レポート/資料

カーボンクレジットの概要と国際的な市場の動向【リサーチレター(2026年7月)】

[このレポートを書いた研究員]

山根 未來
会社名
MS&ADインターリスク総研株式会社
部署名
基礎研究部 基礎研究グループ
執筆者名
研究員 山根 未來 Miki Yamane

2026.7.1

カーボンクレジットとは、温室効果ガス(以下、GHG)の削減・吸収実績をクレジット化し、取引可能にした仕組みである。国内では、2026年4月よりGX-ETS(国内排出量取引制度)の一部義務化が開始し、それに伴いJ-クレジット制度やJCM(二国間クレジット制度)※1に対する関心が高まっている。

一方で、国際的な市場では、国内市場だけでは把握しきれない動きもみられる。本稿では、世界銀行が2026年5月に公表したレポート「State and Trends of Carbon Pricing 2026」を参照し、カーボンクレジットの基礎的な概要から最新の市場動向を整理する。あわせて、国内のカーボンクレジット市場や国内企業への影響などの示唆も交えながら解説する。

1. カーボンクレジットとは

(1) 概念

カーボンクレジットは、企業が森林保護や省エネルギー機器の導入などによって達成したGHG 削減量や吸収量をクレジットとして発行し、他企業などに売買できる仕組みである。ここでいうクレジットは、排出量削減の証明書のようなものである。クレジットは図表1のとおり、「①削減努力をしなかった場合の見込み排出量(ベースライン)」から「②削減努力をした場合の実際の排出量」を差し引いて算出される。一般的にカーボンクレジット1 単位は、1t-CO2eと表される。クレジットの購入者は、自社で削減が困難な排出量を埋め合わせる、相殺(オフセット)ができる。

【図表1】カーボンクレジットの考え方

【図表1】カーボンクレジットの考え方
カーボンニュートラルの実現に向けたカーボン・クレジットの適切な活用のための環境整備に関する検討会
「カーボン・クレジット・レポート」を基に筆者作成

(2) カーボンクレジットを創出するためのプロジェクト

カーボンクレジットを創出するためのプロジェクトは、排出回避・削減によるクレジット(削減クレジット)と炭素吸収・除去によるクレジット(除去クレジット)の 2種類に大別でき、それぞれをさらに技術ベースと自然ベースに整理できる。具体的なプロジェクトの例は図表2のとおりである。

「削減クレジット」とは、「既存の取組みにおいて、以前と比べて GHG 排出量を減少させるプロジェクト」によって創出されたクレジットである。対して、「除去クレジット」とは、大気中の炭素(CO2)を実際に取り除くことで創出したクレジットである。一般的に、炭素を除去する技術を総称して、炭素除去(CDR:Carbon Dioxide Removal)技術と呼ぶ。

「技術ベース」とは、産業活動などの人工的な取り組みによるプロジェクトに基づくクレジットの区分であり、対して「自然ベース」とは森林や海洋などの自然環境に働きかけるプロジェクトに基づく区分である。

【図表2】カーボンクレジットの創出プロジェクトによる類型

  排出回避‧削減(削減クレジット) 炭素吸収‧除去(除去クレジット)
技術ベース 再エネ機器の導入
設備効率の改善、省エネ促進
燃料転換
輸送効率改善
廃棄物管理 など
DACCS(Direct Air Capture and Storage)
BECCS(Bioenergy with Carbon Capture and Storage) など
自然ベース REDD+
森林保護
泥炭地保護
沿岸域(マングローブ林など)の保護 など
植林‧再植林(ARR:Aff orestation, Reforestation, and Revegetation)
バイオ炭 など

カーボンニュートラルの実現に向けたカーボン・クレジットの適切な活用のための環境整備に関する検討会
「カーボン・クレジット・レポート」を基に筆者作成

※REDD+とは、途上国における森林減少・劣化の抑制や森林保全によるGHG排出量の減少を目指し、資金などの経済的なインセンティブを付与することにより、排出削減を行おうとする取組み。
※DACCSとは、大気中から直接CO2を回収し、それを地中深くに長期間にわたって安定的に貯留する一連の技術の総称。
※BECCSとは、生物資源を燃料とするバイオマスを燃焼する際に発生するCO2を回収し、貯留する技術の総称。

