災害時の自動車避難に関する意識調査 ~車で避難したい意識と、その背景にある認識【リサーチレター(2026年8月)】
[このレポートを書いた専門家]

- 会社名
- MS&ADインターリスク総研株式会社
- 部署名
- 基礎研究部
- 執筆者名
- 主席研究員 新納 康介 Kousuke Niiro
2026.8.24
【要旨】
- 本調査では、自家用車を保有し日常的に運転する1,000人を対象に、災害時に自動車で避難したいかどうか、そのメリットやリスクの認識などについて聞いた。調査結果からは災害時の自動車による避難が「リスクを認識しつつも、なお選択されやすい行動」になっていることが浮き彫りになった。
- 調査対象の災害は、大規模な火災、高潮、土砂災害、洪水、津波、地震の6種類であり、6種類すべての災害で自動車による避難をしたいと答えた回答者は全体の約4割に達しており、自動車による避難への強い意向を持つ層が一定数存在している。
- 自動車による避難の意向は、「自家用車がなくても支障がない地域」よりも、「自動車が必要な地域」の回答者の方が強い傾向がうかがえる。しかし、自家用車がなくても支障がない地域の回答者の3割超が自動車による避難について強い意向を持っている。
- 自動車による避難における、移動のメリットとしては、徒歩よりも早く遠くへ移動できることや、必要物資を運べることが挙げられた。車中泊のメリットとしては、周囲に気を遣わずプライバシーを確保できることや、エアコン・充電環境を得られることが評価された。
- 6種類すべての災害で自動車による避難をしたいとする回答者の半数近くは、避難先として「避難所」を想定している。これは想定する避難所が車両の受け入れに対応していない場合、混乱の発生が懸念される。また、2割超が、避難先を「なにも想定していない」としている。
- 自動車による避難には、道路の混乱や冠水などで避難が困難になるリスク、車中泊による健康被害、緊急車両の通行を妨げるおそれがあることも多くの回答者に認識されていた。しかし、回答者のおおむね半数超は、しかし、回答者のおおむね半数超は、自動車による避難のメリットがこうしたリスクを上回る価値があると考えている。
- 自治体が指定する避難場所・避難所およびそれらのところへ行くために奨励されている方法について、「確認したことがない」と「今後も確認しないと思う」の回答の合計は48.6%であった。また、自治体が自動車による避難に対してどのような方針で、どういう措置をとっているかどうかについて「わからない」の回答が57.3%であった。
- 自動車による避難は、災害種別、地域特性、道路条件、高齢者対応などを踏まえて自治体が整理することが期待される。そのうえで、明確な自動車による避難の抑制が必要な場合には、その方針を曖昧にせず、住民に分かりやすく示すことが重要である。
目次
1.調査の目的・背景
2.調査の概要
- 調査実施期間
- 対象者条件
- 回答者数
- 回答者属性
3.調査結果
- 自動車による避難の意向
- 自動車による避難のメリット
- 自動車による避難の意向がある回答者が想定する避難先
- 自動車による避難にともなうリスクの認識
- 自動車による避難にともなうリスクとメリットの関係
- 自治体の発信する災害時の避難に関する情報の認知・確認状況
4.考察
- 自動車による避難の判断材料としての徒歩原則
- 自動車による避難の避難先に関する認識不足
- 自動車による避難の意向と近年の動向
5.まとめ
1.調査の目的・背景
避難とは、危険のある場所からより安全な場所へ退避すること、あるいは安全な場所にとどまることを指す。内閣府が作成した「避難情報に関するガイドライン」には、「自然災害に対して行政に依存し過ぎることなく、『自らの命は自らが守る』という意識を持ち、自らの判断で主体的な避難行動をとることが必要である」と記載されている。
主体的な避難行動が必要である一方、我が国では避難行動における自動車利用の是非がたびたび議論されてきた。たとえば、東日本大震災の津波の際には、多くの生存者が自動車で避難していた一方で、自動車内で発見された犠牲者も報告されている。
自動車による避難は必ずしも安全とはいえない。内閣府も前述のガイドラインにおいて、「自動車による避難は、移動中に洪水等に見舞われることや渋滞を発生させるおそれがあることに留意すべきである」としている。
近年、防災における自助の重要性が強く呼びかけられるなかで、自家用車を保有する住民は自動車による避難についてどのように考えているだろうか。MS&ADインターリスク総研は、2026年7月に、自動車の保有者1,000人を対象にアンケート調査を実施した。本稿では、本調査の結果および分析結果を紹介する。
2.調査の概要
(1)調査実施期間
2026年7月2日~6日の間にインターネットによる調査を行った。
(2)対象者条件
① 「自家用車を保有していて、よく自分も運転する」1,000人のうち、
② 居住地が「公共交通が不便で、自家用車がないと日常生活(買い物・通院)が困難な」地域(自家用車が必要)の500人および、
③ 居住地が「鉄道やバスなど交通環境が充実しており、自家用車がなくても日常生活に支障がない」地域(自家用車がなくても支障がない)の500人
(3)回答者数
1,000人(男性751人、女性249人)
(4)回答者属性
① 職業
| 職業 | 人数 |
|---|---|
| 会社員 | 442 |
| 会社経営・役員 | 30 |
| 公務員 | 40 |
| 自営業・自由業 | 107 |
| 団体職員・各種法人 | 14 |
| 派遣社員 | 17 |
| パート・アルバイト | 111 |
| 学生 | 3 |
| 専業主婦・主夫 | 63 |
| 無職(定年退職者を含む) | 166 |
| その他 | 7 |
| 合計 | 1,000 |
②居住地域
| 居住地域 | 人数 |
|---|---|
| 北海道・東北 | 126 |
| 関東 | 373 |
| 中部 | 187 |
| 関西 | 163 |
| 中国・四国 | 80 |
| 九州・沖縄 | 71 |
| 合計 | 1,000 |
3.調査結果
(1)自動車による避難の意向
① 主要災害6種類における自動車による避難の意向
本調査では、避難が必要になる可能性の高い主な災害6種類(大規模な火災、高潮、土砂災害、洪水、津波、地震)それぞれのケースで、回答者に自宅から避難をする際に自動車を使いたいかどうかを聞いた。自動車による避難の意向が最も高かったのは、「大規模な火災」のケースで、「そう思う」と「ややそう思う」の合計が62.4%となった(図表1)。この設問で言うところの「自動車で避難する」とは自動車で安全な場所へ退避する(移動)および、安全な場所にとどまる(車中泊)ことである。
【図表1】あなたが自宅にいるときに災害の情報が伝わり、自宅の外に避難することになったとします。その時に自動車で避難(移動・車中泊)をしたいと思いますか


