コラム/トピックス

【お客さま事例】村田製作所さま『流域リスクレンズ』を活用した水リスク評価の高度化とTNFD対応への第一歩

2026.8.3

環境や社会のリスクが深刻化する中で、ESGに代表される課題も経営戦略に織り込む 総合電子部品メーカー村田製作所。

近年は気候変動の影響などにより水リスクへの対応への必要性が高まる中、各拠点における水資源管理にも重点的に取り組んでいるといいます。

こうした中、村田製作所はMS&ADインターリスク総研の水リスク分析サービス『流域リスクレンズ』で、各拠点の流域における水リスクを評価する取り組みを行っています。

その背景と、サービス活用で見えてきたこと、そして今後の展望について詳しく話を伺いました。

この記事の
流れ
  • 水資源を含む自然資本への対応が重要な経営課題
  • TNFD対応を通じて自然環境を経営課題としてとらえ直す
  • 『流域リスクレンズ』で行った水リスク分析とは?
  • 水リスクの分析を通じて見えてきたネクストアクション
  • 流域リスクの低減にステークホルダーと共に取り組む

水資源を含む自然資本への対応が重要な経営課題

ーー村田製作所さまの事業概要と環境への取り組みについて教えていただけますでしょうか。

鵜近)当社は、電子部品の研究、開発、製造、販売を行う総合電子部品メーカーで、世界各地に生産拠点があります。これまでも事業を通して社会の発展や技術革新への貢献を目指してきましたが、近年は特に、水資源や生物多様性を含む自然資本への対応を重要な経営課題と位置付けています。

村田製作所サステナビリティ推進部の鵜近洋次郎氏(右)と五十嵐郁貴氏(左)。
村田製作所サステナビリティ推進部の鵜近洋次郎氏(右)と五十嵐郁貴氏(左)。

村田製作所サステナビリティ推進部の
鵜近洋次郎氏(右)と五十嵐郁貴氏(左)。

こうしたなか、私たち、サステナビリティ推進部では水資源や生物多様性に関するリスク評価、情報開示、社内施策の推進を担当しています。

ーー水資源や生物多様性を含む自然資本への対応が重要な経営課題となっている背景にはどのようなことがあるのですか。

五十嵐)実は当社では創業者の村田昭の時代から環境への取り組みを続けています。当社の社是の中には「独自の製品を供給して文化の発展に貢献し」「会社の発展と協力者の共栄をはかりこれをよろこび感謝する人びととともに運営する」という記載があります。

村田製作所の社是

村田製作所の社是
村田製作所の社是

画像提供:村田製作所

当たり前の話ではありますが、事業を続けていくためには当社を取り囲むコミュニティや環境があることが大前提です。こうしたコミュニティや環境と「共栄」し、一緒に「よろこび」をわかちあえるような存在でありたいということが、当社の理念です。

こうした基本理念に基づき、当社の事業活動は自然の恵みに支えられているという認識のもと、限りある地球の資源を大切に使い、社会全体の環境負荷の低減に貢献できるよう取り組みを続けています。

その中でも近年は、世界人口の増加や気候変動の影響を受けて、水資源の重要性や水リスクに対応する必要性が高まっていると認識していて、水リスクへの対応も含めた環境活動を推進しています。

TNFD対応を通じて自然環境を経営課題としてとらえ直す

ーーそうした活動の中で、今回、MS&ADインターリスク総研の水リスク分析サービス『流域リスクレンズ』の提供前の検証(POC)にご協力いただきました。背景にはどのような課題意識があったのでしょうか。

鵜近)先ほどお伝えしたように、事業活動において環境への負荷を低減できるように取り組んできているのですが、近年は環境・社会・ガバナンスのESGを経営に組み込み、持続可能な企業価値向上を目指すことがこれまで以上に求められるようになっています。

鵜近氏は、長く蓄電池製品の企画・マーケティングを務め、2023年よりサステナビリティ推進部で環境企画チームリーダーを担う。
鵜近氏は、長く蓄電池製品の企画・マーケティングを務め、2023年よりサステナビリティ推進部で環境企画チームリーダーを担う。

