レポート/資料

令和8年熊本地震が企業に与えた影響と企業の地震対応の変化(速報)【BCMニュース(2026年8月)】

[このレポートを書いたコンサルタント]

会社名
MS&ADインターリスク総研株式会社
所属名
リスクマネジメント第四部長
執筆者名
主席コンサルタント 山口 修

2026.8.26

【要旨】

  • 本稿では、令和8年熊本地震に関する報道や企業の公表情報などをもとに、「企業に与えた影響」と「企業の地震対応の変化」を分析し、「今後のBCM整備におけるポイント」を整理した。
  • 企業に与えた影響については、半導体関連企業を中心に再稼働前の慎重な確認作業を実施していること、生産停止が1週間以上に及んだ事業所はいずれも震度6弱以上の揺れに見舞われていること、自動車関連企業を中心に、被災地外でも部品などの調達不全を要因とする生産停止が発生していることなどが確認された。
  • 企業の地震対応の変化については、10年前の熊本地震との比較から、被災企業では耐震対策、在庫活用、代替生産体制の整備が進んでいること、事前のサプライチェーンの「見える化」が有効に機能していることなどが確認された。
  • 今後のBCM整備においては、初動対応、現状把握、復旧対応の各フェーズで、これまでに確認されたことを「教訓」として活用することが重要である。

「令和8年熊本地震」(以下、熊本地震)が発生してから約半月が経過するなか、企業の事業所・工場の稼働停止に関して数多くのマスコミ報道やプレスリリースなどがなされている。

本稿では、これら数多くのマスコミ報道や企業が自らホームページで公表した内容など(以下、報道など)から読み取れる「熊本地震が企業に与えた影響」と「企業の地震対応の変化」に関する当社の分析結果を紹介したうえで、「今後のBCM(事業継続マネジメント)整備におけるポイント」を整理する。

なお、今回の分析は、まず、熊本地震が発生した7月28日以降から8月20日までの数多くの報道などの中から、報道件数の多い「製造業」かつ「事業所が被災し丸一日以上生産を停止した」企業29社を選定するところからスタートした。そのうえで、選定した企業の被災事業所ごとに「地震の揺れの大きさ(震度)」、「発生した物的被害」「生産停止期間」などの切り口から「熊本地震が企業に与えた影響」を分析した。

また、あわせて、当該企業の中から10年前の「平成28年熊本地震」当時にも被災し、かつ当時の報道など情報が比較的多い8社を選定のうえ、今回の地震との対応事項を比較分析することで、「企業における地震対応の変化」を洗い出した。

1.熊本地震が企業に与えた影響

ここでは、選定した企業29社の事業所のうち、復旧期間について言及があり、被災地(熊本県)に所在し、かつ「操業を完全停止した期間」が1日以上に及んだ19事業所を対象に、「地震の揺れの大きさ(震度)」、「発生した物的被害」、「生産停止期間」の関係を分析した結果を紹介する。分析結果は以下図表1のとおりである。

図表1:主たる事業所における震度・発生した物的被害・生産停止期間の関係

出典:気象庁、マスコミ報道、選定企業のホームページからの情報をもとにインターリスク総研にて作成

この結果から、まず、震度が比較的小さく、かつ大きな物的被害が確認されていない事業所であっても、生産停止が発生していることが読み取れる。特に、このような事例の多くは半導体関連事業所に見られ、工程が複雑であること、また、品質確保の観点から設備や製造条件の確認を慎重に進める必要があることなどから、目立った損傷がなくても稼働再開までに一定の時間を要したものと推察される。

次に、生産停止が1週間(7月29日~8月4日)以上に及んだ事業所は、いずれも震度6弱以上の揺れに見舞われていることも確認できる。この傾向は、10年前の平成28年熊本地震時にも見られたものであり、長期間の稼働停止を想定した地震BCMの整備においては、「震度6弱」という揺れの大きさがキーワードになると思われる。

もっとも、これらの結果は、報道などで把握可能であった限られた事例を対象としたものであり、対象業種や個別事業所の工程特性、被害確認手順、復旧方針などの差異も大きい。したがって、この結果のみから、地震の揺れの大きさ、停止期間、発生被害の関係を一般的に結論づけることはできない点には十分留意が必要である。

なお、上記の分析対象に入ってはいないが、被災地域以外の事業所が、被災地に所在する企業や事業所から部品などを十分に調達できずに生産停止に追い込まれている事実があることも忘れてはならない。一部、今回選定した企業も含まれるが、自動車関連企業5社が、調達事情が不安定であることを理由に「操業の一時または全部停止」を公表している。これら企業の生産停止状況は以下のとおりである。

図表2:部品などの調達不全の影響を受けた主な企業の生産停止期間

出典:気象庁、マスコミ報道、選定企業のホームページからの情報をもとにインターリスク総研にて作成

2.企業における地震対応の変化

(1)被災企業における地震対応の変化

ここでは、まず、選定した企業29社の中から、10年前の「平成28年熊本地震」時にも被災した企業のうち、当時の報道内容が多い8社を選定し、当該企業が実施した地震対応の特徴を、今回の地震と10年前の地震とで比較分析した結果を紹介する。分析結果は図表3のとおりである。