② 自動車による避難をしたいと思う災害の数
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図表2では、回答者の自動車による避難の意向の強さを把握するため、図表1の回答データを、自動車による避難をしたいと思う(「そう思う」あるいは「ややそう思う」)と回答した災害の種類数(最大6)をもとに集計した。
その結果、0種類(自動車避難をしたいと思わない)の回答者は28.5%、1~5種類の災害で自動車による避難をしたいと思う回答者は32.8%であった。6種類全ての災害で自動車による避難をしたいと思う回答者は38.7%(387人)で、自動車による避難の意向の最も強い回答者群といえる。なお、いずれかの災害で自動車による避難をしたいと考えている回答者は71.5%に上る。
【図表2】自動車で避難(移動・車中泊)をしたいと思いますか(全体)


また、ここでは、自家用車が必要な地域の回答者500人と、自家用車がなくても支障がない地域の回答者500人でそれぞれ同様の集計を行った。その結果、すべての災害で自動車による避難をしたいと思う回答者は、自家用車が必要な地域で46.6%、自家用車がなくても支障がない地域で30.8%と差異が見られた(図表3)。
自動車による避難の意向は、自家用車がなくても支障がない地域よりも、自家用車が必要な地域の回答者の方が強い傾向がうかがえる。しかし、自家用車がなくても支障がない地域の回答者の3割超が自動車による避難について強い意向を持っていることには留意が必要である。地域の交通事情は自動車による避難意向に一定の影響を及ぼす可能性があるが、それだけでは十分に説明できず、他の要因の影響も示唆される。
【図表3】自動車で避難(移動・車中泊)をしたいと思いますか(居住地域の交通事情別)


