資産格差の動向:持ち家と年金の役割と現在の懸念
[このレポートを書いたコンサルタント]

- 会社名
- MS&ADインターリスク総研株式会社
- 所属名
- 基礎研究部 受託調査グループ
シニア研究員 - 執筆者名
- 中川 淳 Jun Nakagawa
- 専門領域
- 未来予測(金融、自動車、高齢化等)
2026.4.21
経済格差(所得、資産)の拡大が問題として取り上げられることがよくあります。実際に格差が拡大しているのか、最近興味深い文献も出ており、注目です。資産格差の抑制には様々な要因が関係しますが、戦後は持ち家と年金が大きな役割を果たしたという研究結果でした。
このコラムでは資産格差についての過去の状況を簡単に紹介し、持ち家と年金が果たした役割および現在の懸念点をやさしく解説します。
流れ
- 資産格差は拡大しているのか?
- 持ち家と年金が果たした役割の背景
- 日本の資産格差の経緯
- 現在の懸念点
資産格差は拡大しているのか?
いわゆる格差問題は長らく議論されているテーマです。格差問題は所得格差、教育格差など多くのものを含みますが、今回は保有資産(金融/実物資産)の格差、すなわち「資産格差」に焦点を絞ります。さて資産格差は拡大しているのでしょうか。
2025年に邦訳が出たダニエル・ヴァルデンストロムの『資産格差の経済史』によると西欧(対象:フランス、ドイツ、スペイン、スウェーデン、英国)に関しては戦後平等化が進み、1980年以降も資産格差の拡大が抑制されたようです。その理由として西欧の場合、中間層を中心に多くの人が戦後に自宅(住宅資産)を持つようになり、また1980年前後以降に積立式の年金資産※1が充実したことを挙げています。
図表1は同書にある民間資産割合推移のグラフをイメージ化したものです。戦後の成長期は主に住宅資産、1980年以降は主に年金資産の割合が高まりました。
図表1:各民間資産が占める割合推移のイメージ(西欧、米国の6か国)


(出所)ダニエル・ヴァルデンストロム(2025)『資産格差の経済史』P.69を当社でイメージ化し加筆
ただし、米国は例外的に格差が拡大しているとの結果が同書で示されています。米国でも持ち家は増加し年金も増えているものの、それ以上に1980年代以降トップ1%の超富裕層の資産シェアが伸び続けています。社会の分断の一因となっているかもしれません。
持ち家と年金が果たした役割の背景
持ち家がなぜ資産格差を抑制したかというと、1)住宅ローンの充実で多くの人が持ち家取得に利用、2)政府の持ち家奨励政策、3)持ち家の価格が経済の伸び以上に上昇、といった要因が大きかったようです。人口が急増する中で、経済が成長し都市化が進展したことが貢献しました。
また年金の役割も近年大きくなり、長寿化が進むとその重要性は今後も高まると見込まれます。なお年金の場合、積立式年金の制度を拡充した度合が大きな影響を持ちました。積立式に積極的だった米国、英国、スウェーデンは1980年代以降の金融市場の好調もあって特に顕著に資産拡大に貢献しました。
日本の資産格差の経緯
それでは日本の資産格差はどうだったのでしょうか。ヴァルデンストロムの研究では残念ながら日本は対象に含まれていません。
そこで世界各国の不平等をデータベース化した「World Inequality Database」※2を利用し、日本における資産保有上位のシェア(上位10%が赤線、上位1%が青線)の推移を確認しました。【図表2】をみる限り、戦後に資産格差は縮小し、その後はおおむね横這いです。ただ1980年代後半の不動産・株式急騰の発生と崩壊の影響は一時的に観察されます。
日本も戦後に中間層の持ち家取得が進み、経済成長でその価値が上昇したことは格差抑制に寄与した可能性があります。加えて日本では相続税の税率が他の先進国(相続税がない国もある)に比べ高いことも重要な点です。
【図表2】日本における資産保有の上位10%、1%のシェア推移(1900年-)


(出所)World Inequality Databaseのデータベースを利用、1900年以降のグラフを作成し抜粋・加工。
現在の懸念点
過去は人口増による成長と都市化が資産格差の抑制に寄与してきました。しかし現在、日本ではいくつか懸念点があります。
1)人口減少と一極集中
日本では人口が減少しつつ都市に集中しています。そのため都市と地方、都心と郊外といった地域により資産価格の異なる動きが生じています。最近の都心部の不動産急騰をみると、日本全体では空き家が増加し問題となっているのと対照的です。こうした変化は地域間の資産格差を通じて資産格差の拡大につながる可能性があります。
2)高齢期への備えの格差
年金については、日本で各種の非課税投資枠で将来に備える動きが活発化したことは全体にプラスです。しかしそうした備えに十分対応できていない層は、所得を得られない事態が生じた際、さらに困窮化することになります。特に日本は高齢化が顕著であり、高齢期の生活費確保、また病気やケガで就労できなくなった際の備えが課題になります。
戦後長らく持ち家と年金が中心になって抑制されてきた資産格差は、人口減少と一極集中、高齢化を背景に新しい段階に入りつつあるかもしれません。格差問題については引き続き注視していく必要がありそうです。
※1 やや専門的な話になりますが、現役世代が高齢者の年金を賄う「賦課方式」の部分は資産に算入しません。日本の場合、賦課方式が基本ですが、積立も一部あります。
※2 『21世紀の資本』のトマ・ピケティといった世界の経済学者が連携し作成しているデータベースです。
【参考文献】
ダニエル・ヴァルデンストロム(2025)『資産格差の経済史 持ち家と年金が平等を生んだ』みすず書房