AI普及下におけるサステナビリティ実践への示唆~Trellis Impact 26での議論を踏まえて~【サステナブル経営レポート(2026年9月)】
[このレポートを書いたコンサルタント]
- 会社名
- MS&ADインターリスク総研株式会社
- 部署名
- リスクマネジメント第五部
サステナビリティ第一グループ - 執筆者名
- 主任コンサルタント 柏本 ゆかり
2026.9.1
【本号の概要】
- 2026年6月23日~25日の3日間、米国・サンフランシスコで開催されたサステナビリティ領域のテックイベント「Trellis Impact 26」に筆者が参加した。本イベントでは、気候変動対応、エネルギー、サーキュラーエコノミーなど、企業のサステナビリティ経営におけるテーマについて、課題解決に資するソリューションの情報共有や実装に向けた議論が行われた。
- 本イベント全体を通じて特に注目を集めていたのは、AIの社会実装拡大に伴う電力需要・水需要の増大と、それを支えるインフラ整備のあり方である。データセンターの急増は新たな成長機会である一方、地域の電力網、水資源、土地利用、地域コミュニティとの関係に新たな緊張をもたらしている。
- 資源循環の領域では、電子機器や繊維、プラスチック等を対象に、従来の「廃棄物管理」ではなく「回収可能な資源ストック」としてとらえ直す動きが見られた。AIやデータ基盤を活用して、使用済み資源の残存価値を可視化し、回収・再資源化を進める技術に関心が集まっていた。
- カーボンオフセットに関する議論としては、単発でのカーボンクレジットの調達ではない長期契約の重要性や、コベネフィットの評価、科学的なデータ蓄積といった品質に関する論点が重視されていた。
- 本イベントでは、国際的なルールメイキングを踏まえた各企業の具体的な取り組み状況や実務的な課題に触れる機会であった。日本企業においても、国際的なルールメイキングに整合した情報開示・目標設定にとどまらず、ステークホルダーとの信頼関係の構築や技術開発・革新への積極的な投資など、実直な取り組みの積み重ねと野心的な行動変容が今後一層、加速することが期待される。
1.はじめに
2026年6月、米国・サンフランシスコにおいて、サステナビリティ領域の国際イベント「Trellis Impact 26※1(以降、本イベント)」が開催された。本イベントは、企業のサステナビリティに関する情報メディアであるTrellis Group※2が主催しており、サステナブルなビジネスを実現するイノベーションを生むためのアイデアを共有する場として企画された。今年は「AI×Sustainability」「Close the Loop」「Draw Down Carbon」「Power the Future」をテーマとして掲げ、個社が実務レベルで資源循環、カーボンオフセット、省エネルギーに取り組むことに貢献できる技術・ツールやその実装事例が紹介され、実装の意義や課題感についての意見交換が行われた。
登壇者・参加者としては、Amazon、Google、Meta、Microsoftなど、米国企業の参加が中心であったが、欧州・豪州・日本からも参加者が集まっていた。参加者の業種としては、SaaSサービスを提供する企業、リサイクル技術を有する企業、研究者が多い印象を受けた。
特に印象的であったのは、サステナビリティ課題を個別に扱うのではなく、AI、エネルギー、水、資源、地域コミュニティ、自然資本といった論点を相互に関連する経営課題としてとらえる姿勢である。例えば、AIの普及は省力化・高度化といった便益をもたらす一方で、データセンターの電力需要や水使用量を押し上げる。資源循環の推進は、廃棄物削減に資する一方で、品質確保や回収インフラ、トレーサビリティの整備が不可欠となる。こうした「便益と負荷の両面」を踏まえた議論が多く見られた。
日本企業においても、気候変動、自然資本、資源循環に関する情報開示の要請は高まり続けている。しかし、開示対応が先行し、実際に自社の事業構造をどのように変えるか、どの技術をどのタイミングで取り込むかという検討は、必ずしも十分に進んでいないケースも見受けられる。
そこで本稿では、Trellis Impact 26で議論された内容を基に、特に日本企業のサステナビリティ担当者にとって示唆の大きい論点として、①データセンター建設・運用とサステナビリティ、②資源循環を加速する技術と実装に向けた課題、③二酸化炭素除去(CDR:Carbon Dioxide Removal)と自然関連ソリューション、④スタートアップと投資動向の点から整理する。
図1:会場の様子
EXPOの様子
基調講演の様子
セミナーの様子
※1)Trellis Impact 26 webページ https://trellis.net/events/trellis-impact/
※2)Trellis Group webページ https://trellis.net/
2.データセンター建設・運用とサステナビリティ