(2)自動車による避難のメリット
① 移動のメリット
本調査では、回答者に自動車による避難のメリットについて徒歩との比較で聞いた。自動車による移動に関するメリットでは、「早く遠くに移動ができる」(68.7%)が最も回答が多く、「必要物資を運ぶことができる」(61.5%)がそれに続いた(図表4)。なお、「安全に移動ができる」は22.5%と比較的評価が低かった。
【図表4】徒歩と比べて、自動車による避難(移動)のメリットはどんなことだと思いますか。(いくつでも)


② 車中泊のメリット
避難所との比較での車中泊による避難のメリットに関しては、「周囲に気を遣わずにプライバシーを確保できる」が69.8%と最も多かった。「エアコンや充電環境を得られる」(35.1%)がそれに続く。「特にない」が9.5%であった。(図表5)。
【図表5】避難所と比べて、車中泊による避難のメリットはどんなことだと思いますか。(いくつでも)


(3)自動車による避難の意向がある回答者が想定する避難先
本調査では自動車による避難をしたいとした回答者に、想定される避難先を聞いている。図表6は、図表2で示した自動車による避難の意向の最も強い回答者群(6種類全ての災害で自動車による避難をしたいと思う回答者)387人の想定する避難先を集計したものである。
最も多かった回答は「避難所」の48.6%で、「屋外駐車場」の43.4%がそれに続く。「なにも想定していない」が20.7%となっている。
【図表6】自動車で避難をする場合の避難先はどのようなところを想定していますか(n=387、いくつでも)


(4)自動車による避難にともなうリスクの認識
本調査では、回答者に自動車による避難のメリットについて聞いているが、自動車による避難はメリットだけではなく、それにともなうリスクが指摘されている。本調査では、自動車による避難における主なリスク3つについて、回答者がどの程度認識をしているかを探った。
① 避難が困難になるリスク
災害時の道路は平時と同様に通行ができるとは限らず、かえって避難が困難になり、逃げ遅れる可能性があることが指摘されている。その点について回答者に聞いた結果、「詳しく知っている」と「知っている」の合計は65.5%であった(図表7)。
【図表7】自動車による避難は、冠水、障害物、視界不良、信号機の故障等、交通状況の混乱により、かえって避難が困難になる可能性があると言われています。あなたは、このことをご存じでしたか


② 車中泊の健康リスク
車中泊は、車内で過ごすことでエコノミークラス症候群、熱中症、一酸化炭素中毒に罹るリスクが指摘されている。その点について回答者に聞いた結果、「詳しく知っている」と「知っている」の合計は79.0%と、多くの回答者がそのリスクを認識していた(図表8)。
【図表8】車中泊による避難は、車内で過ごすことにより、エコノミークラス症候群、熱中症、一酸化炭素中毒等の被害を発症する可能性があると言われています。あなたは、このことをご存じでしたか


③ 緊急車両の通行の妨げになる可能性
災害時にたくさんの人が自動車で避難を試みることで渋滞が発生し、優先されるべき緊急車両の通行が困難になることが指摘されている。その点について回答者に聞いた結果、「詳しく知っている」と「知っている」の合計は74.5%と、多くの回答者がその問題を認識していた(図表9)。
【図表9】災害時に自動車で避難することで、渋滞が起こり、救急車などの緊急車両の通行を止めてしまう可能性があると言われています。あなたは、このことをご存じでしたか


(5)自動車による避難にともなうリスクとメリットの関係
前項では、回答者の自動車による避難に伴う各種リスクの認識を確認した。これに対し本項では、回答者がそれらのリスクを認識したうえでなお、自動車による避難の意向があるかどうかを探った。本調査では前項で挙げた3つのリスクとメリットの関係を聞いている。
その結果、リスクは広く認識されていた一方で、メリットがそれを上回る価値があるとする回答が過半数を占めた。これらから、自動車による避難を肯定的に捉える意識が一定程度存在することがうかがえる。
① 避難が困難になるリスク
自動車による避難のメリットが、避難が困難になるリスクを上回る価値があるかという設問について、「そう思う」と「ややそう思う」の回答の合計は60.4%であった(図表10)。
【図表10】自動車での避難のメリットは、避難が困難になるリスクを上回る価値があると思いますか


