コラム/トピックス

ISSB、自然関連開示を実務記述書で検討|TNFDとの関係と企業対応

2026.5.29

IFRS Foundation傘下の国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)は4月22日、自然関連開示について、強制力のある新たな「基準(IFRS Sustainability Disclosure Standard)」ではなく、「実務記述書(IFRS Practice Statement)」とする方向を示した。

一見すると、「義務化が見送られた」「自然関連開示はまだ様子見でよい」と受け止められそうな内容だが、ISSBが今回強調したのは、“自然関連情報の開示そのものはすでにIFRS S1号(サステナビリティ関連財務情報の開示に関する全般的要求事項)の対象であり、optional(任意)ではない”という点である。つまり、今回の実務記述書化は「開示を求めない」という意味ではなく、「企業が実務上対応しやすい形で開示方法を具体化する」ためのアプローチと理解すべきである。

こうした背景には、世界各国でIFRS S1/S2号の導入が始まったばかりという事情がある。現在、多くの企業は気候関連開示(S2号)への対応だけでも、ガバナンスやリスク管理体制の整備、シナリオ分析、Scope3の温室効果ガス算定などに追われている。その段階で自然資本・生物多様性の新たな“義務基準”を追加すれば、各国の導入プロセスを混乱させかねない。ISSBはこの点を明確に意識している。

そのうえで、ISSBはTNFD (Taskforce on Nature-related Financial Disclosures)フレームワークを参照して自然関連開示の議論を進める方向性を改めて示している。4月のISSBボード会議では、「自然関連リスク・機会に関する『場所特有(location-specific)』の情報」「先住民、地域社会、(負の)インパクトを受けるステークホルダーとの関わり」が重要論点として扱われており、これは、TNFDが重視してきた考え方と整合している。従来、TNFDは先進企業の自主的な取り組みという位置づけが強かったが、今後はISSB実装における事実上の参照枠組みへと移行していくと考えられる。

企業にとって重要な点は、自然関連の開示が気候開示と同様に、投資家向け財務情報の一部として本格的に組み込まれつつあることである。特に、拠点別・地域別の自然への依存やインパクト、地域社会との対話、サプライチェーン上の自然関連リスク・機会の把握が、今後の開示実務の焦点となる可能性が高い。対応策としては、①自社の事業拠点・主要サプライチェーンの自然関連課題を地域単位で把握すること、②先住民・地域社会との対話の有無や内容を整理すること、③IFRS S1/S2号およびTNFDとの整合を意識しつつ、将来の開示拡充に備えてデータ収集体制を整えることが推奨される。

総じて、今回のISSBの判断は、自然関連情報開示の国際的な共通基盤づくりに向けた前進といえる。ただし、制度の最終形はなお流動的であるため、企業は今後の草案公表や市場反応を注視しつつ、実務対応を進めていくことが求められる。

【参考情報】
2026年4月22日付 IFRS Foundation HP、 Finance for Biodiversity foundation HP

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