鵜近氏は、長く蓄電池製品の企画・マーケティングを務め、
2023年よりサステナビリティ推進部で環境企画チームリーダーを担う。

中でも、自然資本や生物多様性に関するリスクや機会を把握し、それを経営に反映して開示するTNFD※1への対応が必要になっています。

※1 TNFD(Taskforce on Nature-related Financial Disclosures):自然関連財務情報開示タスクフォースは、企業や金融機関が自然関連のリスク・機会について管理および情報開示をするためのフレームワークの構築を進める国際的な枠組み。

そのTNFD対応の本質は、当社を取り巻く自然環境を経営課題としてとらえ直しリスクと機会を整理して、事業戦略や資本配分に落とし込めるかだと理解しています。

これを踏まえると、これまで「当社の事業活動において欠かすことのできない水資源」と考えて取り組んできた排水管理や水使用量の削減といった活動は、流域にどのような影響を与えていて、そのことが将来の事業リスクや成長機会にどうつながるのかを分析し直す必要がありました。

五十嵐)TNFDでは、事業判断につなげられるようにどこに重要な自然関連のリスクと機会があるのかを特定するため、国内に50か所ほどある拠点の水リスクと売上への影響などを踏まえて優先順位を付ける必要がありました。

ただ、従来の環境活動では各拠点がある流域ごとの水リスクまでを把握していませんでしたので、優先順位付けするためにも科学的な根拠が必要でした。

このため、既存の水リスク評価ツールも活用してみましたが、広域的な水リスクを把握することはできても、拠点ごとの水リスクを事業判断に活用できるレベルで評価することは難しいという課題がありました。例えば、ある拠点で将来的に水が枯渇するリスクがあるのかどうかといった点までは把握できませんでした。

五十嵐氏は2022年に村田製作所に入社し、安全衛生・環境マネジメントシステムを推進し、2024年から鵜近氏とともにTNFD対応に取り組んでいる。
五十嵐氏は2022年に村田製作所に入社し、安全衛生・環境マネジメントシステムを推進し、2024年から鵜近氏とともにTNFD対応に取り組んでいる。

五十嵐氏は2022年に村田製作所に入社し、
安全衛生・環境マネジメントシステムを推進し、
2024年から鵜近氏とともにTNFD対応に取り組んでいる。

各自治体にある河川流量、ダム貯水量、水質などのデータを調べればわかるのかもしれないと考えましたが、データを集める時間とコスト、それにそのデータからリスクの有無を読み解く専門的な知識が必要となるため、どうしたらよいのか正直困っていました。

そんなときにお声がけいただいたのが『流域リスクレンズ』のPOCでした。

『流域リスクレンズ』で行った水リスク分析とは?

ーー『流域リスクレンズ』のPOCでは、どのような分析をしたのでしょうか。

五十嵐)ステップ1とステップ2の2段階で分析していただきました。

まずステップ1では、当社の方で選んだ18拠点で水リスクのスクリーニングを行ってもらいました。取水と排水の両面から水リスクを数値化したことで、拠点ごとのリスクレベルを“見える化”することができました。

拠点ごとの水リスク分析結果イメージ

拠点ごとの水リスク分析結果イメージ
拠点ごとの水リスク分析結果イメージ

※村田製作所の分析結果ではありません。

これによって世界地図のレベルでは把握できなかった拠点間のリスクの差が明確になり、どの拠点を重点地域として扱うべきかの判断材料が得られたと考えています。TNFDのLEAPアプローチ※2における「重点地域の特定」にも活用できる成果だと考えています。

※2 LEAPアプローチ:企業が自然との接点を発見し(Locate)、依存関係と影響を診断し(Evaluate)、リスクと機会を評価し(Assess)、開示への対応を準備する(Prepare)ための実践的ガイダンス。

次のステップ2で、18拠点の中から3拠点を選んで、より詳細な流域の解析を行ってもらいました。水源や排水先から市街地を含む流域の水の流れを解析して、当社がどの流域、涵養域の水を取水しているのか、排水が流域のどこに影響するのかが地図上で可視化されて非常にわかりやすかったです。

