コラム/トピックス

環境省「ネイチャーファイナンス実践ガイドライン(案)」を公表 投資家・金融機関向けに実践の視点を提供

2026.8.31

環境省は2026年7月21日、「ネイチャーファイナンス実践ガイドライン(案)」(以下、本ガイドライン案)を公表した。市場の資金の流れをネイチャーポジティブ※1(以下、NP)に移行するためには、投資家・金融機関が投融資対象企業の自然関連財務情報開示やNP経営に向けた対応を適切に読み解く必要がある。本ガイドライン案は、投資家・金融機関に対して自然資本特有の分析・評価項目を提示することでネイチャーファイナンス実践のための視点を提供するものである。これにより、投資家・金融機関等が企業の自然に関する依存・インパクト、リスク・機会を適切に捉え、自然資本の保全・回復・持続可能な利用に資する資金の流れを広げることを目的としている。

本ガイドライン案では、前半でネイチャーファイナンスの必要性や概要を説明し、後半で実践のための分析・評価項目や、取り組むべき事項を記載している。「ネイチャーファイナンス」は、世界銀行により「NP目標に貢献し、昆明・モントリオール生物多様性枠組の実施を支援するファイナンス」と定義されており、自然資本に対して測定可能なポジティブな成果を企図する「NPファイナンス」と、より広範な「ネイチャー主流化ファイナンス」の2つに分類されている。ネイチャー主流化ファイナンスには、例えば融資に際した事業性評価や投資判断に自然資本の観点を統合し、NP目標に貢献する活動を金融面で支援することが含まれる。気候変動のテーマは既に投融資の観点に取り入れている組織が多いが、自然資本についても通常の投融資プロセスに加えることで、リスク管理や新たな投融資機会の発掘、ステークホルダーとの関係強化に繋がっていくことが示唆されている。

ネイチャーポジティブ経済研究会(第7回)本研究会討議資料

出典:環境省 「ネイチャーポジティブ経済研究会(第7回)本研究会討議資料」

後半の実践のための分析・評価項目においては、例えば「依存とインパクト」、「地域性」、「バリューチェーン」、「ミティゲーション・ヒエラルキー※2」、「ステークホルダーとの合意形成」といった企業の自然関連課題を理解する上で重要な視点が整理されており、自然関連情報を適切に評価するために把握すべき事項が確認できる。

また、自然資本を気候変動、循環経済(サーキュラー・エコノミー)などと切り離さず、ネクサス※3として捉えることの重要性も指摘している。脱炭素施策が自然に悪影響を及ぼす場合もあれば、森林・湿地の保全が気候変動の緩和・適応の双方に資する場合もある。そのため、個別の環境テーマごとに縦割りで対応するのではなく、シナジー(相乗効果)とトレードオフを見極めながら統合的に意思決定することも重要となる。

具体的に取り組むべき事項として、ガイドライン案では、以下の3点が示されている。

  1. 投資家・金融機関等自らが自身の自然資本に関するリスクと機会を分析し、適切な行動をとっていくためのガバナンスの構築・組み込み
  2. 自然資本を考慮した取り組みによる企業価値向上に向けたエンゲージメント等
  3. 自然資本への負の影響を下げ、正の影響の拡大につながる企業の事業活動を支える投融資の実行

投資家・金融機関等においては、まず既存ポートフォリオにおける自然関連のリスクを可視化し、リスク管理や事業性評価に織り込むこと、また高リスクセクターや優先地域を特定し、投融資の条件、対話、モニタリングに反映することが求められる。加えて、自然関連のKPIを活用したファイナンス、自然を活用した解決策(NbS)やネイチャーテックへの資金供給などは、リスク対応と機会獲得を両立させる領域として注目される。

本ガイドライン案では、エンゲージメントにおける自然関連の質問例も「ガバナンス」、「戦略」等のカテゴリーごとに整理されており、また正式なガイドライン策定時には国内外の先進事例が掲載される予定である。本ガイドラインは、今後取り組みを開始する組織にとっては自然資本への基礎的な理解醸成に役立つとともに、既に取り組んでいる組織にとっても有用な示唆を提供するものと考えられる。NP経済の実現に向けて、投資家・金融機関等は本ガイドラインを参照し、ネイチャーファイナンスの実践に取り組むことが推奨される。

※1) ネイチャーポジティブ
生物多様性の損失を止め、反転させ、自然を回復軌道に乗せること。

※2)ミティゲーション・ヒエラルキー
事業活動等による環境影響を管理するための国際的な原則であり、まず第一に環境への悪影響を回避し、回避しきれない影響をできる限り軽減し、損なわれた自然を回復・再生し、対策を尽くしても残る不可避な損失に対しては別の場所で保全・再生を実行するという対策の優先順位を示す。

※3) ネクサス(Nexus)
特に生物多様性、気候変動等環境課題の文脈において、個別課題を切り離して考えるのではなく、一体として解決しようとするアプローチを指す。

【参考情報】
2026年7月21日付 環境省HP
https://www.env.go.jp/press/press_05188.html

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