図表3:主な企業における今回の地震と10年前地震との地震対応比較

出典:気象庁、マスコミ報道、選定企業のホームページからの情報をもとにインターリスク総研にて作成

この結果から、まず、いずれの企業においても、2016年と比べて復旧期間が短くなっていることが読み取れる。もちろん、個別企業ごとに被災の程度や事業環境は異なるため単純比較はできないものの、少なくとも今回確認できた事例においては、10年前の経験を踏まえた備えが、復旧の迅速化に一定程度寄与している様子がうかがえる。

また、いずれの企業も、10年前の経験を踏まえて耐震対策や設備対策を進め、発生被害を軽減させていることが確認できた。例えば、設備や配管の固定方法の見直し、耐震補強、免震化、在庫の積み増しなど、2016年の被災経験を契機として講じられた対策が、2026年の被害軽減につながったとみられる事例が複数見られた。

さらに、代替生産戦略が全体として洗練されていることも重要な変化である。食品関連では、2016年時点でも代替生産に関する報道が多く見られたが、今回も生産停止が発生後、早い段階で他事業場での代替生産に移行している様子が確認できた。加えて、商品名の統一、商品コードの一本化など、代替生産を実施する前提で、取引先や小売現場の負担を減らす工夫も進んでいる。一方、その他の業界でも、代替生産の発動条件を整理したり、代替先となる工場や委託先の選択肢を増やしたりするなど、戦略そのものの実効性を高める動きが見られた。今回は復旧が比較的早かったため戦略発動に至っていない事例がほとんであるが、戦略を「使わなかった」ことと「準備していなかった」ことは異なる点に留意すべきである。

あわせて、在庫活用戦略についても、10年前より洗練が進んでいることが確認できた。食品関連では、2016年同様、今回も早い段階で在庫が活用されているほか、その他業界でも、2016年の経験を踏まえ在庫の積み増しを進めてきた企業が見られた。効率性の観点から在庫保有には制約もあるが、供給継続の観点では依然として有効な戦略であることが改めて示されたといえる。

以上を踏まえると、10年前に被災した企業では、着実にBCM整備が進み、事業継続対応の強靱化が図られていると評価できる。もっとも、これも報道などから把握可能な一部企業の比較結果に基づくものであり、この結果のみをもって、企業一般においてBCMが十分に進展していると結論づけることはできない点には留意が必要である。

(2)部品などの調達不全の影響を受けた非被災地企業における地震対応の変化

次に、部品などを十分に調達できずに生産停止に追い込まれた自動車関連企業5社の地震対応について、今回の地震と10年前の地震とを比較分析した結果を紹介する。分析結果は図表4のとおり。

図表4:調達不全の影響を受けた主な企業における今回の地震と10年前地震との地震対応比較

出典:気象庁、マスコミ報道、選定企業のホームページからの情報をもとにインターリスク総研にて作成

この結果から、まず、サプライヤー被災の影響に関する報道がある企業数が拡大していることが読み取れる。これは、実際にサプライチェーン影響が広がった可能性もあるが、それに加え、企業側が従来以上にサプライヤーの被災状況や供給影響を重視し、早い段階から把握・公表するようになったことも一因と考えられる。

特に注目されるのは、サプライヤーの現状把握の重要性が、企業の間でより強く認識されている点である。実際、2016 年の経験を踏まえ、取引先情報の見える化や、災害時に被害状況・復旧支援要否を確認できる体制を整備してきた企業では、影響範囲の把握や正常化の迅速化につながっている様子が確認できた。一方で、今回初めて影響が報道された企業もあり、サプライチェーンの把握状況の差が、影響認識や対応速度の差として表れている可能性もある。

この点、現状把握の有効なツールとして、サプライチェーンの見える化(データベース化)は引き続き重要である。とりわけ、2次・3次サプライヤーを含めた把握ができている企業では、有事の際の影響特定や代替手配の検討がよりスムーズに行えると考えられる。今回の地震は、この見える化対応の有効性を改めて示したものといえる。

3.今後のBCM整備におけるポイント

最後に、ここまで見てきた「熊本地震が企業に与えた影響」と「企業の地震対応の変化」の分析結果を踏まえ、今後のBCM整備におけるポイントを、(1)初動対応(人命安全確保)、(2)現状把握、(3)復旧対応(被災事業所の復旧・代替生産など)の3つのフェーズに分けて整理する。

(1)初動対応フェーズにおけるポイント

地震発生後の早い段階で実施する、いわゆる「初動対応」においては、従業員や来客者などの生命・身体の安全を守る「安全配慮義務対応」が、法的責任であるとともに、社会的信用を維持するうえでも必要不可欠である。

