山災害に備える企業のリスク管理と事前対策【災害リスク情報(2026年5月)】

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[このレポートを書いたコンサルタント]

会社名
MS&ADインターリスク総研株式会社
部署名
リスクマネジメント第一部
執筆者名
上席コンサルタント 石長 賢一 Kenichi Ishinaga
コンサルタント 水上 璃子 Riko Mizukami

2026.5.1

要旨
  • 2025年3月に内閣府より「首都圏における広域降灰対策ガイドライン」が発表され、2026年3月にはこれを踏まえた火山防災に関する普及啓発映像が公開されました。
  • 日本には111の活火山が存在し、首都圏も含め全国の事業所が火山災害の直接・間接的影響を受ける可能性があります。特に富士山の宝永噴火級の大規模噴火が発生した場合、首都圏全域で広域・長期の降灰が予想されます。
  • 一方、首都圏の企業の多くはこのような大規模降灰への対応実績が少ないため、対応が後手に回ればサプライチェーン全体が深刻な打撃を受けかねません。そのため本レポートでは火山災害特有のリスクや企業が取り組むべき平時からの備えについて紹介します。

1. 火山噴火の概要と影響

本章では、火山噴火の概要と企業活動・事業継続に与える影響について解説する。

日本全国に活火山が分布しているという事実は「どこに立地する事業所であっても、火山噴火により直接・間接的に影響を受ける可能性がある」ことを意味する。特に、物流・サプライチェーンが全国に展開されている現在、自社が火山の近くにない場合でも、取引先・物流拠点・重要インフラが影響を受けることで操業が停止するリスクが潜在している。

企業としては、単に「活火山が多い国である」という事実を知るだけでなく、まず自社およびグループ会社・主要取引先がどの火山のどのような影響を受けうるかを把握することが重要である。

(1) 日本の活火山の概要

気象庁は現在111の火山を活火山と認定している*1。そのうち、火山防災の観点から監視・観測体制の充実が必要な火山として51火山が指定されており、これらの火山については気象庁及び関係機関が24時間体制で観測・監視を行っている(図1)*2,*3

図1. 日本の活火山の分布
図1. 日本の活火山の分布
(文部科学省 日本の活火山*3

活火山は日本全国に点在しており、2026年4月時点で北海道から鹿児島県まで13の火山に対し、噴火警報(周辺海域)及び噴火警報(火口周辺)が発令されている*4。中でも桜島(鹿児島県)や薩摩硫黄島(鹿児島県)では活発な噴火活動が続いているほか、浅間山(長野県)や草津白根山(群馬県)、雌阿寒岳(北海道)では噴煙や火山性地震が観測されている。

特に近年、社会に大きな影響を与えた噴火事例として2014年の御嶽山噴火が挙げられる。御嶽山では水蒸気噴火に伴う噴石等により、行方不明者を含めて63名が犠牲となった。この噴火は、大規模噴火の前兆である地殻変動が観測されてから、わずか10分ほどで噴火が発生しており、火山予測の難しさを露わにした事例といえる*5

また、2021年には東京都の福徳岡ノ場海底火山で爆発的な噴火が発生し、噴出された大量の軽石が房総半島まで漂着した。この影響で離島航路の運航に支障が発生し、タンカーが着岸できないことによる電力供給の不安定化が懸念されたほか、海上保安庁の巡視艇が航行不能になるなどの問題も発生した。これは、火山災害が港湾・海運・エネルギー供給といったインフラや産業活動にまで影響を及ぼしうることを示す事例である*6

(2) 火山災害の特性

大規模災害の中でも特に身近な地震は、突発的に発生することが多く、その被害も短時間のうちに広範囲に及ぶことが多い。地震による建物やインフラ等の被害は、ほとんどの場合、発生直後に集中して現れ、余震が収まった後は集中的な復旧作業が可能となる。一方、火山災害は継続的な噴火により、終息までに数年を要することもあり、影響範囲も広域に及ぶ場合がある。特に火山噴火による広範囲の降灰は、直ちに停電や断水を引き起こすものではないが、水道や電気、交通機関へ段階的に被害を広げていくと考えられる*7。そして除灰によってある程度状況に改善が見込まれる点においても、火山災害の被害は他の自然災害と比べて特殊であるといえる。内閣府は火山災害に対する平時からの備えとして「生活を継続する備え」「直ちに避難するための備え」「除灰作業の備え」を継続し、各段階に応じた対応を速やかにとることができるよう計画を立てることを勧めている*8