(3) カーボンクレジットを発行するメカニズムと利用目的

カーボンクレジットを発行するメカニズム(制度)は、以下の3つに整理される。

①地域・国家・地方政府のクレジットメカニズム:
特定の国・地域の法律などを根拠とし、その管轄内で流通することが意図されている制度。J-クレジット制度(日本)や、活用が進むAustralian Carbon Credit Unit Scheme(豪州)などが含まれる。

②独立的クレジットメカニズム:
NGO などの民間団体が独自にルールを定め運営する制度。Verra※2やGold Standard※2といった民間団体が運営するクレジットの仕組みが含まれる。

③国際的クレジットメカニズム:
国際機関によって管理または運営され、複数国間で流通することが意図されている制度。パリ協定6条※3に基づく枠組みが含まれる。

続いてカーボンクレジットの利用目的は、以下の4つのカテゴリに分類される。

①地域・国家・地方の法規制対応:
排出量取引制度や炭素税などの法規制・制度対象となっている企業や団体が、義務の一部を果たすためにカーボンクレジットを購入することが認められている。例えば2026年度から開始したGX-ETS第2フェーズ※4では、「J-クレジット」と「JCM(二国間クレジット制度)」の2つのカーボンクレジットが相殺(オフセット)のために上限付きで利用可能となっている。

②国際的な法規制対応:
例えばCORSIA※5は、現在唯一の国際的なセクター別制度。CORSIAは対象航空会社に対し、承認されたカーボンクレジットを購入することで、一定の水準を超えるCO2排出量を相殺(オフセット)することを求めている。

③NDC(各国のGHG 排出量の削減目標)達成:
パリ協定6条に基づいて承認された、NDC(各国のGHG 排出量削減目標)を達成(または上回る)するための国際的なカーボンクレジットの利用を意味する。例えば日本では、JCMがパリ協定6条に沿った形で実施され、日本政府が獲得したカーボンクレジットは日本のNDCにカウントされる仕組みである。

④自発的な利用:
民間企業などが自主的に掲げたGHG排出削減目標を達成するためにカーボンクレジットを購入することが含まれる。

ここで押さえたいのは、3つのメカニズムを通じて供給されるカーボンクレジットは、複数の利用目的を満たす可能性があるという点である。例えば独立的クレジットメカニズムは、自発的な利用だけに役立つわけではない。VerraやGold Standardのような民間の制度で発行されたクレジットは、企業の自主的な取組みだけでなく、国の制度や国際ルールの対応にも使われることがある。実際にチリやコロンビアでは、炭素税制度にてVerraやGold Standardの一部カーボンクレジットの利用が認められている。またVerraやGold Standardの一部カーボンクレジットは、航空業界の国際的な制度であるCORSIAにおいて、相殺(オフセット)が可能である。つまり、カーボンクレジットは「環境に配慮した企業の自主的な行動」だけにとどまらず、各国の政策や国際的な制度と結びつくことで、カーボンクレジット市場が拡大している。

【図表3】カーボンクレジットのメカニズムと利用目的

【図表1】カーボンクレジットの考え方
世界銀行「State and Trends of Carbon Pricing 2026」を基に筆者作成
免責事項(英語)This is an adaptation of an original work by The World Bank. Views and opinions expressed in the adaptation are the sole responsibility of the author or authors of the adaptation and are not endorsed by The World Bank.

2. カーボンクレジットの国際的な市場の現状

(1) カーボンクレジットの発行量推移とメカニズム別にみる発行量

以降は、世界銀行「State and Trends of Carbon Pricing 2026」に基づいて、2025年市場の特徴を紹介する。State and Trends of Carbon Pricingレポートシリーズでは、過去10年以上にわたってカーボンプライシング(炭素税・排出量取引・カーボンクレジット)のトレンドを追跡している。

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