この点、ほとんどの企業が、10年前同様、二次災害防止の観点から「建物の立ち入り制限」を徹底していることが確認できた。「建物の立ち入り制限」を実施すると、その間は建物内の設備稼働確認などができず、復旧の前提となる現状把握に時間がかかることになるが、それでもこれを徹底する各企業の対応からは、人命安全最優先の考え方が十分に浸透している様子がうかがえた。

また、この「安全配慮義務対応」には、立入禁止建物への突入判断や、従業員の帰宅判断など、正解のない臨機応変な判断を求められる局面が含まれることが特徴である。今回の地震では、製造業以外の事例ではあるが、立入禁止建物への突入判断が問題となったケースも発生しており、臨機応変な判断の難しさを改めて示している。

したがって、この機会に、こうした臨機応変な判断が求められる局面をあらかじめ抽出し、その判断プロセスや対応方針などを整理・検討しておくことを推奨したい。初動対応は、単に避難を完了すれば終わりではなく、その後の立入管理や安全確認まで含めて設計する必要がある。

(2)現状把握フェーズにおけるポイント

地震発生時には、平常時とは異なる各種判断を臨機応変に実施していくことが必要となる。こうした各種判断を的確に実施するためには、被害状況、復旧見込み、供給責任への影響などに関する「現状把握」を、すばやく、かつ的確に実施できることが必要不可欠である。

この点、今回確認できた多くの企業は、復旧対応に入る前に一定の時間をかけて、しっかりと「現状把握」を実施しており、その重要性が十分浸透している様子がうかがえた。特に、設備確認に慎重を要する半導体関連企業では、大きな損傷がなくても再稼働判断までに時間を要しており、高度な現状把握そのものが復旧プロセスの中核となっていることが確認できた。

また、サプライチェーンの現状把握の重要性は、10年前にも増して高まっている。2011年の東日本大震災後に構築した、2次・3次メーカーを含む部品仕入先情報の「見える化」データベースが、今回の地震においても有効に機能したとみられる事例が確認できた。サプライヤーの被災状況や供給停止リスクを早期に把握できるか否かが、自社の生産停止判断や代替対応のスピードを左右することは明らかである。

一方で、この「見える化」対応を実際に十分なレベルで実行できている企業は、依然として限られている。また、いったん見える化をしても、品目の追加・廃止、部品構成の変更、仕入先の変更などが日々発生するなかで、維持・更新に大きな手間がかかるという課題もある。

そのため、すべてのサプライチェーンを一律に対象とするのではなく、重要品目に絞り込むことや、システム導入によって維持管理を省力化することとセットで、見える化対応を進めることを推奨したい。現状把握は、有事対応の精度を左右する基盤であり、平時からの準備の巧拙が最も表れやすい領域のひとつである。

(3)復旧対応(被災事業所の復旧・代替生産など)フェーズのポイント

事業所の生産停止が長期にわたる場合、当該事業所の復旧を待つだけではなく、製品の供給を継続するために、「現地復旧対応戦略」以外の復旧戦略を展開することが必要となる。具体的には、国内外の自社他工場や生産委託先などの他社工場における「代替生産」の実施や、国内外の「在庫」の活用などが代表例である。これらは、特定の災害類型に限らず、さまざまな事象を想定するオールハザード型のBCMを推進するにあたっても重要な戦略である。

この点、今回は生産停止期間が比較的短かった事情もあり、これら「現地復旧対応戦略以外の戦略」が実際に大規模に展開された事例は一部にとどまった。他方で、前記のとおり、代替生産の発動条件の整理、代替先の複線化、在庫積み増しなど、供給継続を意識した戦略が着実に洗練されている様子が確認できた。すなわち、今回は「現地復旧」が比較的早く進んだため表面化しなかっただけで、各社は10年前よりも明らかに供給継続を意識した備えを進めているといえる。

もっとも、これらの戦略は時間もコストもかかるため、すべての事業・製品を対象に一律に実装することは現実的ではない。したがって、全体最適の観点から、戦略対象となる事業や製品を絞り込み、優先順位を明確にしたうえで、着実に実装を進めることを推奨したい。とりわけ、代替生産が難しい製品については、在庫、設備耐震化、供給先調整などを含めた別の手当てを組み合わせて検討することが必要である。

4.熊本地震によって得られた「教訓」の活用に向けて

本稿では、当社が実施した「熊本地震が企業に与えた影響」と「企業の地震対応の変化」に関する分析結果を紹介したうえで、「今後のBCM整備におけるポイント」を整理してきた。これらは、今回の熊本地震によって得られた「教訓」だと言い換えることができる。

本稿の中でも、10年前の地震の「教訓」をもとに自社のBCMを着実に進化させている事例を紹介したが、この機会に、今回の「教訓」をもとに、BCMをブラッシュアップいただくことを強く推奨したい。

ここで紹介した「教訓」は、分析のもととなったデータが報道や公表情報に限られていること、また、インタビューなどによる詳細な調査を実施していないことなどから、全体のほんの一部に過ぎないが、今後のBCMブラッシュアップの参考としていただければありがたい。

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