企業にとって、長期的な火山災害は、数週間から数か月にわたり生産や販売などの経済活動に影響を及ぼすことを意味する。自社拠点に直接的な被害がない場合であっても、サプライチェーンが被災することで、原料の調達や製品の出荷、従業員の出退勤が困難になるなど、間接的な被害が生じる。このように、火山災害は自社の被害にとどまらず、サプライチェーン全体に及ぶ長期的な事業リスクであるといえる。

火山災害の主な種類と概要は表1のとおりである。火山災害では、甚大な被害をもたらす火砕流や溶岩に注目が集まりがちであるが、これらの影響範囲は比較的限定的である。一方、火山灰は風によって拡散し、遠隔地にも被害を及ぼす可能性がある。そこで本稿では、特に広範囲に大きな影響を及ぼす火山灰に着目して解説する。

表1. 火山災害の主な種類と概要
(気象庁、土木学会地盤工学委員会火山工学研究小委員会*9より弊社にて作成)

表1. 火山災害の主な種類と概要
表1. 火山災害の主な種類と概要
(気象庁、土木学会地盤工学委員会火山工学研究小委員会*9より弊社にて作成)
災害種類 特徴 影響範囲
(火口からの距離)
主な災害事例
(大規模な事例や最近の事例を中心に)
火山灰 火口からの噴出物のうち直径が2mm以下のもの。ガラス片・鉱物結晶片から成る。水を含むと重くなる密度増)。乾燥時は絶縁体だが水を含むと導電性を持つことがある。 ~数百km程度
  • 1707年 富士山(宝永噴火)
  • 1914年 桜島(大正噴火)
  • 2000年 三宅島
噴石 気象庁では概ね直径20~30cm以上のものを「大きな噴石」、直径が数cm程度のものを「小さな噴石」と呼称する。 大きな噴石:2~4km程度 小さな噴石:十数km
  • 2014年 御岳山
  • 2018年 草津白根山
火砕流 噴煙や細かく破砕された溶岩が高温の火山ガスや周りの空気を取り込んで山腹斜面を高速で流れ下る現象。大別すると噴煙柱崩壊型と溶岩ドーム崩壊型の2種類がある。温度は数百℃、速度は秒速10~100m以上になる場合があるとされる。 通常は10km程度だが、過去には155kmにも及ぶ事例もある(阿蘇カルデラ形成時)。
  • 1815年 タンボラ山(インドネシア)[噴煙柱崩壊型]
  • 1902年 プレー山(西インド諸島)[溶岩ドーム崩壊型]
  • 1991年 雲仙普賢岳[溶岩ドーム崩壊型]
溶岩流 マグマが火口から液体として地表に流れ出たもの。1000℃以上の高温で触れたものは燃え上がる。速度は比較的遅く時速数km程度。到達距離・範囲はマグマの量や地形で決まる。 富士山では火口から約50km離れた地点まで到達した例もある。
  • 1977年、2021年 ニイラゴンゴ山(コンゴ)
  • 1983年 三宅島
  • 2018年 キラウエア山(ハワイ)
火山泥流・土石流・洪水 火山泥流とは火山噴出物と水が混合して流れる現象。火山に降り積もった雪や氷が火山活動で融解して発生するものを融雪型火山泥流と呼ぶ。また、斜面に降り積もった火山灰などの火山噴出物が降雨によって崩壊して土石流が発生する場合もある。流速は時速数十km程度。泥流や土石流が河川に流れ込んで下流側で洪水が発生する場合もある。土石流・洪水は噴火終了後も数十年間にわたり頻発する。 地形や斜面の傾斜角、積雪量などにより影響範囲は異なるが、谷筋や河川に流れ込むと遠方まで達する。浅間山天明噴火では、洪水が江戸まで達した。
  • 1783年 浅間山(天明噴火)[吾妻川、利根川で洪水発生]
  • 1888年 磐梯山[長瀬川で洪水発生]
  • 1926年 十勝岳[融雪型火山泥流]
  • 1985年 ネバド・デル・ルイス山(コロンビア)[融雪型火山泥流]
  • 1991→1995年 雲仙普賢岳[水無川、湯江川、中尾川、土黒川流域で土石流発生]
山体崩壊・岩屑なだれ・津波 火山活動(噴火や地震)により山体が崩壊して岩屑なだれとなる。流れ出た土砂が海まで到達した場合は、津波が発生し対岸で被害が生じる場合もある。日本史上最大の火山災害は山体崩壊による津波が原因(1792年 雲仙岳“島原大変肥後迷惑”) 崩壊した山体の体積などにより影響範囲は異なる。
  • 1640年 北海道駒ケ岳[津波発生]
  • 1741年 渡島大島[津波発生]
  • 1792年 雲仙岳[津波発生]
  • 1888年 磐梯山[津波発生]
  • 1980年 セントへレンズ山(アメリカ)

