コラム/トピックス

【お客さま事例】『日本全国住宅資産データ』で高潮と洪水の複合災害の事前対策を検討する 豊橋技術科学大学 豊田将也准教授

2026.7.14

高潮と大雨による洪水が同時に発生する「複合災害」を研究する、豊橋技術科学大学の豊田将也准教授。

その豊田准教授が2025年から研究で活用しているのが、MS&ADインターリスク総研の『日本全国住宅資産データ』です。これは、防災・減災の研究や対策に関わる関係者向けの、全国の住宅に関連する情報(築年区分・住宅価格・階数など)を100m・250mのメッシュでカバーしたデータベースです。

豊田准教授はこのデータをどう活用して、「複合災害」の事前対策につなげようとしているのか。詳しく話を伺いました。

この記事の
流れ
  • 高潮と洪水の「複合災害」に備える
  • 「ハザード研究者」として経済損失も分析したい
  • 『日本全国住宅資産データ』のメッシュサイズが細かい点が魅力
  • データの前処理が不要で研究にすぐに使える
  • 地域の特性を浮き彫りにして行政の防災の取り組みにつなげられる

高潮と洪水の「複合災害」に備える

ーー豊田准教授の取り組んでいる研究テーマについて教えていただけますでしょうか。

豊田)高潮と洪水による「複合災害」というものをメインで研究しています。

豊橋技術科学大学 建築・都市システム学系 豊田将也准教授
豊橋技術科学大学 建築・都市システム学系 豊田将也准教授

豊橋技術科学大学 建築・都市システム学系 豊田将也准教授
土木工学の海岸工学分野から台風・低気圧に伴い発生する気象災害・沿岸災害、河川災害を対象に研究を行う

なぜかというと、台風などによる大きな災害が起きると、“港湾の災害”も“河川の災害”も同時に発生しますが、それに対処する行政などの組織は港湾室と河川室といった形で分かれているため、災害対応が効果的に機能しないというのが課題になっているからです。

国でも内閣府が2021年に「防災・減災、国土強靱化新時代の実現のための提言」※1というのを公表して、その中でスーパー台風に備えて、東京湾・大阪湾・伊勢湾の“三大湾”で複合災害の発生リスクが高まっていることを踏まえ事前対策に取り組む必要があるとしています。

※1「事前防災・複合ワーキンググループ提言」内閣府 防災・減災、国土強靭化新時代の実現のための提言
https://www.bousai.go.jp/kaigirep/teigen/index.html

こうしたことを背景に私のような研究者が現在、複合災害への備えとして研究を進めています。

「ハザード研究者」として経済損失も分析したい

ーー「複合災害」の研究を通じて明らかにしたいことはどのようなことでしょうか。

豊田)災害研究における前提からお伝えすると、研究者は大きく「ハザード研究」と「被害研究」という2つのタイプに分かれています。

「ハザード研究」は、高潮の潮位や降水による浸水がどの程度になるのかを研究するのですが、実際にどのくらいの経済損失が出るのかがわかりづらい点が課題です。

一方の「被害研究」は災害による経済損失を分析するのですが、具体的な災害予測のデータを持っていない場合、ハザード情報は行政から公開されている情報などに限定されることが課題でした。

そこで最近の研究者の中では、ハザード研究の研究者が作ったデータを被害研究の研究者に渡して経済損失額を算出するような動きが出てきています。

私の専門はハザード研究ですので、自分で作った潮位や浸水のデータに住宅資産に関するデータを重ね合わせることで経済損失額を明らかにしたいという思いがありました。

自分で作った潮位や浸水のデータに住宅資産に関するデータを重ね合わせることで経済損失額を明らかにしたいという思いがあったという豊田将也准教授
自分で作った潮位や浸水のデータに住宅資産に関するデータを重ね合わせることで経済損失額を明らかにしたいという思いがあったという豊田将也准教授