② 車中泊の健康リスク
車中泊による避難のメリットが、健康リスクを上回る価値があるかという設問について、「そう思う」と「ややそう思う」の回答の合計は53.9%であった(図表11)。
【図表11】車中泊による避難のメリットは、健康リスクを上回る価値があると思いますか


③ 緊急車両の通行の妨げになる可能性
自動車による避難のメリットが、緊急車両の通行を止めてしまう可能性を上回る価値があるかという設問について、「そう思う」と「ややそう思う」の回答の合計は50.4%であった(図表12)。
【図表12】自動車での避難のメリットは、救急車などの緊急車両の通行を止めてしまう可能性を上回る価値があると思いますか


(6)自治体の発信する災害時の避難に関する情報の認知・確認状況
「いつ、どこへ、どう避難するか」を適切に判断するためには、自治体の発信する、その地域の状況に最も即した避難に関する情報を確認しておくことが重要である。本調査では、回答者が住む自治体の発信する災害時の避難に関する情報をどの程度認知しているかについて探った。
① 徒歩による避難の原則の認知
一般的に、多くの自治体では災害時には原則として徒歩による避難を呼びかけており、やむを得ない事情がある場合に自動車による避難を容認しているケースが多い。特に震災・津波のケースでは徒歩による避難が原則とされている。この点について回答者に聞いた結果、「あまり知らない」と「全く知らない」の回答の合計は50.0%であった(図表13)。
【図表13】多くの自治体で、災害時(地震・津波・災害全般)の避難は原則として「徒歩」を呼びかけていることを知っていますか


② 避難場所および避難方法の確認
前述の通り、「いつ、どこへ、どう避難するか」を適切に判断するためには、自治体が指定する避難場所・避難所およびそこへ行くために奨励されている方法を確認しておくことが必要である。この点について回答者に聞いた結果、「確認したことがない」と「今後も確認しないと思う」の回答の合計は48.6%であった(図表14)。
【図表14】あなたの住むご自宅の市区町村または地区の避難場所・避難所および奨励されている避難方法について、確認していますか


③ 自治体の自動車による避難に対する施策
自動車による避難を行う場合には、その自治体が自動車による避難に対してどのような方針で、どういう措置をとっているかを把握することが重要である。例えば自治体が保有する施設の駐車場を開放するケースもあるため、それをあらかじめ把握しておけば避難先の選定に困ることは少なくなる。この点について回答者に聞いた結果、自治体の措置については「わからない」の回答が57.3%であった(図表15)。
【図表15】あなたの住む自治体(市区町村)は、事情に応じて災害時の自動車による避難(移動や車中泊)ができるような措置を取っていますか