(3) 火山灰の特性

火山“灰”は、一般的に想像される木や紙の灰とは異なり、ガラス片や鉱物結晶片などから構成される。乾燥状態では、風や人・車の動きによって容易に舞い上がり、空気中に長時間漂いやすい。一方、水分を含み湿潤状態となると、重量が増して泥濘化する(図2)*10。これらの特性から、以下のような被害が予想される。

  • 体育館のような長スパン建物は、降灰荷重が設計上想定される積雪荷重を超過した場合に、損傷や崩壊のおそれがある。
  • 火山灰は基本的に酸性であり、金属を腐食させる。
  • 湿潤状態の火山灰は導電性を持つことがあり、短絡による停電が発生する。
  • 降灰厚が1cm未満であればほうきで対応できるが、数cmではスコップが必要になる。
  • 乾燥状態の火山灰は舞い上がりやすく、吸い込むと呼吸器・肺に健康被害が生じる。
  • ごく少量の降灰でも車両の走行が困難になる(視界不良・走行不能)。
  • 火山灰は融点が低く、エンジンに侵入すると固着してしまう。
  • 事業所敷地が広い場合には、除灰にブルドーザーなどの重機が必要となる。

特に工場・倉庫等の大スパンの構造では降灰荷重による損傷・倒壊リスクがあるほか、空調・冷却塔・通信設備など屋外設備が降灰の影響を受けることで操業停止や品質不良のリスクが生じる。敷地面積が広い場合は除灰作業に多大な人員と時間、費用が必要となり、再稼働への大きな妨げとなる。これらを踏まえ、企業は建物・設備・従業員・物流の観点から、火山灰に対する具体的な対策を事前に検討しておく必要がある。

加えて、降灰は長期間に及ぶ場合があり、堆積厚が増すことで被害が甚大化する。そのため、除灰作業は降灰中であってもこまめに行う必要がある。降灰から身を守るゴーグルやマスク、除灰用のほうきやスコップの準備は不可欠である。

図2.湿潤状態の火山灰①
図2.湿潤状態の火山灰②

図2.湿潤状態の火山灰
(中央防災会議 大規模噴火時の広域降灰対策検討ワーキンググループ*10

全国に活火山が分布する日本においては、火山灰によって広範囲かつ各地で被害が発生する可能性がある。企業としては、自社の事業に関わるサプライチェーンの一部または全体に被害が及ぶことを想定した対策が重要である。次項では、経済的損失が特に大きい首都圏を対象に、公的機関が想定する富士山噴火の影響について紹介する。

(4) 富士山噴火の影響

2025年内閣府は「首都圏における広域降灰対策ガイドライン」*7を発行し、宝永噴火と同程度の降灰に備えた応急的な対策や事前の準備事項を示した。ガイドラインによれば、首都圏の降灰被害の特性として、以下の3点があげられる。

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