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本イベントで最も象徴的であった論点の一つが、AI普及を背景に増加しているデータセンターの建設・運用におけるサステナビリティ実現のあり方である。AIの利活用拡大は、業務効率化や新たなサービス創出の観点から強い期待を集めているが、その裏側では大量の演算処理を支えるデータセンターの使用電力量・水使用量・土地占有面積やそれらを通じた地域コミュニティとのあつれきが問題視されている。
本イベント1日目の基調講演では、「持続可能なデータセンターのあり方」としてデータセンター建設・運用により生じるサステナビリティ課題について、異なる立場の登壇者が順に登場し、①全体的な社会課題としての視点、②地域コミュニティの視点、③事業者の視点、④エネルギー供給者の視点、⑤投資家の視点、というそれぞれの視点で話題提供・議論が行われた。この基調講演では、いわゆる環境負荷として設備効率や省エネを語っているのではなく、社会的受容性を含む複合課題であることを強く意識するきっかけとなった。
まず、全体的な社会課題として指摘されていたのは、データセンターの運用が大量の電力と水を消費する点である。特に電力については、サーバーの稼働に加えて冷却のためにも大きなエネルギーが必要となる。AI利用の拡大により、この需要が一段と増すことが見込まれており、大規模なデータセンターでは、地域の電力インフラ容量を超過する恐れも指摘されていた。特に、再生可能エネルギーの導入が進んでいない地域では、AIの拡大が結果として化石燃料由来電力への依存を高める可能性もある。
次に、地域コミュニティの視点では、データセンター建設が地域に何をもたらすのかが問われていた。本イベントでは、米国内の広大な土地や農地がデータセンター用地に転換される事例が紹介され、地域の雇用や税収、インフラ整備といった便益がある一方で、水使用、景観変化、土地利用転換、既存産業との競合といった懸念も共有された。
データセンター事業者の視点からは、水循環への配慮やゼロカーボン電力の調達、建設時の低炭素資材活用などが紹介された。同社の取り組みからは、データセンター運用における環境負荷低減はもとより、建設段階も含めたライフサイクル全体で環境負荷を抑えることに視点が広がりつつあることを示している。特に、低炭素コンクリートやグリーンスチールといった建設資材への言及は、データセンター問題が建設・不動産・素材産業にも波及することを示唆している。
また、エネルギー供給側からは、地熱発電など新たな電源の可能性が紹介されていた。AIの拡大は、単に既存電源を取り合うのではなく、新たなクリーン電源投資を促す契機にもなりうる。ただし、その実現には長期契約や系統接続、地域合意形成など多くの条件整備が必要であると説明された。
さらに投資家の視点では、データセンター事業における水・エネルギー・地域コミュニティとの関係を、事業者と投資家の間での重要なエンゲージメントテーマとしてとらえていることが示された。今後は、AI関連企業やデータセンター事業者に対し、気候関連開示だけでなく、水使用や地域影響、移行計画の説明を求める動きが強まる可能性がある。
今後、AI活用はほぼすべての産業に広がると考えられる。その際に重要なのは、「AIを使うか否か」ではなく、「どのような条件で、どのようなインフラの上でAIを使うか」を経営上の論点としてとらえることである。
図2:AI普及とサステナビリティ課題の連関


Trellis Impact 26での基調講演の内容を基に、MS&ADインターリスク総研が作成
3.資源循環を加速する技術実装に向けた課題
資源循環に関する議論も、本イベントの大きな柱であった。特に電子機器、プラスチック、繊維をめぐっては、リサイクルや再利用を単独の施策としてとらえるのではなく、製品設計、回収、再資源化、再販市場形成まで含めた仕組み全体の再設計が必要であるという認識が共有されていた。
電子製品のリサイクルに関するセッションでは、第三者認証であるEPEAT※3や、Circular Electronics Partnership※4によるサーキュラー電子製品設計ガイドが紹介された。電子機器のリサイクル推進におけるポイントとして、製品の性能や安全性を損なわずに、解体しやすさ、部品交換のしやすさ、再生材利用の可能性などをあらかじめ設計段階から織り込む必要があるという点が協調されていた。
また、循環性向上の取り組みは、バリューチェーンのどの段階で何を行うかを分解して考える必要があるという指摘もあった。たとえば回収率向上は小売や回収拠点での周知やインセンティブ付与等の施策に関係し、廃棄物削減は製造工程や組立工程の改善に関係する。すなわち、「資源循環」は一つの部署だけで完結するテーマではなく、設計、調達、生産、物流、販売、回収の横断的な連携が前提となる。
繊維に関する議論においても、製品品質や耐久性と再生材活用の両立が課題の一つとして挙げられていた。加えて、中古繊維市場や回収インフラが未成熟であることが課題として挙げられていた。