日本全国を対象とするような大きなプロジェクトで、「被害研究」の研究者と共同研究することは、いろいろな方の視点で分析できるというメリットは当然あるのですが、特定の地域やエリアの経済損失額を算出する際には、正直、自分1人で機動的に研究したいと考えていました。

このため、住宅資産に関するデータを購入できないか調べていたところ、見つけたのがMS&ADインターリスク総研の『日本全国住宅資産データ』でした。

『日本全国住宅資産データ』のメッシュサイズが細かい点が魅力

ーー『日本全国住宅資産データ』を購入するに至ったポイントはどのような点でしたか。

豊田)一番は、データのメッシュサイズが細かい点です。私の研究では潮位や浸水の計算結果が30mメッシュの解像度なので、1kmや都道府県単位のデータでは、潮位・浸水データを細かく計算した意味がなくなってしまいます。

その点『日本全国住宅資産データ』には100mメッシュのサイズがありましたので、私のニーズと合致した点が大きかったです。

『日本全国住宅資産データ』が提供する主なデータ
(2025年9月時点)

対象物件 日本全国の住宅物件
メッシュサイズ 100mメッシュ・250mメッシュ
建物属性情報 物件種別 戸建/集合住宅/不明
構造 鉄筋コンクリート造/鉄骨造/防火木造/非防火木造/不明
建築年区分 1970年以前/1971年-1980年/1981年-1990年/1991年-2000年/2001年-2010年/2011-2020年/2021年以降/不明
階数区分 3階以下/4階-6階/7階-10階/11階-20階/21階-30階/31階以上/不明
数値情報 ・建物/家財再調達価額(円)
・住宅棟数(件)

また、研究を公表した場合の社会的な影響を考えたときに、住宅資産のデータであれば多くの人がイメージをしやすく、研究結果を実際の政策に反映してもらいやすいのではないかとも考えています。

ーー豊田准教授の研究では『日本全国住宅資産データ』をどのように活用しているのでしょうか。

豊田)研究では、国土交通省が策定している「治水経済調査マニュアル」という河川やダム、堤防などの治水事業の経済効果を評価する技術指針に基づいて、洪水被害額の推計、気候変動の影響評価、リスク評価などを行っています。

豊田准教授の研究方法

豊田准教授の研究方法
豊田准教授の研究方法

画像提供:豊田将也准教授・高橋怜那(指導学生)

このマニュアルに沿って、私の潮位や浸水の分析データ、それに『日本全国住宅資産データ』を重ね合わせて、災害の期間中に最も高い水位のエリアにどういった住宅が含まれるかを確認しています。その上で、水害で被害を受けるのは多くの場合2階以下ですので、3階以上の住宅資産のデータに補正係数をかけるなど、被害額をより現実的なものに近づける作業をしています。

私の研究テーマは複合災害ですので、高潮だけの浸水データと住宅の損失、洪水だけの浸水データと住宅の損失、そして、高潮と洪水の両方を合わせた複合災害の住宅の損失といった形でいくつかのパターンを組み合わせて被害想定を出しています。

そうすることで、洪水の影響が大きいエリアや、高潮が加わらないと被害が大きくならないエリアなどを探ろうとしています。

データの前処理が不要で研究にすぐに使える

ーー『日本全国住宅資産データ』を活用してみて、メリットを感じている点はありますか。

豊田)様々なデータがパッケージになっている点も使い勝手がよいのですが、“研究にすぐ使える”形になっていて面倒な前処理がほとんど不要だったのも大きなメリットでした。

分析する際にはGIS※2を使うのですが、『日本全国住宅資産データ』はGISで非常に扱いやすい形式になっています。CSVファイルをそのままGISに読み込むだけでデータを表示できるので、住宅資産データがどこに分布しているのかをすぐに確認でき、浸水データなどの地理情報を重ね合わせながら分析を進めることができています。

※2 GIS:Geographic Information Systemの略で、地理的位置を手掛かりに、位置に関する情報を持ったデータ(空間データ)を総合的に管理・加工し、視覚的に表示し、高度な分析や迅速な判断を可能にする技術(引用元:国土地理院)