4.考察
本調査の発見は、災害時の自動車による避難が「リスクを認識しつつも、なお選択されやすい行動」になっていることである。これまで述べた本調査の結果からは、大規模な火災、高潮、土砂災害、洪水、津波、地震の6種類いずれかの災害で自動車による避難をしたいと考えている回答者は7割を超える。そして自動車による避難にともなう道路混雑や健康被害などのリスクは広く認識されているが、自動車による避難がそれらのリスクを上回る価値があると考える回答者は半数を超えている。
ただし、本調査の結果からは徒歩による避難の原則や、自治体の自動車による避難に対する施策に関する回答者の認知は十分とはいえないことも分かっている。つまり、現状では回答者が自動車による避難について適切に判断するための材料が十分ではないまま自動車による避難の意向を示している可能性がある。本章では、それらの点について述べる。
(1)自動車による避難の判断材料としての徒歩原則
自動車による避難を考えるうえでは、国や自治体が示す徒歩避難の原則と背景を知っておくことは重要である。災害発生時に、交通渋滞による逃げ遅れ、緊急車両の遅れ、交通事故などの二次災害を防ぐためには、要配慮者の避難などやむを得ない場合を除き、住民の自動車による避難を抑制する必要が生まれる※1。上記のような課題を考慮し、我が国の防災基本計画には、「地震・津波発生時には、家屋の倒壊、落下物、道路の損傷、渋滞・交通事故等が発生するおそれがあることから、津波発生時の避難については、徒歩によることを原則とする」と記載されている。
自治体では上記の徒歩避難の原則の対象を災害全般に拡大して、住民に徒歩での避難を呼びかけているケースも多い。例えば、神奈川県平塚市は、「自動車を使用した避難は、車での移動中に洪水や土砂災害などに巻き込まれたり、車内で長期間過ごすことで健康被害に遭ったり、様々なリスクを伴います。高齢者や障がい者などの要配慮者の方と同行避難する場合等、やむを得ず自動車で避難する場合を除いて、災害時は徒歩で避難を行いましょう」と広報している※2。
徒歩避難の原則は、上記のように自動車による避難のリスクとセットで周知されていることが多い。しかし、本調査の結果では、図表7、8、9で示したように回答者の自動車による避難にともなうリスク認識は6割半ば~8割弱であったのに比べて、徒歩避難の原則の認知は半数にとどまる※3(図表13)。
※1)徒歩が80%、自動車が20%の状態から、自動車避難の割合が増加すると渋滞等の影響により避難完了率が低下するシミュレーションもある。宮城県 仙台市危機管理局防災・減災部防災計画課(2013)『津波避難施設の整備に関する基本的考え方』
※2)やむを得ず自動車で避難する場合には、自宅が被災した、ライフラインが停止した、避難所が開設されない、という事態で車中泊を余儀なくされるケースも考えられる。
※3)ただし、徒歩避難の原則の認知が必ずしも自動車による避難を抑制するとも限らない。2025年12月の青森県東方沖を震源とする地震の際、青森県八戸市では、徒歩避難の原則が市民の約8割に浸透していたが、避難者の約8割が自家用車を使ったことがアンケート調査でわかっている。読売新聞オンライン「津波避難は徒歩」8割は知っていたが…8割が車で避難の実態判明…市長「抑制の検討進めたい」2026/06/17
(2)自動車による避難の避難先に関する認識不足
本調査の結果では、自動車による避難の意向の最も強い回答者群(6種類の全ての災害で自動車による避難をしたい回答者)387人の約半数が避難先として「避難所」を想定していた(図表6)。自動車で避難所へ行く場合は、避難所の車両受け入れ方針との整合に留意が必要である。
例えば、神奈川県平塚市は、「指定している学校等の避難場所(避難所)は、原則として避難者用の駐車場がありません」と広報している。車両の受け入れをしない避難所に多くが車で乗り付けた場合、訪れる車両と引き返す車両で避難所周辺が混雑するという問題につながる可能性がある。
加えて、図表6で示した調査結果のうち、避難先を「なにも想定していない」回答者が2割超であったことにも注意したい。人々が避難先を想定しないまま自動車による避難を行うことは、行先の定まらない自動車が主要道路や駐車スペース付近で混乱を起こすおそれがある。本調査の結果からは、回答者の半数近くが自治体が定める避難場所・避難所および奨励されている避難方法について、確認をしていないことがわかっている(図表14)。
(3)自動車による避難の意向と近年の動向