プラスチック分野では、使用済みプラスチックを分解して生物が処理可能なレベルまで変換する技術も紹介された。こうした技術は有望である一方、導入コスト、処理能力、対象樹脂の範囲、副生成物管理など、実装上の検討事項も多い。したがって、技術の存在のみで判断するのではなく、自社の廃棄物の特性や回収可能性、既存設備との適合性を踏まえた評価が必要となる。
さらに印象的であったのは、廃棄物を「見えないもの」から「追跡可能な資源」へ変える発想である。2日目の基調講演では、使用済み資源の残存価値を分析し、廃棄前に回収・再利用を促す技術が紹介された。地政学リスクや資源価格変動が高まる中、二次資源の確保は調達安定化の観点でも重要性が増している。回収・再利用を行う素地が整っていない企業にとっては、まずは回収・再利用が廃棄よりも経済的にメリットがあるのかを可視化する取り組みから始めることは有用ではないだろうか。
資源循環は、目標設定だけでは進まない。実際に素材を回収し、品質を担保し、再投入する市場とオペレーションを作り込む必要がある。本イベントでの議論は、企業に対し「循環経済への移行は情報開示ではなく事業設計の問題である」と強く示していたといえる。
※3)EPEAT:Global Electronics Councilが運用するサステナブルな電子製品の認証制度 https://www.epeat.net/about-epeat
※4)パートナーとしてWBCSDやGECなどが参画しており、メンバーとしてはGoogle,Amazon,HP,Lenovoなどの企業が参画している国際的な団体
4.二酸化炭素除去(CDR)と自然関連ソリューションにみる実装フェーズの課題
脱炭素に関する議論の中では、排出削減に加え、二酸化炭素除去(CDR:Carbon Dioxide Removal)への関心の高まりが明確に見られた。CDRとは、大気中の二酸化炭素を除去し、長期間にわたって貯留する取り組みを指す※5。CDRを可能にする技術を「ネガティブエミッション技術(NETs:Negative Emission Technologies)」と呼ぶが、この技術は大きく分けて二つに分類される。一つが、森林等を活用した自然ベースの手法である。もう一つが、DAC(Direct Air Capture:大気中の CO2を直接回収する技術)などの工学的手法がある※5。企業は、自社のカーボンネガティブの目標達成の手段としてCDRプロジェクトにより創出されたカーボンクレジットを購入し、ポートフォリオを構築する。例えば、Microsoft社は、2030年カーボンネガティブ目標※6を掲げて、10種類計60件のCDRプロジェクトからカーボンクレジットを調達しており、2026年時点で合計7,800万tのカーボンクレジットを購入した※7。
本イベントでは、どのように適切なCDRポートフォリオを構築するかが議論されていた。単一のプロジェクト実施者からカーボンクレジットを調達することは脆弱性が高いとされており、誰から、どのような条件で、どの期間にわたり調達するかというポートフォリオ設計の考え方や実践例が共有された。
CDRポートフォリオに関する議論の中で、特に多く言及されていたのが「オフテイク契約」である。オフテイク契約とは、将来生み出されうるカーボン除去量をあらかじめ買い取る契約のことであり、供給者側にとっては事業化の資金的裏付けとなり、需要者側にとっては将来の供給確保につながる。CDRの分野では、技術やプロジェクトがまだ立ち上がり段階にあるものも多く、長期契約を通じて市場形成を支える発想が重視されていた。
また、CDRポートフォリオに「自然を活用した解決策(NbS:Nature-based Solutions)」を含むべきとの議論も目立っていた。プロジェクト創出を通じたコベネフィットやプロジェクトのストーリー性を重視して関心を寄せる意見が挙がっていた。
他方で、CDRポートフォリオを構築することは、実装上の課題も多い。第一に、高品質なカーボンクレジットの流通量がまだ限られている点である。クレジット購入者側がスタートアップ企業に積極的に投資や技術的支援を行うなど、CDRの取り組みを推進していく働きかけが必要とされている。第二に、物理的距離や地域性の問題である。自社拠点から遠く離れた地域のプロジェクトに依存することが、自社のリスク管理やステークホルダー説明の観点で適切かどうかは慎重な検討が必要である。第三に、コベネフィットの評価である。単なる炭素量だけでなく、生物多様性、水資源、地域雇用等への影響をどう測るかが重要となる。
こうした議論からは、CDR由来のカーボンクレジットを購入することをポートフォリオ構築ととらえ、地域との関係構築や長期戦略として扱っていることがわかる。日本企業にとっても、「どのような戦略に基づき、どのような品質管理と関係構築の下でCDRを活用しているか」が問われるようになるだろう。
