リスクマネジメントの「視点」 「補償」だけでなく「低減・緩和」へ ―自然を生かした防災・減災の取組
[このコラムを書いた研究員]

- 専門領域
- 自然資本
- 所属
- 基礎研究部 基礎研究グループ
- 執筆者名
- 上席研究員 朝倉 陸矢 Rikuya Asakura
2026.6.4
ここ数年、気候変動が進行し、洪水や土砂災害といった、自然災害の激甚化と頻発化が問題となっている。とくに比較的長い時間雨が降り続ける、いわゆる大雨ではなく、短時間に強い雨が降る、集中豪雨の被害が増加している。さらに、地方の過疎化や高齢化、インフラの老朽化等による、地域社会の脆弱性の高まりが拍車をかけている。世界各地でも「数十年に一度の○○」と表現されるような大規模な災害が頻繁に発生し、被害額は増加傾向だ。すでに海外では、リスクの高い保険契約から撤退する動きがみられ、事業や資産の信用にかかわる問題となっている。現在、直接的な被害を受けていないとしても、これまで通りの安心・安全な暮らしが、脅かされる可能性は増している。
こうした事態を受け、生じた損失に対応するだけでなく、いかに「リスクを事前に低減・緩和するか」が、リスクマネジメントにおいて重要視されつつある。その中で、注目されているのが「自然に根ざした解決策(NbS)」だ。これは、自然の持つ多機能な特性を生かし、複数の社会課題を同時に解決することを目指す、取組の総称である。洪水緩和、土砂流出防止等の防災・減災だけでなく、温室効果ガスの排出抑制、生物多様性保全といった、気候変動や環境変化への対策も両立できる。さらには、ウェルビーイングに貢献し、人間の健康への好影響を与える等、多くの便益をもたらす。
一例としては、日本各地で普及が進む「雨庭」がある。これは、住宅や事業所の敷地の一角に設置される、雨水を貯留・浸透させるための植栽のことだ。降った雨を一時的に貯めて、地中に浸透させたり、河川や下水へゆっくりと流したりして、洪水を抑制する。敷地面積の5%を雨庭にすれば、その土地が建物やアスファルト、コンクリートに覆われる前の地面だった頃と同じように、雨水を地下へ浸透させられる、という研究結果もある。造成の際に、地域にゆかりのある植物を植えれば、固有の生態系を守ることにもつながる。他にも、植物による暑熱の緩和等、多様な効果を発揮できる。
こうした取組は、従来型の大規模なインフラとは異なり、一つひとつの小さな活動を積み重ねることで、地域全体への好影響が期待できる。ゆえに、個人や企業ごとの対策だけでなく、地域に関わる様々な主体が連携する、いわゆるコレクティブ・アクションが重要である。そこで鍵となるものの一つが、効果の「見える化」だ。被害抑制や便益の見込みを、研究機関や行政、企業、住民、投資家が理解できる共通言語で示せれば、資金の流入や参加者のすそ野が拡大する。これは、TNFD(自然関連財務情報開示タスクフォース)をはじめとする、企業の自然関連課題を財務や戦略策定と結び付ける流れとも通底している。こうした動きへ早くから踏み出せば、自社の持続可能性を高め、リスク対応力と企業価値の向上につながる。そして、地域への貢献によって、企業の社会的責任を果たすことにもなる。
(2026年5月28日三友新聞掲載弊社コラム記事を転載)