拠点別の水リスク解析結果のイメージ(排水リスク)

拠点別の水リスク解析結果のイメージ(排水リスク)
拠点別の水リスク解析結果のイメージ(排水リスク)

※村田製作所の分析結果ではありません。

次のような点が、今回解析をして初めて得られた知見でした。

  • 拠点がどの流域、涵養域から取水しているのか
  • 排水が希少生物の生息地に流れ込む可能性があるか
  • 水循環の全体像がどうなっているのか

解析結果を見たときに、科学的根拠に基づいて説明できる状態に一歩近づけたと感じました。

水リスクの分析を通じて見えてきたネクストアクション

ーー『流域リスクレンズ』で拠点の水リスクを分析してみて、今後のアクションとしてどのようなことができそうだと考えていますか。

鵜近)これまでの環境活動は「自分たちで排水管理をする、取水利用を削減する」といった形で、自社内の取り組みにとどまっていました。それが、今回の分析によって、ある拠点の取水は上流のダムと関係があり、そのダムに渇水リスクがある場合には「ダムの管理者とのより密接なコミュニケーションが必要」という形で、外部の関係者との連携が必要となることがわかりました。

排水でも、最終的にはある湖に流れ込むことが見えれば、拠点の関係者とのコミュニケーションでも「湖周辺の地域社会や生態系にも影響するから、排水管理を徹底してほしい」といった形で、ただ管理の徹底を伝えるよりも、具体的にイメージができるようなコミュニケーションに変化していくと思いました。

水リスクの分析を通じてネクストアクションが見えてきたと話す村田製作所の2人
水リスクの分析を通じてネクストアクションが見えてきたと話す村田製作所の2人

改めて、当社が利用する水資源は工場の敷地内で完結するものではなく、森林からダム、そして河川を通じて取水させていただき、排水したら河川を通して湖や海に流れ、地域住民や生態系に影響するという流域のつながりを実感することができました。

流域リスクの低減にステークホルダーと共に取り組む

ーー今後の展望を教えてください。

鵜近)先ほどもお話ししましたが、今回の水リスク評価を行ってみて、水源管理者とのコミュニケーションや、流域に暮らす市民への影響も考慮した排水管理といった形で、当社が流域に関わる主体の1人として、さまざまなステークホルダーと一緒にリスクの低減に取り組む必要があることを痛感しました。

その意味では社是で掲げている、コミュニティや環境と「共栄」し、一緒に「よろこび」をわかちあえるような存在でありたいという理念は間違っていなかったと思うとともに、その理念をTNFDの枠組みを活用しながら具体的な行動へとつなげていく必要があると考えています。

水はみんなのものだから、当社だけで独占せずに、使ったらきちんときれいにして戻す。当社の事業活動によって、自然環境に悪影響を及ぼさない。それを日本に限らず世界の拠点で実施していかなければならない。こうした使命感を持って、水資源の保全と管理を行っていきたいと考えています。

(本インタビューは、2026年7月6日に実施されたものです)

スコアだけで終わらない、実務で使える水リスク分析結果を提供

MS&ADインターリスク総研の『流域リスクレンズ』は、企業拠点の取水・排水情報に加えて、流域の水の流れ、気候変動影響、保護地域や重要自然エリアの近接性を踏まえて、リスクをスコア化するだけではなく、実務に落とし込んだ対応策を提供するサービスです。

流域リスクレンズ

個々の拠点や流域の特長に沿った課題の把握や具体的な対応策の検討ができるように、水リスクのモデル化・解析で高度な技術力を持つ「地圏環境テクノロジー」と共同で開発しました。

地圏環境テクノロジーの詳細HPはこちら:https://www.getc.co.jp/case-study/203/

複数拠点の中からリスク拠点をスクリーニングし、さらに個別拠点の詳細評価まで実施 。現場で活用できる実務的な情報 、ESG開示・TNFD対応・BCP・設備投資に役立つ情報をご提供します。

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