※5)経済産業省,ネガティブエミッション市場創出に向けた検討会とりまとめ https://www.meti.go.jp/shingikai/energy_environment/negative_emission/pdf/20230628_1.pdf
※6)Microsoft Carbon dioxide removal https://www.microsoft.com/en-us/corporate-responsibility/sustainability/carbon-removal-program?msockid=27a037cb10cd6e122857206811866f21
※7)Updating our Carbon Removal Portfolio https://cdn-dynmedia-1.microsoft.com/is/content/microsoftcorp/microsoft/msc/documents/presentations/CSR/Updating-our-Carbon-Removal-Portfolio.pdf
5.スタートアップと投資家の視点から見たテックへの期待
本イベントでは、スタートアップピッチや投資家によるセッションも開催され、気候テックや資源循環テック市場の動向が共有された。ここで見えてきたのは、サステナビリティ課題の解決には技術革新が不可欠である一方、優れた技術があるだけでは市場実装に至らないという現実である。
スタートアップ企業の発表では、低コスト風力発電技術、使用済みプラスチックの分解技術、湿度と冷気を分離する省エネ空調技術などが紹介された。いずれも、既存技術の制約を乗り越える可能性を持つものとして注目されたが、同時に、量産化、設置先の確保、コスト競争力、規制適合、資金調達といった課題を乗り越える必要がある。
投資家の議論で印象的であったのは、事業拡大の各段階に応じた資金供給の設計である。特に、「最初のもの(FOAK:First of a Kind)」から事業を拡大していく過程では、研究開発資金、実証資金、工場建設資金、量産資金など、必要な資金の性格が大きく異なる。そのため、単一の投資ではなく、段階ごとに異なるリスク許容度を持つ資金を組み合わせる必要があるという説明がなされていた。
| 企業名 | 拠点 | 概要 |
|---|---|---|
| AIRLOOM※8 | 米国 ワイオミング州 |
低コストな発電技術を有する会社で、大規模な土地改変を必要とせず、風が弱い場所でも設置が可能な風力発電技術を開発している。2027年商用デモ化を目指しており、2030年にはSOM※9:260億ドルが期待できるとしている。 |
| SmartPlastic※10 | 米国 イリノイ州、 テネシー州 |
ECLIPSEというプラスチックを生物が分解可能なレベルの物質に処理する技術を開発しているスタートアップ企業である。同社の技術は、使用済みのプラスチック製品について、UV、熱、蒸気などを用いてポリマーの結合を分解し、最終的には微生物によって水・CO2・有機物に分解するものである。 |
| Helix Earth※11 | 米国 テキサス州 |
宇宙船の技術を応用した空調技術を開発している。既存のエアコンは外気の湿度も室内に取り込んでしまうことで除湿のためにもエネルギーを使用するが、同社の技術では、湿度を空調機にて切り分けたうえで冷気のみが室内に取り込まれる仕組みとなっている。そのため、コンプレッサーが長持ちするようになり、光熱費の削減にもつながる技術としている。現状のマーケットサイズでSOM:11億ドルに及ぶとしており、将来的にもさらなる事業規模拡大が見込まれている。 |
| BUCKSTOP※12 | 米国 ワシントン州 |
使用済み資源の残存価値分析を行う技術を開発している。現代社会において、資源の産出国が海外に依存していると、輸出規制などによって資源を調達できなくなるリスクが見込まれる。そのため、電子部品に含まれる金属資源を再利用することがリスク回避の観点で需要が高まると考えることができる。こうした背景を踏まえ、同社は、廃棄される前に使用済み資源の残存価値を評価し、回収・再利用することを促すシステムを開発した。 |
特に、サステナビリティの実現においてテックによる革新が求められる領域としては、製品品質との両立への期待が挙げられた。環境負荷の低い素材や再生材を使いたくても、耐久性、安全性、顧客要求を満たせなければ採用は進まない。したがって、技術導入はサステナビリティ部門だけでなく、研究開発、品質保証、営業等を巻き込む必要があるとの指摘があった。商品として消費者が魅力的に感じることができ、かつ環境負荷も低減できる技術開発が進むことへ期待が寄せられている。
テックへの期待が寄せられる一方で、改めて「人と人」の関係を重視する声も多く挙げられた。CDRプロジェクトや新規インフラ整備は、結局のところ技術的合理性だけでは前に進まず、地域への便益や納得感をどう生むかが重要である。中古市場も「人と人」の関係で市場が成立しており、リサイクルの推進においては既存の人間関係を読み解きながら突破口を探る必要がある。
