東南アジアにおける自然災害の危険度
[このコラムを書いたコンサルタント]
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- 専門領域
- 海外リスクマネジメント
- 役職名
- 総合企画部 国際業務チーム長 兼 市場創生チーム長
- 執筆者名
- 中本 専 Atsushi Nakamoto
2015.5.29
近年、日本では甚大な被害をもたらし尊い人命を奪う大災害が次々と発生しています。一昔前ではあまり見られなかった極端な気象現象が増加傾向にあり、「異常気象」に分類される災害が相次いでいます。箱根山の火山活動の様子など、読者の皆さんも連日のように自然災害のニュースを目にされているのではないでしょうか。
同様にASEAN(東南アジア諸国連合)諸国でも、スーパー台風の襲来や集中豪雨による大洪水から少雨・干ばつまで、異常気象といわれる自然災害が確実に増加しており、現地企業の事業の継続・発展を脅かしています。
とはいえ、アセアン各国ごとにその自然災害の実態は大きく異なります。災害列島/災害大国と呼ばれる日本と同じように地震・津波、台風が発生しやすいフィリピンやインドネシア、自然災害の発生が比較的少ないとされるシンガポールなど、様々な特徴が見られます。このようなアセアン各国における自然災害の危険度を総合的かつ客観的に把握するには、国連大学が公表した最新データ「世界リスク指標:WRI(WorldRiskIndex)」が有効です。(表1に引用)
順位 | 国名 | WRI | 危険性 | 参考(エクスポージャー) |
---|---|---|---|---|
2 | フィリピン | 28.25 | 非常に高い | 52.46 |
9 | カンボジア | 17.12 | 27.65 | |
12 | ブルネイ | 16.23 | 41.10 | |
17 | 日本 | 13.38 | 45.91 | |
18 | ベトナム | 13.09 | 25.35 | |
34 | インドネシア | 10.55 | 19.36 | |
43 | ミャンマー | 9.14 | 高い | 14.87 |
88 | マレーシア | 6.51 | 中程度 | 14.60 |
90 | タイ | 6.38 | 13.70 | |
100 | ラオス | 5.75 | 9.55 | |
160 | シンガポール | 2.25 | 非常に低い | 7.82 |
(出典:国連大学「WorldRiskReport 2014」)
WRIは自然災害(地震、洪水、台風、干ばつ、海面上昇)に対し、①エクスポージャー ②脆弱性 ③対処能力<行政による管理能力等社会構造的側面> ④適応能力<環境・衛生・教育・人口構成等の側面>の4要素に基づいて算出されます。
アセアン10ヶ国中ワースト1位はフィリピンで世界171ヶ国中2位、日本は17位にランキングされます。ちなみに1位はバヌアツ(WRI:36.50)、3位はトンガ(同28.23)と地震・サイクロンに脅かされる南太平洋諸国が占め、最も危険度が低い171位にはカタールがリストアップされています。エクスポージャー(自然災害の危険にさらされている程度)をみるとフィリピン、日本とも高いものの、両国の対処能力と適応能力の大きな差がWRIの数値の差に結びついています。
次に一般的なイメージとして、アセアン主要国における自然災害リスクの大小を示すと表2のようになるでしょう。
WRI | 国名 | 地震 ・津波 |
洪水 | 台風・ 暴風雨 |
干ばつ・ 森林火災 |
---|---|---|---|---|---|
2 | フィリピン | ◎ | ◎ | ◎ | ○ |
18 | ベトナム | ○ | ◎ | ◎ | △ |
34 | インドネシア | ◎ | ◎ | ○ | ◎ |
88 | マレーシア | △ | ○ | △ | ○ |
90 | タイ | ○ | ◎ | ○ | △ |
160 | シンガポール | △ | ○ | △ | △ |
(筆者作成)
アセアン全体および各国における自然災害別のリスクマップについては、国連人道問題調整事務所<OCHA>のホームページに掲載されている「Regional Hazard Maps」と「National Hazard Maps」が参考になります。
自然災害に脆弱な東南アジアでは、近年の地球規模の異常気象と相まって、今後さらなる自然災害の発生頻度の増加、災害規模の拡大が懸念されます。災害の発生自体を防ぐことはできませんが、災害発生を前提に日ごろからの備えを怠らないことにより、災害発生時の被害を防止・軽減させることは可能です。まずは当該国・地域における自然災害リスクの特徴と実態をしっかり把握した上で、想定される事態に備えることが重要です。経営者から管理者、現場の従業員に至るまで、それぞれの役割に応じた意識・感性を持ち続け、ソフト・ハードの両面から対策・取り組みを継続して発展させることが必要とされています。
以上