本調査では、図表10、11、12で示した通り、回答者の過半数が、自動車による避難が道路混雑や健康被害などのリスクを上回る価値があると考えていることが確認された。こうした状況を踏まえると、一部の自治体で見られるような、車中泊避難の際の注意事項の広報、災害発生時の車両避難場所(自治体の保有する施設、民間施設)の確保や、自動車による避難ガイドラインの策定、自動車による避難をシナリオに含んだ避難訓練の実施には意義がある※4。
例えば、神奈川県藤沢市は2025年に車両による避難先として車両約500台を収容する体育館を指定緊急避難場所に指定している。また、宮城県亘理町の津波避難計画は、避難は原則として徒歩を謳いつつ、「周辺には高い場所がないこと、徒歩での避難が困難な地域もあること、自動車を主な移動手段としている人が多い」ことを考慮し、自動車での避難を組み込んだもの※5となっている。
しかし、本調査では、回答者の6割近くが、自治体が災害時の自動車による避難(移動や車中泊)ができるような措置を取っているのかどうか「わからない」としている(図表15)。自動車による避難は、災害種別、地域特性、道路条件、高齢者対応などを踏まえて自治体が整理することが期待される。そのうえで、自動車による避難に対する方針を曖昧にせず、住民に分かりやすく示すことが重要である。
※4)2026年1月に内閣府は自治体向けの「指定緊急避難場所の指定に関する手引き」を改定した。「徒歩避難が原則であるが、やむを得ず自動車により避難せざるを得ない場合には、交通渋滞等による逃げ遅れが生じないよう、地域による自動車利用の選定や避難経路の確保、駐車スペースの拡充など、あらかじめ安全に避難できる方策を検討し、平時から避難訓練を行うなど住民等の円滑な避難の確保に努めるものとする」としている。
※5)自動車による避難を基本とする地域を定め、その避難先(避難所)を明確に指定している。
5.まとめ
自動車を保有し、日常的に運転する住民を対象とした本調査では、災害時の自動車による避難について、一定のニーズが確認された。自家用車が必要な地域ではその意向が強い傾向がみられたが、自家用車がなくても支障がない地域でも自動車による避難を望む人は少なくない。また、自動車による避難にともなうリスクは広く認識されているが、それでもなお、半数を超える回答者はメリットがリスクを上回ると考えており、自動車による避難を現実的な選択肢として捉える意識が確認された。
2025年7月のカムチャツカ半島沖地震で津波警報が出た北海道と宮城、神奈川、静岡の4道県の住民アンケート調査では、自動車による避難者は避難者全体の5割超を占め、自動車による避難をした住民の3割強が渋滞に巻き込まれていたことがわかっている。本調査の結果からも、こうした現象が起こることは不自然ではない。
自動車による避難は、個々の住民にとっては現実的な避難手段として捉えられている一方、地域全体にとっては、道路混雑や避難所運営への影響など調整すべき課題がともなう。自治体には、災害種別や地域の交通条件に応じて自動車による避難をどのような場合に想定するのかを整理するとともに、住民が平時から地域の避難方針や避難先を確認し、災害時に迷わず行動できるよう、情報提供と周知を充実させることが期待される。
【参考文献】
- 伊勢田ほか(2026)『防災の倫理』ナカニシヤ出版
- 片田敏孝(2020)『人に寄り添う防災』集英社
- 高橋和雄・高橋裕(1987)『クルマ社会と水害』九州大学出版会
- 中村功(2021)『災害情報と避難 その理論と実際』晃洋書房
- 亘理町(2023)『津波避難計画令和5年4月』
- 中央防災会議(2025)『防災基本計画』
- 内閣府(防災担当)(2026)『避難情報に関するガイドライン』
- 内閣府(防災担当)(2026)『指定緊急避難場所の指定に関する手引き』
- 内閣府(防災担当)(2025)『カムチャツカ半島東方沖を震源とする地震に伴う津波における避難手段・緊急避難場所の課題に対する対策』
- 新潟県防災局防災企画課『やむをえずクルマで避難生活をするときのリスクとソナエ』
- 志木市ホームページ「災害時における車での避難」
https://www.city.shiki.lg.jp/soshiki/11/17816.html - 平塚市ホームページ「災害時の車中避難の注意点」
https://www.city.hiratsuka.kanagawa.jp/bosai/page05_00100.html - 藤沢市ホームページ「ペット同伴避難や車両による避難先について(秋葉台文化体育館)」
https://www.city.fujisawa.kanagawa.jp/kikikanri/bosai/akibadai.html - 日本経済新聞電子版「津波避難は徒歩か車か、地域のルール作り急ぐ 渋滞なら被害拡大」(2026/3/9)
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