こうした議論からは、スタートアップとの協業を通じて技術開発を着実に進める重要性とともに、自社としてステークホルダーとのコミュニケーションや製品品質の向上との両立といった観点でも取り組みを推進する両輪が必要との示唆が得られる。
※8)AIRLLOM社 webページ https://www.airloom.energy/
※9)TAM:ある事業が獲得できる可能性のある全体の市場規模、SAM:ある事業が獲得しうる最大の市場規模、SOM:ある事業が実際にアプローチできる顧客の市場規模
※10)Smart Plastic社 webページ https://changetheplastic.com/
※11)Herix Earth社 webページ https://helixearth.com/
※12)BUCKSTOP社 webページ https://www.buckstop.com/about-buckstop
6.日本企業への示唆と今後の方向性
本稿では、Trellis Impact 26の議論を①データセンター建設・運用とサステナビリティ、②資源循環を加速する技術・ツールと実装に向けた課題、③二酸化炭素除去(CDR)と自然関連ソリューション、④スタートアップと投資動向の観点で整理した。最後に、全体を通じて日本企業のサステナビリティ経営に対する示唆を三つに整理した。
第一に、サステナビリティを「開示」から「事業変革」へと移す必要があることである。現在、日本企業の多くでは、TCFD、TNFD、CDP等への対応が進んでいる。一方で、その対応が情報整理や文章作成に偏り、自社の事業構造や投資判断、製品設計、サプライチェーン運営の変革にまで十分につながっていない場合もある。本イベントでは、個別技術・ツールの共有の場でありながらもいかに事業構造に変化を起こすかが中心テーマとなっていた。既存のビジネスモデルでは本イベントで共有されていた技術も十分に機能しないと考えられる。今後は、開示項目に何を書くかだけでなく、自社の事業をどう変えるかを起点に議論することが重要になる。
第二に、AI活用による技術の発展と、その裏で起きている環境負荷・地域社会への影響を「統合」してとらえる必要があることである。AI活用はサステナビリティ推進においても、データ蓄積や効率化の観点で重要だ。しかし、その裏側でデータセンターの建設・運用は、電力使用、水使用、建設資材使用、土地利用などを通じて環境・地域社会への負荷が発生する。サステナビリティ推進のためと思って取り組んでいたことが、トータルで見ると環境・地域社会へ負荷を与えているという事態が起こるかもしれない。CDRの取り組みも、環境・社会へのコベネフィットを創出するようなストーリー性のあるプロジェクトへの投資に関心が寄せられている。資源循環においては、製品品質と再生材の活用の両立がハードルとして挙げられている。事業・環境・社会のトレードオフを回避し、シナジーを創出できるよう統合的な視点でのマネジメントが強く求められる。
第三に、「技術」に対する目利き力と、実装まで「伴走」する姿勢が必要であることである。サステナビリティ経営を実現するためには、リサイクル技術、設備効率、センサー、シミュレーション等様々な領域において新しい技術が社会に浸透していくことが欠かせないだろう。新技術は、自社内から誕生することももちろん考えられるが、スタートアップ企業が有する技術が大きなイノベーションを生むかもしれない。一方で、製造技術に関する領域などでは、ラボでの実証から実工場での実証の段階で大きな資金ギャップが生じる。根本のビジネスモデルを変革しうる技術を自社で定義し、関連技術を有するスタートアップ企業を発掘し実装まで伴走することは、企業にとって事業成長とサステナビリティの両立において有用だろう。
日本企業においては、「課題を認識しているが、どこから手をつければよいか分からない」という状況が少なくない。その場合、いきなり全社最適を目指すのではなく、まずは自社にとって影響の大きい論点から着手することが現実的である。たとえば、AI利用の拡大が進む企業であればデジタル基盤の環境負荷を確認する、素材利用の多い企業であれば再資源化可能性や回収スキームを検討する、自然依存度の高い企業であれば水や土地利用の観点からリスクを再評価する、といった進め方が考えられる。
今後、日本企業が国際的な競争力を維持しつつサステナビリティ課題に対応していくためには、情報開示の精緻化に加えて、事業・技術・地域との関係を見直す戦略的・実践的な取り組みが不可欠である。情報開示や規制対応の枠に縛られるサステナビリティ対応から、新技術を発掘し、より魅力的なサービス・商品を提供するための経営戦略としてサステナビリティが位置付けられることを期待したい。
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