浸水データと住宅資産データを重ね合わせた分析結果

浸水データと住宅資産データを重ね合わせた分析結果
浸水データと住宅資産データを重ね合わせた分析結果

画像提供:豊田将也准教授・高橋怜那(指導学生)

国土交通省が公開している数値情報やメッシュデータも利用するのですが、そのままではGISで一括に扱うことができない場合もあります。まずGISで読める形式に変換して、必要に応じて自分でデータを解釈しながら加工したうえで取り込む必要があります。

その作業が不要になったのが、個人的には大変助かっています。

地域の特性を浮き彫りにして行政の防災の取り組みにつなげられる

ーー『日本全国住宅資産データ』も活用した研究で、現在までのところどのようなことを明らかにできそうだと感じていますか。

豊田)次の散布図は、気候変動の影響で伊勢湾台風クラスの極端な災害が発生したことを想定して2つの自治体を分析したものになります。横軸が浸水深のデータ、縦軸が住宅資産のデータです。また、左側が建物、右側が家財の資産額を表しています。

浸水深と住宅資産額の関係分析

浸水深と住宅資産額の関係分析
浸水深と住宅資産額の関係分析

画像提供:豊田将也准教授

横軸の数値が大きくなるほど、浸水深が大きいことを示していて、例えば6mのところにプロットされたデータ点は、6mの浸水が予測されるところにある住宅を意味しています。

また、縦軸の数値が大きいほど住宅の資産が高いことを示していて、赤と緑のいずれの散布図でも予想浸水深が低いところほど、資産価値の高い住宅も含めて住宅が集中していることがわかります。

一方、この2つの自治体の特徴の違いも見えていて、例えば赤色の自治体では、0~1mの浸水深のあたりにピークがあるのに対して、緑色の自治体では1~2mの浸水深のあたりにピークがあります。浸水深が大きいところにある住宅には、積極的に防災情報を発信する必要があるといえます。

ここからどのような災害対策に活かせるのかというと、行政や自治会として情報を発信・理解する際に、個々のエリアの特徴を活用して、災害リスクの勉強会を行うなどの啓発活動を行えるのではないかと考えています。

エリアごとに災害に対する住民の意識レベルを推測できるようになれば、行政としても優先順位を付けて防災の取り組みを実施できるようになることが期待できます。

ーー今後の研究の展望について教えてください。

豊田)現在は『日本全国住宅資産データ』を活用して住宅資産のデータに基づいて経済損失額を分析していますが、私が研究している湾岸エリアには住宅以外の商業施設もあります。将来的には、そうした施設のデータも含めて分析していきたいと考えています。

将来的には湾岸エリアにある住宅以外の商業施設のデータも含めて分析していきたいと話す豊田将也准教授
将来的には湾岸エリアにある住宅以外の商業施設のデータも含めて分析していきたいと話す豊田将也准教授

加えて、災害による経済損失だけではなくて、ある対策をすればどのくらいの損失を回避できるといった分析を、複合災害の分野でも行っていきたいと思っています。例えば、堤防を1mかさ上げしたら、どの程度浸水が抑えられて損失がなくなるかといったことです。

引き続き『日本全国住宅資産データ』も活用しながら、複合災害に関する研究に取り組んでいきたいと思います。

(本インタビューは、2026年7月1日に実施されたものです)

【防災・減災の研究・対策の関係者向け】
日本全国住宅資産データ

『日本全国住宅資産データ』は、全国の住宅関連情報(築年区分・住宅価格など)を100m・250mメッシュでカバーしたデータベースです。扱いやすいデータ構成で被害シミュレーションや経済分析などにご活用いただけます。

信頼度の高い情報ソースを組み合わせて開発し、住宅棟数や価格データなどが含まれ、CSVのファイル形式を採用しているので、読み込みや分析も簡単に行うことができます。

『日本全国住宅資産データ』

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